バイタルサインの統合的評価による急性毒性試験の判定基準策定と代替法に資する研究-診断学とAIによる致死性予測と人道的エンドポイントの設定-

文献情報

文献番号
202425010A
報告書区分
総括
研究課題名
バイタルサインの統合的評価による急性毒性試験の判定基準策定と代替法に資する研究-診断学とAIによる致死性予測と人道的エンドポイントの設定-
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KD1004
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部・動物管理室)
研究分担者(所属機関)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部 )
  • 種村 健太郎(東北大学大学院 農学研究科・動物生殖科学分野)
  • 相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
  • 鈴木 郁郎(東北工業大学 工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
18,530,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急性毒性試験は時代と共に簡便化され、使用する動物数が削減された。しかし、試験のエンドポイントは動物の「死亡」のままであり、死因、標的臓器等その内容は一切考慮されていない。そのため、ヒトの中毒治療に有用ではないとの批判がある。一方、動物福祉の観点から「死亡」をエンドポイントとすることに強い批判がある。本研究の目的は、ReductionとRefinementによりヒトの安全性確保に主眼を置いた新規急性経口投与毒性試験方法の開発である。近年の情報技術の果実であるウエアラブルデバイスは、バイタルサイン(VS)の取得を容易とし人の健康管理に利用されている。先行研究の成果により小動物でもその可能性が見出された。本研究はVS測定器の更なる改良を進め、in vitro代替法にて外れ値を示す化合物を動物に投与しVSを取得、血漿タンパク結合率測定、AIによるVSの統合的評価と致死性予測を目的とする。この結果、人の中毒治療に利用可能な情報取得、急性毒性試験の「人道的エンドポイント」として利用することで動物福祉を充足することが可能となる。
研究方法
本研究では、非拘束・覚醒状態のラットからの高精度な生体情報取得および解析技術の確立を目的とし、複数のアプローチを試みた。まず、カーボンナノチューブヤーン(CNT-Y)をラットの皮膚に縫着して表面電極として使用し、独自開発のトランスミッターと接続することで心電図(ECG)および脳波(EEG)を取得し、薬物投与によるバイタルサインや体温の変化を評価した。次に、一般化学物質のトキシコキネティクス補完を目的とし、ラット血漿中でのタンパク結合率を平衡透析法により測定した。また、モデル化合物としてTTXを用い、マウス海馬の網羅的遺伝子発現解析を行った。行動測定では、マウスに対する薬物投与後のプレパルス・インヒビション(PPI)変化を経時的に評価した。さらに、CNT-Y電極で動物から測定したECGをもとに、Python等のプログラミング環境を用、時系列データ解析に有用なMatrix Profile(MP)アルゴリズムにより異常検知の解析手法を構築した。脳波解析では、FFTによるPSDおよびバースト解析を組み合わせ、薬物や麻酔による神経活動変化を多角的に評価し、神経毒性予測への応用可能性を示した。
結果と考察
CNT-Y表面電極と独自開発のトランスミッターによるEEGおよびECG測定を行い、化学物質投与による生体反応の解析を試みた。体動によるノイズの影響が確認されたが、CNT-Yと皮膚との接触面に起因したノイズではなく、アンテナの振動が原因であった。そのため、特にカフェインのように興奮性の薬物では安定したデータ取得が困難であった。タンパク結合率の測定では全体的に低値であり、特に数物質は濃度測定が極めて困難であった。TTX投与による遺伝子発現変動から、ストレス応答やサイトカイン関連経路が抽出され、HTTなど神経疾患関連因子も示唆された。行動解析では、アセフェートやニコチンで驚愕反応の抑制、カフェインでの増強傾向が観察された。PPIではアセフェートとニコチンでの増強が見られた。プログラム作成においては、MPアルゴリズムをGUI化した解析ソフトを開発し従来より操作性が向上した。脳波解析では、FFT-PSDにより個体差と薬物反応の違いが示され、バースト解析ではアミトリプチリンとニコチン投与後に周波数帯域ごとの神経活動変化が観察された。特に麻酔中止後の変動は大きく、測定タイミングの重要性が示唆された。
結論
VSセンサーの開発では、CNT-Yを表面電極として独自開発のトランスミッターを通して、覚醒下、非拘束のヘアレスラットからECG及びEEGを測定が可能となった。脳及び心臓に作用する各種モデル化合物を投与し、その影響を捉えることに成功した。本研究で得られたデータのうちECGについてはMPアルゴリズムによるリアルタイム解析による異常検知プログラムを独自に開発した。EEGに関しては、データ取得の際の個体差について検討する必要はあるものの、FFTのPSD解析とバースト解析により、モデル化合物の特徴を捉えることに成功した。以上のことから、得られたデータを用いてVSの統合的評価による致死性予測が評価法としての可能が示された。急性毒性試験における遺伝子発現変動解析については、神経行動学的症状の1つとする論文から、TTXによるapathy誘発にHTTシグナルネットワークが関与する可能性が示唆されたが具体的なシグナルネットワークは不明でるため、さらなる機能解析が待たれる。また人への外挿性を考慮するとApathyのような一般状態の変化と脳波測定を組み合わせることで客観的な評価が可能になるものと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
202425010B
報告書区分
総合
研究課題名
バイタルサインの統合的評価による急性毒性試験の判定基準策定と代替法に資する研究-診断学とAIによる致死性予測と人道的エンドポイントの設定-
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KD1004
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部・動物管理室)
研究分担者(所属機関)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部 )
  • 種村 健太郎(東北大学大学院 農学研究科・動物生殖科学分野)
  • 相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
  • 鈴木 郁郎(東北工業大学 工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、ReductionとRefinementによりヒトの安全性確保に主眼を置いた新規急性経口投与毒性試験方法の開発である。近年の情報技術の果実であるウエアラブルデバイスは、バイタルサインの取得を容易とし人の健康管理に利用されている。先行研究の成果により小動物でもその可能性が見出された本研究はバイタルサイン測定器の更なる改良を進め、in vitro急性毒性試験代替法にて外れ値を示す化合物を動物に投与しバイタルサインを取得、タンパク結合率測定と予測、AIによるバイタルサインの統合的評価と致死性予測を目的とする。この結果、人の中毒治療に利用可能な情報取得、急性毒性試験の「人道的エンドポイント」として利用することで動物福祉を充足することが可能となり、また、in vivoとin vitroのギャップを埋める情報が得られることから、代替法の開発に寄与できる。
研究方法
本研究では、ICCVAM(2006)の急性毒性試験代替法の開発で使用された72化合物のうち、in vitro細胞毒性からLD50の予測において外れ値を示した22物質のうち入手可能な化合物について検討を行い、in vitro代替法の予測性向上に資する情報を得る。先行研究により開発されたVS測定器(体温、心電、呼吸数、脳波)の更なる改良を進め、化合物を動物に投与しVSを取得、並行して、急性毒性発現時にどのような現象が生じているかを血液生化学、遺伝子発現変動解析により、VSの妥当性を考察し人への外挿を図るとともに、化合物のタンパク結合率測定を実施、既存及び新たに取得したデータを用い、VSの統合的評価と致死性予測プログラムの開発を進めた。更に、脳波については別途解析を行い有害性発現予測を進めた。
結果と考察
カーボンナノチューブヤーン(CNT-Y)を用いた表面電極と独自開発のトランスミッターにより、覚醒下かつ非拘束状態のヘアレスラットから心電図(ECG)および脳波(EEG)の測定を可能とし、複数のモデル化合物投与による生理変化の検出に成功した。タンパク結合率測定を実施した6化合物は非常に低い結合率または濃度測定が困難であった。ECGデータについては、Matrix Profile(MP)アルゴリズムを用いたリアルタイム異常検知プログラムを構築し、致死性予測への応用可能性が示唆された。EEGは個体差の検討が必要ながらも、高速フーリエ変換(FFT)によるパワースペクトル密度(PSD)解析およびバースト解析により薬物特異的変化を捉えることができた。さらに、フグ毒(テトロドトキシン、TTX)による無気力状態(apathy)誘発には、ハンチントン病関連のHTTシグナルネットワークが関与する可能性が示された。
結論
VSセンサーの開発では、CNT-Yを表面電極として独自開発のトランスミッターを通して、覚醒下、非拘束のヘアレスラットからECG及びEEGを測定が可能となった。脳及び心臓に作用する各種モデル化合物を投与し、その影響を捉えることに成功した。本研究で得られたデータのうちECGについてはMPアルゴリズムによるリアルタイム解析による異常検知プログラムを独自に開発した。EEGに関しては、データ取得の際の個体差について検討する必要はあるものの、FFTのPSD解析とバースト解析により、モデル化合物の特徴を捉えることに成功した。以上のことから、得られたデータを用いてVSの統合的評価による致死性予測が評価法としての可能が示された。急性毒性試験における遺伝子発現変動解析については、神経行動学的症状の1つとする論文から、TTXによるapathy誘発にHTTシグナルネットワークが関与する可能性が示唆されたが具体的なシグナルネットワークは不明でるため、さらなる機能解析が待たれる。また人への外挿性を考慮するとApathyのような一般状態の変化と脳波測定を組み合わせることで客観的な評価が可能になるものと考えられた。本研究において開発したVS取得技術と統合解析手法は、動物実験の負担軽減と人道的エンドポイント設定への応用可能性を有し、急性毒性試験の新たな評価指標としての展開が期待される。また、in vivo・in vitro間のデータギャップを埋める情報として、代替法の整備・普及にも資するものである

公開日・更新日

公開日
2025-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202425010C

収支報告書

文献番号
202425010Z