文献情報
文献番号
202425001A
報告書区分
総括
研究課題名
化審法における発がん性定量評価を見据えた新たな遺伝毒性評価技術構築のための基盤研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KD2001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
杉山 圭一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター ゲノム安全科学部)
研究分担者(所属機関)
- 井上 薫(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
- 増村 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター安全性予測評価部)
- 安井 学(国立医薬品食品衛生研究所 ゲノム安全科学部)
- 堀端 克良(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センターゲノム安全科学部)
- 津田 雅貴(国立医薬品食品衛生研究所 ゲノム安全科学部)
- 伊澤 和輝(国立医薬品食品衛生研究所 ゲノム安全科学部)
- 鈴木 孝昌(国立医薬品食品衛生研究所 ゲノム安全科学部)
- 石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
25,719,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究においては、遺伝毒性を有する化学物質の発がん性の定量的評価に応用可能な遺伝毒性評価法の開発を目指す。具体的には、in vivo遺伝毒性試験結果からのPOD(Point of Departure)の設定が可能か検証を行なう。この研究課題に対してはデータの堅牢性を高める観点での新規のin vivo遺伝毒性試験の実施のみならず、遺伝毒性と発がん性の連関を認める新規バイオマーカーの探索も想定している。また、将来的に動物実験の実施が困難となる可能性も見据え、in vitro遺伝毒性試験から発がん性の定量的予測が可能か検証するための多面的な解析も進める。また、Ames/QSARを含むin silico評価手法の化審法でのより一層の有効活用を目指すべく、ガイダンス作成の基盤となる調査・研究を実施する。
研究方法
・有害性評価におけるin silico評価手法の新たな活用場面を提案するため、独自のリードアクロス(RA)を活用することを目指し、ケーススタディを実施した。
・In vivo遺伝毒性と発がん性の量的解析を行なった。
・陽性対照物質シスプラチンを用いる遺伝毒性プロテオミクス実験を行なった。
・クロマチン免疫沈降に適する固定組織可溶化条件を検討し、同法でアルキル化DNA損傷応答反応を解析した。
・既存のTGR試験由来ラットサンプルを用い、PECC-Seq法によるNGS解析を実施した。
・免疫組織化学染色法による小核検出法の有用性を検討した。
・In vivo遺伝毒性と発がん性の量的解析を行なった。
・陽性対照物質シスプラチンを用いる遺伝毒性プロテオミクス実験を行なった。
・クロマチン免疫沈降に適する固定組織可溶化条件を検討し、同法でアルキル化DNA損傷応答反応を解析した。
・既存のTGR試験由来ラットサンプルを用い、PECC-Seq法によるNGS解析を実施した。
・免疫組織化学染色法による小核検出法の有用性を検討した。
結果と考察
化審法での人健康に関する有害性評価におけるin silico評価手法の新たな活用場面を提案するため、スクリーニング評価において独自のリードアクロス(RA)を活用することを目指し、ケーススタディを実施した。トランスジェニック動物遺伝子突然変異試験(TGR試験)の用量反応データからベンチマークドーズ(BMD)法によりpoint of departure (POD)を算出し、変異原性POD(BMDL50)と発がん性POD(TD50、BMDL10)の間に概ね正の相関があることを示した。プロテオミクスとエンリッチメント解析系は、シスプラチンに対して明確ではないがDNA修復関連の生命活動を観察することができ、用量依存的によりも、経時的に細胞をサンプリングするほうがDNA修復関連の生命活動を検出できる傾向があった。クロマチン免疫沈降法(ChIP)を固定標本へ適用するため、組織可溶化条件を検討し、ChIPの適用性を検証した結果、固定標本 においてもChIP法および定量的PCRによりアルキル化DNA損傷応答反応を検出できることを明らかにした。また、次世代シークエンサーを用いた変異原性評価手法について、TGR試験に用いられたラットの肝臓組織を対象にPECC-Seq法を適用した結果、エレミシン0, 100, 400 mg/kg投与群でそれぞれ1.1×10⁻⁷、1.9×10⁻⁷、7.4×10⁻⁷の変異頻度が検出され、用量依存的な増加が確認された。また、変異スペクトル解析ではT>AおよびT>C変異の用量反応性が観察され、gptアッセイとの高い相関(R²=0.93)も得られた。小核を有する肝細胞(MNHEP)の検出法である肝臓小核試験と抗γ-H2AX抗体を用いたHLMN assayを比較し、組織切片を用いたMNHEP検出法としてHLMN assayの有用性を確認した。染色体不安定性により誘発されるacetamide誘発肝腫瘍においてMyc遺伝子を含む染色体外環状DNAの形成を明らかにし、acetamideの肝発がんにおけるchromothripsisの関与を支持する結果を得た。
結論
本年度は、化審法での毒性評価におけるRA有用性を検証するためのケーススタディを実施するとともに、変異原性PODと発がん性PODの相関性と換算係数を検討した。既存データを活用した化審法での人健康に関する有害性評価に、これら成果は活用できる可能性がある。また、プロテオミクス解析、固定化組織標本へのChIP技術の適用に関しても、新たな遺伝毒性試験として活用できる可能性を見出した。NGSを基盤とする変異原性検出手法により、ラット試料においても薬剤誘発性変異を定量的に検出できることが示された。gptアッセイとの高い相関も得られたことから、今後、レポーター遺伝子を必要としない通常ラット試料を用いた評価手法としての実用化が期待され、次世代のin vivo変異原性試験法として国際ガイドライン策定への応用が視野に入る。組織切片を用いてMNHEPの検出が可能なHLMN assayを構築した。染色体不安定性の観点から、本法は化学物質の発がん性評価への応用も期待される。
公開日・更新日
公開日
2025-05-23
更新日
2025-06-02