多様なエイズウイルス株の感染を制御する宿主応答の同定

文献情報

文献番号
201009001A
報告書区分
総括
研究課題名
多様なエイズウイルス株の感染を制御する宿主応答の同定
課題番号
H20-政策創薬・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
森 一泰(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 駒野 淳(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 中村紳一朗(滋賀医科大学 動物生命科学研究センター)
  • 木村 彰方(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 宮澤 正顯(近畿大医学部 免疫学教室)
  • 岡村 智崇(医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
19,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
SIV動物モデルを用い、糖鎖修飾変異株生ワクチンが誘導する感染防御の機序、宿主応答を解明し、HIVワクチンが誘導すべき宿主応答を明らかにする。
研究方法
1) 糖鎖変異生ワクチンによる感染防御宿主応答の解析
生ワクチン(SIVmac239糖鎖変異株)に感作したアカゲザルはSIVsmE543-3チャレンジ感染後、11頭すべてで初期感染を抑制した。7頭は80週以上感染を抑制(感染制御群)、4頭では慢性期において持続感染が起こった(非感染制御群)。CD8抗体投与により感染制御におけるCD8+細胞の役割を調べた。細胞内サイトカイン染色法により細胞性免疫、サイトカイン応答性細胞を解析した。
2) 感染制御の個体差と関連する宿主因子の解析
活性化NK細胞レセプターであるNKG2DのリガンドであるULBP1-4遺伝子群のゲノム多様性を検討した。
3) マウスレトロウイルス感染抵抗性と関連する宿主応答の解析
ワクチンによりフレンドウイルス感染抵抗性を獲得したマウスと感受性マウスを用いて関連する免疫細胞の同定とその機序を解析した。
結果と考察
感染制御におけるCD8+細胞の役割が確認された。感染制御群と非感染制御群の感染の違いと相関する免疫細胞としてIL-15応答性CD8+細胞を発見した。IL-15によりIFN-γ産生、細胞障害性(CD107a発現)を示すCD8+T細胞とNK細胞で、宿主遺伝的性質の関与が示唆された。ワクチン効果に影響を与え多型性を示す免疫関連遺伝子がMHC以外にも存在することから、IL-15応答性NK細胞、CD8+T細胞のエフェクター機能の調節に働くNKG2DのリガンドであるULBP遺伝子を候補として解析を開始した。ULBP-4については25種類以上のアリルの存在が確認されたが、感染制御との明確な関連はなかった。マウスモデルにおいては、レトロウイルスに対する感染防御に働く免疫としてNK細胞が同定され、NKG2DのリガンドであるRAE-1の発現により感染防御免疫は制御されていた。レトロウイルス感染症に対する有効なワクチンは開発されていない。本年度の研究からNK細胞の活性化がウイルス感染細胞の排除に重要な役割を示すことが明らかとなった。マウスモデルにおいてはNKG2Dを介する活性化がワクチンによる感染制御と密接な関連を持つことが確認された。霊長類におけるULBP/ULBPを介したCD8+細胞のエフェクター機能の活性化が重要検討課題となった。
結論
糖鎖変異生ワクチンが誘導する感染防御免疫のひとつとしてIL-15応答性CD8+T細胞、NK細胞の重要性が明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2011-09-20
更新日
-

文献情報

文献番号
201009001B
報告書区分
総合
研究課題名
多様なエイズウイルス株の感染を制御する宿主応答の同定
課題番号
H20-政策創薬・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
森 一泰(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 駒野 淳(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 中村紳一朗(滋賀医科大学 動物生命科学研究センター)
  • 木村 彰方(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
  • 宮澤 正顯(近畿大 医学部 免疫学教室)
  • 岡村 智崇(医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIVの多様性と変異性はワクチン開発を困難にしている。ワクチン開発にはHIV感染を制御する宿主応答の解明が必要である。本研究ではエイズ動物モデルで確認されている生ワクチンが誘導する防御免疫の有効性と解明を目的とする。
研究方法
MHC遺伝子はSIV感染に対する感染制御に多大な影響を及ぼすことから、アカゲザルのMHC-I, -II遺伝子を決定し遺伝的多様性を確認した。SIVmac239 gp120の5,3カ所のN型糖鎖を欠失したSIV変異株を生ワクチンとして用いた。多様なウイルスに対する有効性を調べるためにワクチンとは異なる(HIV-1 subtypes間の相違と同等)SIVsmE543-3をチャレンジウイルスとして用いた。ワクチン群11頭と非ワクチン群3頭に静脈内接種した。感染制御と相関する免疫応答、遺伝子発現について解析した。
結果と考察
感染抑制は、初期感染期と慢性感染期で異なっていた。2頭で感染は防御された。9頭においても低レベルのウイルスが検出された後、感染後4-10週まで検出限界以下になった。7頭では感染後80週間以上抑制された。しかし4頭ではウイルス感染の持続感染が起こり、ワクチンとチャレンジウイルスとの組み換えウイルスが出現した3頭では発症した。次に感染制御された7頭に発症した3頭から分離されたSIVを混合しチャレンジ感染したところ、この多種多様のSIVの感染も制御した。以上の結果は、生ワクチンは多様性、変異性を特徴とするHIV-1感染を抑制する宿主応答を誘導することを示す。MHCアリルの違いからこの生ワクチンは宿主多様性の影響を受けにくいことが示された。感染制御群のCD8+細胞を一時的に消失させたところ、減少、増加と相関して感染は上昇し再び抑制された。しかしウイルス特異的CD8+T細胞の頻度、多機能性と感染制御との相関はなかった。ウイルス特異的CD4+T細胞の頻度と慢性感染との相関が見られた。ところがIL-15に応答するCD8+T細胞、NK細胞のレベルと慢性感染の抑制に相関が見られた。初期感染制御と関連する宿主遺伝子の探索をマイクロアレイにより行ない、マクロファージ系細胞、NK細胞機能と関連する遺伝子の発現が感染制御群で有意に高いことから自然免疫系のウイルス感染抑制の機序の関与が示唆された。
結論
糖鎖変異生ワクチンはHIVワクチンに求められる感染抑制に働く宿主応答を誘導する。宿主、ウイルスの多様性の影響を受けにくい自然免疫系の抗ウイルス作用と個体差が明らかなIL-15応答性CD8+T細胞、NK細胞が感染制御に働くことが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2011-09-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201009001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
エイズ発症動物モデルを用い、低病原性糖鎖変異株(生ワクチン)が誘導するエイズウイルス感染抵抗性に関する解析を行った。この宿主応答は、HIVの多様性、変異性に対しても有効であり、チャレンジ感染初期を強く抑制する宿主遺伝的多様性の影響が少ない宿主応答と慢性期の感染制御に重要な宿主遺伝的性質に影響を受けるCD8+細胞依存性免疫が含まれることを明らかにした。後者はIL-15誘導性のT細胞、NK細胞の重要が明らかとなった。しかし、中和抗体は検出されず、感染制御とCTLの頻度との相関は認められなかった。
臨床的観点からの成果
エイズウイルス感染制御に働く免疫として本研究で見出されたIL-15誘導性T細胞、NK細胞は、HIV感染者の防御免疫の診断、ワクチン開発研究における防御免疫の評価法への応用が期待される。エイズウイルス感染防御の機序の研究においては、当該免疫細胞の誘導の機序の解明による新たな治療法、ワクチン開発への貢献が期待される。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
エイズワクチン開発研究の現状を紹介する科学記事の中で、期待されていたアデノウイルスベクターワクチンの臨床実験の失敗の反省として、エイズウイルス感染を防御する宿主応答のメカニズムの研究を重視する国際的な動向、日本におけるセンダイワクチン研究、生ワクチン研究として本研究の重要性が紹介された。(朝日新聞2008年12月5日)

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
58件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
84件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sugimoto, C., Nakayama E. E., Shioda T., et. al.
Impact of glycosylation on antigenicity of simian immunodeficiency virus SIV239: induction of rapid V1/V2 specific non-neutralizing antibody and delayed neutralizing antibody following infection with an attenuated deglycosylated Mutant.
J. Gen. Virol. , 89 , 554-566  (2008)
原著論文2
Xing, H. Q., Mori, K., Sugimoto, C., et. al.
Impaired Astrocytes and Diffuse Activation of Microglia in the Cerebral Cortex in Simian Immunodeficiency Virus-Infected Macaques Without Simian Immunodeficiency Virus Encephalitis
J. Neuropathol. Exp. Neurol. , 67 , 600-611  (2008)
原著論文3
Xing, H. Q., Moritoyo, T., Mori, K.,
proinflammatory cytokines and its relationship with virus infection in the brain of macaques inoculated with macrophage-tropic simian immunodeficiency virus.
Neuropathology , 29 , 13-19  (2008)
原著論文4
Nakajima T, Ohtani H, Satta Y, et. al.
Natural selection in the TLR-related genes in the course of primate evolution.
Immunogenetics , 60 (12) , 727-735  (2008)
原著論文5
Miyazawa, M., S. Tsuji-Kawahara, and Y. Kanari. et. al.
Host genetic factors that control immune responses to retrovirus infections
Vaccine , 26 , 2981-2996  (2008)
原著論文6
Takeda, E., S. Tsuji-Kawahara, M. Sakamoto, et. al.
Mouse APOBEC3 restricts Friend leukemia virus infection and pathogenesis in vivo.
J. Virol , 8 , 10998-11008  (2008)
原著論文7
Urano E, Aoki T, Futahashi Y, et. al.
Substitution of the myristoylation signal of human immunodeficiency vius type 1 Pr55Gag with the phospholipase C delta 1 pleckstrin homology domain results in infectious pseudovirion production.
Virology , 22 (9) , 1081-1083  (2008)
原著論文8
Urano E, Kariya Y, Futahashi Y, et. al.
Identification of the P-TEFb complex-interacting domain of Brd4 as an inhibitor of HIV-1 replication by functional cDNA library screening in MT-4 cells
FEBS letters , 582 , 4053-4058  (2008)
原著論文9
Nakajima T, Nakayama EE, Kaur G, et. al.
Impact of novel TRIM5alpha variants, Gly110Arg and G176del, on the anti-HIV-1 activity and the susceptibility to HIV-1 infection
AIDS , 23 (16) , 2091-2100  (2009)
原著論文10
Miyazawa M., L. Lopalco, F. Mazzotta, S. et. al.
Intradermal delivery of The "immunologic advantage" of HIV-exposed seronegative individuals
AIDS , 23 , 161-175  (2009)
原著論文11
Sakurai F, Nakamura S, Akitomo K, et. al.
Adenovirus serotype 35 vector-mediated transduction following direct administration into organs of nonhuman primates
Gene Ther. , 16 (2) , 297-302  (2009)
原著論文12
Chie Sugimoto, Satoru Watanabe, Taeko Naruse, et. al.
Protection of macaques with diverse MHC genotypes against a heterologous SIV by vaccination with a deglycosylated live-attenuated SIV
Plos One , 5 , 11678-  (2010)
原著論文13
Naruse TK, Chen Z, Yanagida R, et. al.
Diversity of MHC class I genes in Burmese-origin rhesus macaque
Immunogenetics , 62 (9) , 601-611  (2010)
原著論文14
Itaya S, Nakajima T, Kaur G, et. al.
No evidence of an association between the APOBEC3B deletion polymorphism and susceptibility to HIV infection and AIDS in Japanese and Indian populations
J Infect Dis. , 202 (5) , 815-816  (2010)
原著論文15
Wichukchinda N, Nakajima T, Saipradit N, et. al.
TIM1 haplotype may control the disease progression to AIDS in a HIV-1-infected female cohort in Thailand
AIDS , 24 (11) , 1625-1631  (2010)
原著論文16
Tsuji-Kawahara, S., T. Chikaishi, E. Takeda, M. et. al.
Persistence of viremia and production of neutralizing antibodies differentially regulated by polymorphic APOBEC3 and BAFF-R loci in Friend virus-infected mice
J. Virol. , 84 , 6082-6095  (2010)
原著論文17
Takamura, S., S. Tsuji-Kawahara, H. Yagita, H. et. al.
Premature terminal exhaustion of Friend virus-specific effector CD8+ T cells by rapid induction of multiple inhibitory receptors
J. Immunol. , 184 , 4696-4707  (2010)
原著論文18
Aoki T, Miyauchi K, Urano E, et. al.
Improvement of lentiviral vector-mediated gene transduction by genetic engineering of the structural protein Pr55Gag
Gene Therapy , 17 (9) , 1124-1133  (2010)
原著論文19
Urano E, Ichikawa R, Morikawa Y, et. al.
T cell-based functional cDNA library screening identified SEC14-like 1a carboxy-terminal domain as a negative regulator of human immunodeficiency virus replication
Vaccine , 28 , 68-74  (2010)
原著論文20
Naoto Yoshino, Masaru Kanekiyo, Yukari Hagiwara et. al.
Intradermal delivery of recombinant vaccinia virus vector DIs induces gut-mucosal immunity
Scand. J. Immunol. , 72 , 98-105  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201009001Z