文献情報
文献番号
202425014A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質による体細胞ゲノム毒性の検出手法およびin vitroリスク評価法開発のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24KD1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 薫(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部 第一室)
研究分担者(所属機関)
- 最上 由香里(重本 由香里)(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
- 杉山 圭一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター ゲノム安全科学部)
- 堀端 克良(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センターゲノム安全科学部)
- 伊澤 和輝(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター ゲノム安全科学部)
- 鈴木 孝昌(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター ゲノム安全科学部)
- 小泉 修一(山梨大学 医学部)
- 柳井 修一(独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 実験動物施設)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
18,638,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、化学物質等が細胞分裂終了後の体細胞にDNA突然変異やメチル化等のエピジェネティクス異常を引き起こすことが明らかとなり、ヒト健康影響が懸念されている。本研究ではゲノム毒性のin vitroリスク評価系を開発することを研究目的とする。
研究方法
化学物質によるゲノム毒性検出法の開発、神経細胞、ミクログリアの採材法開発と細胞老化度標の明確化、化学物質によるゲノム毒性等生体影響の最小化に関する検討、に取り組んだ。
結果と考察
・化学物質によるゲノム毒性検出法の開発
① 次世代シークエンサー(NGS)のエラーを低減し低頻度の体細胞突然変異を検出可能とするerror-corrected sequencing(ecNGS)を適用する。ecNGS解析に必要な量のDNA断片分子を確保する手法について検討し、PCR法により従来法の10分の1程度のDNA量(50ng程度、1万細胞程度)から十分量のDNA断片分子を確保することに成功した。また、細胞・DNA量の少ない条件に適用する手法を検討し、従来法の10分の1程度のDNA量(100ng程度、2万細胞程度)でecNGSによる解析を可能とする条件を見いだした。
② DNAメチル化等のいわゆるエピジェネティックな変化も、ゲノムの不安定性誘発の原因として無視できない。肝臓での遺伝子発現データを元に、遺伝毒性物質特異的に発現変化する4遺伝子(Bax, Btg2, Ccng1, Cdkn1a)が遺伝毒性の予測に有効であることを論文発表した。さらに、神経細胞、ミクログリアにおいてメチル化等エピジェネティクス異常を呈するターゲット遺伝子群等を文献調査した。その結果、グルココルチコイド受容体遺伝子(NR3C1). オキシトシン受容体(OXTR)、TAR DNA-binding protein 43(TDP-43)などを候補として見いだした。また、DNAメチル化異常を引き起こす側の化学物質、いわゆる“epi-mutagen”の存在に関しても調査を行った。
③ DNAメチル化異常の検出系として、ナノポアシークエンサーMinIONを用いて直接メチル化塩基を検出することによる簡便迅速な解析手法の開発を行った。さらに最近報告された片側鎖の変異、すなわちmismatch変異も検出できるというecNGS法であるHiDEF-Seq法についても応用可能性を調査した。
④ サイレントな細胞でのDNA影響のメカニズムとして、転写に関連した突然変異生成(Transcription-associated mutagenesis; TAM)に注目した。TAMの検出、解析にはDNA複製の影響を抑制しなければならないため、CDK阻害剤等を用いた適切な細胞分裂制御条件を明らかとした。
・神経細胞、ミクログリアの採材法開発と細胞老化指標の明確化
Miltenyi Biotec社のMACS Sample Preparation法を導入し、成体マウスと老齢マウスから、ゲノム毒性解析チームが求めるクオリティ(細胞数、生存率、純度)での神経細胞とミクログリアの分離手法を確立した。細胞レベルでの老化指標の整備を進め、分取細胞の培養方法を確立した。
化学物質によるゲノム毒性等生体影響の最小化に関する検討
・ミクログリアのゲノム毒性リカバリー法の基礎条件抽出と最適化を行った。そのために、Colony stimulating factor-1受容体(CSF1R)拮抗薬のON/OFFとミクログリアの(1)経鼻移植、及び(2)局所注入 の組み合わせにより、ミクログリアを移植、置換する技術を確立した。
① 次世代シークエンサー(NGS)のエラーを低減し低頻度の体細胞突然変異を検出可能とするerror-corrected sequencing(ecNGS)を適用する。ecNGS解析に必要な量のDNA断片分子を確保する手法について検討し、PCR法により従来法の10分の1程度のDNA量(50ng程度、1万細胞程度)から十分量のDNA断片分子を確保することに成功した。また、細胞・DNA量の少ない条件に適用する手法を検討し、従来法の10分の1程度のDNA量(100ng程度、2万細胞程度)でecNGSによる解析を可能とする条件を見いだした。
② DNAメチル化等のいわゆるエピジェネティックな変化も、ゲノムの不安定性誘発の原因として無視できない。肝臓での遺伝子発現データを元に、遺伝毒性物質特異的に発現変化する4遺伝子(Bax, Btg2, Ccng1, Cdkn1a)が遺伝毒性の予測に有効であることを論文発表した。さらに、神経細胞、ミクログリアにおいてメチル化等エピジェネティクス異常を呈するターゲット遺伝子群等を文献調査した。その結果、グルココルチコイド受容体遺伝子(NR3C1). オキシトシン受容体(OXTR)、TAR DNA-binding protein 43(TDP-43)などを候補として見いだした。また、DNAメチル化異常を引き起こす側の化学物質、いわゆる“epi-mutagen”の存在に関しても調査を行った。
③ DNAメチル化異常の検出系として、ナノポアシークエンサーMinIONを用いて直接メチル化塩基を検出することによる簡便迅速な解析手法の開発を行った。さらに最近報告された片側鎖の変異、すなわちmismatch変異も検出できるというecNGS法であるHiDEF-Seq法についても応用可能性を調査した。
④ サイレントな細胞でのDNA影響のメカニズムとして、転写に関連した突然変異生成(Transcription-associated mutagenesis; TAM)に注目した。TAMの検出、解析にはDNA複製の影響を抑制しなければならないため、CDK阻害剤等を用いた適切な細胞分裂制御条件を明らかとした。
・神経細胞、ミクログリアの採材法開発と細胞老化指標の明確化
Miltenyi Biotec社のMACS Sample Preparation法を導入し、成体マウスと老齢マウスから、ゲノム毒性解析チームが求めるクオリティ(細胞数、生存率、純度)での神経細胞とミクログリアの分離手法を確立した。細胞レベルでの老化指標の整備を進め、分取細胞の培養方法を確立した。
化学物質によるゲノム毒性等生体影響の最小化に関する検討
・ミクログリアのゲノム毒性リカバリー法の基礎条件抽出と最適化を行った。そのために、Colony stimulating factor-1受容体(CSF1R)拮抗薬のON/OFFとミクログリアの(1)経鼻移植、及び(2)局所注入 の組み合わせにより、ミクログリアを移植、置換する技術を確立した。
結論
ecNGS, ナノポアシークエンサー等の、化学物質によるゲノム毒性検出技術を確立した。エピジェネティクス異常を呈する可能性のある遺伝子群を抽出した。成体マウスと老齢マウスから、ゲノム毒性解析チームが求めるクオリティ(細胞数、生存率、純度)での神経細胞とミクログリアの分離手法を確立した。細胞レベルでの老化指標の整備を進め、分取細胞の培養方法を確立した。ミクログリアのゲノム毒性リカバリー法の基礎条件抽出と最適化を行い、ミクログリアを移植、置換する技術を確立した。
公開日・更新日
公開日
2025-06-02
更新日
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