化学物質による抗甲状腺作用および周産期の甲状腺機能低下に伴う次世代影響の評価に関する総合研究

文献情報

文献番号
202425005A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質による抗甲状腺作用および周産期の甲状腺機能低下に伴う次世代影響の評価に関する総合研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24KD2003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 武士(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
  • 石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
  • 赤根 弘敏(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 中西 剛(岐阜薬科大学 薬学部)
  • 松丸 大輔(岐阜薬科大学 衛生学研究室)
  • 石田 慶士(岐阜薬科大学 衛生学研究室)
  • 田熊 一敞(大阪大学 大学院 歯学研究科 薬理学教室)
  • 早田 敦子(髙野 敦子)(大阪大学 歯学研究科)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
28,767,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 化学物質による妊娠期の甲状腺機能低下は、発達神経毒性(DNT)等の次世代影響を誘発することが懸念されている。本研究では、既存ガイドライン試験を活用した抗甲状腺物質の効率的な検出および機序推定を可能とするin vivo試験法の確立を目的とする。また、レポーター遺伝子導入マウス(Syn-Repマウス)を用いて、甲状腺機能低下時の児動物、特に発達期脳における影響の解析を通じて、次世代影響を検出可能なエンドポイント/バイオマーカーを同定する。さらに、これらの結果を基に、ヒトiPS細胞等を用いたin vitro評価法の構築を目指す。
研究方法
 令和6年度は、新規被験物質としてTSH産生または受容体への阻害作用が知られる2種の化学物質を用いて、ラットへの28日間反復経口投与試験を実施した。また、ヨウ素取込み阻害剤を投与したラット甲状腺・下垂体サンプルを用いた網羅的遺伝子発現解析を実施し、新規マーカー候補の探索を行った。海外の動向調査として、OECD「Thyroid Disruption Method」およびICCVAM/EPA「甲状腺機能評価法バリデーション」に関する専門家会議に参画した。
 甲状腺機能低下時に誘導される次世代影響を同定するため、Syn-RepマウスにPTUを投与する検討を実施した。児動物の行動解析に加え、離乳期の21日齢の児動物の成長、形態形成、臓器形成等への影響を観察するとともに、血液生化学検査等、脳以外への影響についても検討を行った。さらに、ヒトiPS細胞による神経細胞分化誘導系において、次世代影響が知られる化学物質としてクロルピリホスを用いた検討を実施した。
結果と考察
 令和6年度までの研究成果から、ラット28日間反復経口投与試験における甲状腺の病理組織学的解析は、抗甲状腺物質の検出法として血中ホルモン値測定よりも鋭敏な指標となり得ることが示された。遺伝子発現解析により見出されたバイオマーカーであるNQO1・GPX2の免疫染色は、これらの病理所見を支持する手法として有用であった。また、甲状腺・下垂体・肝臓における各種マーカーを用いた免疫組織化学的解析によって、抗甲状腺作用の機序を推定可能であることが明らかとなった。本評価手法は、OECD TG407等、化学物質の安全性評価に汎用される既存のガイドライン試験において容易に実施可能であり、抗甲状腺物質の効率的なin vivo評価法として活用が期待される。
 Syn-Repマウスに抗甲状腺物質(PTU)を投与し、母動物・児動物への影響を評価した結果、脳におけるレポーター遺伝子発現が甲状腺機能低下によるDNTを検出するための有用なバイオマーカーとなり得ることが示唆された。周産期の甲状腺機能低下は児動物の甲状腺および脳以外の臓器に対してはほとんど影響を与えない一方で、行動試験がDNT検出の鋭敏なエンドポイントとなり得る可能性が示唆された。また、甲状腺ホルモン受容体(THRα)をノックダウンしたヒトiPS細胞の分化アッセイにより、陽性対照物質クロルピリホスのDNTを評価できたことから、評価への応用が可能であると考えられた。
結論
 以上の結果に基づき、ラット28日間反復投与毒性試験における、抗甲状腺物質の検出・機序推定のためのフローチャートを作成した。本手法は、既存のOECDガイドライン試験(TG407)において実施可能であり、抗甲状腺物質の簡便かつ効率的なin vivo評価法として利用し得る。
 マウス周産期甲状腺機能低下モデルを用いた母動物・児動物への影響評価により、閾値レベルの甲状腺機能低下状態においても行動異常を誘導し、児動物の脳発達に影響を及ぼす可能性が示された。このことから、甲状腺機能低下を誘導する化学物質のリスク管理では特に発達神経毒性(DNT)の評価に注意が必要であることが示された。また、Syn-Repマウスのレポーター分子が、甲状腺機能低下によるDNTを検出するための有用なバイオマーカーとなる可能性が示された。
 甲状腺ホルモン受容体αをノックダウンしたヒトiPS細胞の神経分化を指標にして、甲状腺機能低下時における化学物質の発達神経毒性を評価できる可能性が示唆された。本モデルは甲状腺機能低下時の化学物質影響に有用と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2025-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

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公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
202425005Z