オルガノイドおよびその共培養系を用いた化学物質の新規in vitro有害性評価手法の確立

文献情報

文献番号
202425007A
報告書区分
総括
研究課題名
オルガノイドおよびその共培養系を用いた化学物質の新規in vitro有害性評価手法の確立
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KD1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
戸塚 ゆ加里(星薬科大学 衛生化学)
研究分担者(所属機関)
  • 藤岡 正喜(公立大学法人大阪 大阪公立大学 大学院医学研究科 分子病理学)
  • 成瀬 美衣(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 美谷島 克宏(東京農業大学 応用生物科学部)
  • 広川 佳史(三重大学 医学研究科腫瘍病理学講座)
  • 西村 有平(三重大学 大学院医学系研究科統合薬理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
15,234,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質の開発には、安全性評価が不可欠であり、そのために実験動物を用いた反復投与試験等の実施が必要とされ、その結果が重視されることが多い。一方、動物愛護3Rs (Replacement・Reduction・Refinement)の観点から、化学物質の発がん性予測等の安全性評価の動物実験代替法の開発・導入が求められている。本研究では、マウス肝臓オルガノイドを用いた化学物質の新規in vitro有害性評価手法の確立を目指す。さらに、一次線毛発現がオルガノイドを用いた新規評価系の有用なエンドポイントとなり得るかどうかについても検討を行なった。
研究方法
オルガノイドの安定性について、2施設でマウス肝臓オルガノイドの培養を行い、各種遺伝子発現を指標に評価した。既知の遺伝毒性化学物質である、カルバミン酸エチル(EC)、モノクロタリン(MCT)、クマリン(CMR)、非遺伝毒性肝発がん物質であるフェノバルビタール(PB)、肝毒性物質であるアセトアミノフェン(APAP)を用いて、細胞毒性試験、小核試験、error-corrected NGS(ec-NGS)によるゲノム変異解析について検討した。
また、マウスに被験物質を投与し得られた肝臓を用いて、網羅的遺伝子発現解析を行い、被験物質曝露オルガノイドの結果と比較した。さらに、PBを処理したオルガノイドとマウス肝臓におけるメチル化解析を行った。In vivo毒性評価として、肝毒性物質のマウス反復投与試験を実施し、オルガノイドの毒性学的指標について検証することを目的に、標的臓器における毒性所見の発現を確認した。一次線毛発現を指標とする発がん予測、安全性評価法構築への応用を目的として、細胞における一次線毛を蛍光免疫染色法により可視化し、各種の発がん物質処理を施したマウス肝臓オルガノイドを用いて一次線毛の発現を検討した。
結果と考察
各種遺伝子発現を指標に評価した結果、両施設ともに遺伝子発現の大きな変化は認められず、異なる施設においても曝露実験期間を通して肝前駆オルガノイドとして安定であると考えられる。マウス肝臓オルガノイドに各化学物質を曝露した結果、細胞生存率の低下が認められ、遺伝毒性試験として小核試験を行った結果、EC、CMR、MCT、APAP曝露により小核出現頻度が上昇したが、非遺伝毒性発がん物質であるPB曝露ではコントロールと同程度であった。さらに、最も小核出現頻度が高かったMCTを曝露したオルガノイドについてec-NGS解析を実施した結果、変異頻度の上昇とC>A変異における変異シグネチャーパターンの変化が認められた。この結果より、マウス肝臓オルガノイドを用いた遺伝毒性評価ならびにec-NGSのような変異解析手法の利用が可能であることが示され、化学物質の安全性評価の動物実験代替法としてオルガノイドの利用が大いに期待できることが明らかになった。また、網羅的遺伝子発現解析により、被験物質を曝露したオルガノイドとマウス肝臓の遺伝子発現との比較検討により、炎症誘導や肝細胞の再生誘導に関連する経路が変動することが明らかになった。メチル化解析では、in vitroとin vivoの比較を行ったが、共通する変化部位や領域は同定されなかった。In vivoでの毒性評価では、肝臓を標的とした毒性発現化合物を新たにマウスに反復投与し、病理組織学的観察ならびに遺伝子発現解析を実施した。本実験より得られた結果は、オルガノイドとの比較により、新しい毒性学的指標を見出すための情報となる。また、発がん物質を処理したマウス肝臓オルガノイドでは、一次線毛の軸糸は認められなかったが、一次線毛の構造体である中心小体の発現に変化がみられ、特にPB処理オルガノイドにおいては中心小体の数が増加していた。
結論
これらの結果から、マウス肝臓オルガノイドは、細胞毒性からゲノム変異、エピゲノム、細胞構造に至るまで、多面的な評価が可能なin vitro評価系であり、動物実験代替法としての有用性が高いことが明らかとなった。今後はヒトオルガノイドやMPSへの応用、評価指標の標準化・自動化を通じて、より実用的かつ高精度な毒性評価法としての展開が期待される。

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

文献情報

文献番号
202425007B
報告書区分
総合
研究課題名
オルガノイドおよびその共培養系を用いた化学物質の新規in vitro有害性評価手法の確立
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KD1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
戸塚 ゆ加里(星薬科大学 衛生化学)
研究分担者(所属機関)
  • 藤岡 正喜(公立大学法人大阪 大阪公立大学 大学院医学研究科 分子病理学)
  • 今井 俊夫(国立研究開発法人 国立がん研究センター 研究所 動物実験部門)
  • 成瀬 美衣(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 美谷島 克宏(東京農業大学 応用生物科学部)
  • 渡邉 昌俊(国立大学法人三重大学 医学系研究科)
  • 広川 佳史(三重大学 医学研究科腫瘍病理学講座)
  • 西村 有平(三重大学 大学院医学系研究科統合薬理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質の開発には、安全性評価が不可欠であり、そのために実験動物を用いた反復投与試験等の実施が必要とされ、その結果が重視されることが多い。一方、動物愛護3Rs (Replacement・Reduction・Refinement)の観点から、化学物質の発がん性予測等の安全性評価の動物実験代替法の開発・導入が求められている。本研究では、マウス肝臓オルガノイドを用いた化学物質の新規in vitro有害性評価手法の確立を目指す。さらに、一次線毛発現がオルガノイドを用いた新規評価系の有用なエンドポイントとなり得るかどうかについても検討を行なった。
研究方法
市販のマウス肝臓オルガノイド(STEMCELL Technologies, ST-70932)を用いて、①培養ならびに化学物質曝露実験の至適条件の決定、②オルガノイドの安定性評価を行った。そして、フェノバルビタール(PB)、カルバミン酸エチル(EC)、モノクロタリン(MCT)、クマリン(CMR)、アセトアミノフェン(APAP)など、既知の遺伝毒性化学物質、非遺伝毒性化学物質、肝毒性物質を用いて化学物質曝露実験を行い、③細胞毒性試験、④細胞形態変化評価、⑤小核試験、⑥error-Corrected NGS(ec-NGS)によるゲノム変異解析を実施した。また、マウス肝臓オルガノイドに被験物質を曝露し、網羅的遺伝子発現解析を行うことで毒性の有無およびその機序について予測可能かを検討した。加えて、PBおよびECの3回連続ばく露によるメチル化変化をRRBS法により解析し、さらに4週間・13週間曝露したマウス肝臓を用いた網羅的遺伝子発現解析との相関性評価を行った。肝毒性陽性対照物質を用いたin vivoマウス反復投与試験も併せて実施し、in vitro結果との比較に用いる材料を取得した。さらに、一次線毛を指標とした新たな毒性評価法構築に向け、一次線毛発現および構造の定量解析手法を確立し、オルガノイドを用いてその評価を実施した。
結果と考察
オルガノイドの培養は、ドーム型培養法で長期培養が可能であることが明らかとなった。オルガノイドの培養・曝露条件は、施設間差の影響をほとんど受けず、安定的に実施可能であることが確認された。確立したドーム型培養法および化学物質曝露条件は、施設間で再現性があり、安定的な評価系として確立できた。PB、EC、MCT、CMR、APAPを曝露したオルガノイドでは、いずれも濃度依存的に細胞毒性が認められ、ECのみで顕著な形態変化スコアの上昇が観察された。小核試験では、EC、CMR、MCT、APAPで小核出現頻度の上昇が確認され、非遺伝毒性肝発がん物質であるPBではコントロールと同程度であったことから、マウス肝臓オルガノイドによる遺伝毒性評価の妥当性が示された。さらに、MCT曝露後のオルガノイドにおけるec-NGS解析では、変異頻度の上昇およびC>A変異のシグネチャーが観察され、Ames試験で陰性となるMCTの変異原性を本モデルで陽性と捉えられることが示された。また、オルガノイドを用いた網羅的遺伝子発現解析により、炎症応答、肝細胞再生、Hepatic steatosisに関連するシグナルの誘導が確認され、4週および13週曝露のin vivoマウス肝臓と高い相関が示された。メチル化解析では、EC曝露による染色体全体でのメチル化亢進傾向が見られたが、in vivoと共通するメチル化変化は得られなかったことから、さらなる化学物質曝露法や培養法の改善が必要とされた。加えて、クッパー細胞との共培養が技術的に可能であることを確認し、炎症応答を含めた複合的な毒性評価系の構築に向けた基盤が整えられた。一次線毛については、マウス肝臓オルガノイドを用いてその発現状態を調査し、特にフェノバルビタール処理による中心小体数の増加が観察された。以上の結果から、一次線毛の構造変化が新たな評価指標となりうる可能性が示された。
結論
本研究では、マウス肝臓オルガノイドを用いた化学物質の新規in vitro有害性評価手法の確立を試み、細胞毒性、遺伝毒性、ゲノム変異、エピゲノム、構造変化など多角的な評価を実施した結果、従来のin vitro試験を補完する結果が得られ、その有用性が示された。加えて、一次線毛を指標とした構造変化の解析は、これまでにない新たな毒性評価のエンドポイントとして、さらなる展開が期待される。オルガノイドは、生体に近い応答を示すだけでなく、in vivoとの相関性や再現性も高く、動物実験代替法としての実用化が期待される。今後は、ヒトオルガノイドや共培養系への応用、標準化・自動化を通じた社会実装に向けた取り組みが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202425007C

収支報告書

文献番号
202425007Z