霊長類を用いた遺伝子治療法の評価システム開発研究

文献情報

文献番号
199700746A
報告書区分
総括
研究課題名
霊長類を用いた遺伝子治療法の評価システム開発研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 泰弘(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 山田章雄(国立感染研)
  • 寺尾恵冶(国立感染研)
  • 早坂郁夫(三和科学研究所)
  • 山海直(国立感染研)
  • 加藤賢三(国立感染研)
  • 河村晴次(東京大学)
  • 黒田洋一郎(東京都神経研)
  • 明里宏文(徳島大)
  • 岡田詔子(東邦大学)
  • 佐藤英明(東北大学)
  • 橋本光一郎(明治乳業)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
144,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性の遺伝子疾患、癌、エイズ等の慢性感染症および老人病に対する新技術治療法として遺伝子治療法の適用が期待され、検討され始めている。しかし、これらの疾患の治療に使用される遺伝子治療医薬品は開発途上のものが多い。特に今後、我が国独自で開発されてくるベクターがヒトへの導入を考えたデザインであること、また導入される遺伝子がヒト由来の遺伝子である事を考えると、生体内での安定性、安全性および有効性については、前臨床試験としてゲッ歯類でなくヒトに最も近縁な霊長類をもちいて評価する必要がある。また、遺伝子治療医薬品として開発の進んだ製剤については、霊長類をもちいて検査を行うための効率的な評価基準の作成と基準に基づく評価システムの確立が緊急の課題である。本研究班では、異なる機能を持つ研究グループを置き、早急に霊長類を用いた遺伝子治療法の評価システムを確立することが目的である。
研究方法
1)諸外国における遺伝子治療法の評価に関する情報の収集と国内でのベクター開発の現状を調査し、評価研究対象とする遺伝子導入法を検討する。平成9年度は遺伝子治療の対象とされている疾患、及び開発されつつあるベクター等について調査を進めた。2)マカカ属サル類をもちいて、2つの遺伝子治療法のin vivo評価を行う。すなわちアデノウイルスベクターと羊膜細胞を遺伝子キャリアーとする神経疾患治療技術、アデノアソシエートウイルスベクターを用いたパーキンソン病の遺伝子治療技術の検討である。平成9年度は国立神経センターとの共同研究として、アデノウイルスベクターを用い、ex vivoでサル羊膜細胞への遺伝子導入とレポーター遺伝子を導入し、カニクイザル脳内での発現と宿主の炎症反応について検討した。3)チンパンジーを用いたMRIによる体内臓器の画像解析とバイオプシー技術の確立をめざした。本年度はバイオプシー技術の基盤となるチンパンジーの体内構造を明らかにするため、山口大学獣医学科と共同してMRIにより、2例のチンパンジーについて全身映像を撮影した。4)霊長類の生殖細胞の凍結保存技術開発。未熟卵細胞の成熟培養、体外受精、顕微受精について基盤技術の確立を試みた。 5)各種霊長類由来細胞の初代培養技術、不死化技術、凍結技術の開発。本年度は, サル胎児由来大脳皮質ニューロンの初代培養系で、シナプス結合が形成されることが明らかになった。またチンパンジーのリンパ系細胞の不死化、サル類由来肺細胞の培養等を試みた。
結果と考察
1)評価基準調査グループは、平成9年度は遺伝子治療の対象とされている疾患、及び開発されつつあるベクター等について調査を進めた。わが国では感染症を対象としたDNAワクチン開発と実験用小動物を用いた免疫応答の誘導実験が精力的に行われつつある。霊長類を用いた評価系を確立するには、今後霊長類(マカカ属サル類及びチンパンジー)のMHCの多様性についても情報が必要になると思われる。2)平成9年度国立神経センターとの共同研究として、アデノウイルスベクターを用い、ex vivoでサル羊膜細胞にレポーター遺伝子を導入し、カニクイザル脳内での発現と宿主の炎症反応について検討した。ex vivoでの遺伝子発現は再現性よく行われた。また羊膜細胞は培養液に種々の成長因子を添加する事により、多分化能を示した。脳内での遺伝子発現は見られたが、強い炎症反応も惹起された。炎症反応を抑制するか、抗原性を減少させる方法を検討する必要があ
る。3)また造血幹細胞への遺伝子導入のための基盤研究として、平成9年度はカニクイザル骨髄幹細胞マーカーの検索を行い、幹細胞の分離、培養の基盤技術の確立を試みた。若齢のカニクイザル骨髄からCD34陽性、Cキット陽性の細胞を検出し、単離培養するためのシステムを検討している。回収率は高くないが、骨髄幹細胞の候補を得ることが可能になりつつある。さらに回収率の向上と安定培養法の確立が必要である。4)サル類の精子凍結保存、体外受精、初期胚培養の基盤技術は確立されつつある。本年度はサル類未受精卵の成熟培養のための条件検討、顕微受精法の確立、円形精子細胞の分離等について検討した。霊長類ではマウスのように例数を多くして検討することが困難であるが、顕微受精、胚培養では成功例を得ることが出来た。5)チンパンジーを用いた細胞培養、脳脊髄液の採取技術は検討中である。平成9年度はバイオプシー技術の基盤となるチンパンジーの体内構造を明らかにするため、山口大学獣医学科と共同してMRIにより、2例のチンパンジーの全身映像を撮影した。脊髄等の微小部分については、まだ安定した最適条件が得られていない。また内視鏡によるバイオプシー技術を確立するためと、動物福祉の観点から、チンパンジーの鎮痛・麻酔法について検討した。MRI撮影及び内視鏡観察に必要な麻酔法を定めることができた。6)霊長類由来細胞(神経系、腎、リンパ系、肝、骨髄等)の初代細胞培養技術について検討している。平成9年度は, サル胎児由来新鮮大脳皮質ニューロンの初代培養系については、シナプス結合が形成されることが明らかになった。またヘルペスウイルスサイミリを用いてチンパンジーのリンパ系細胞の不死化を行い、数個の細胞株を得ることが出来た。このほかにサル類由来肺細胞の培養等を試みた。
結論
霊長類を用いて遺伝子治療法のex vivoおよびin vivoでの評価システムを確立する事を目的としている。このため、異なる研究グループを置き、集約的・効率的に研究を進めている。
第1グループは生物製剤、医薬品安全性評価の経験者やベクター開発研究関連の指導者、学識経験者等の協力をあおぎ、霊長類を用いた遺伝子治療医薬品の評価基準を作成するための調査、政策研究を行っている。平成9年度は、DNAベクターを中心に遺伝子治療の対象とされている疾患、及び開発されつつあるベクター等について調査を進めた。第2グループは、マカカ属サルを対象として、遺伝子治療用ベクター等のin vivoでの発現効率、安定性および安全性に関する評価系を開発すると共に、中枢神経系および骨髄幹細胞を標的としたin vivo評価法の開発を行った。またベクターのex vivo評価のための主要組織の採取、供給を行っている。平成9年度は骨髄幹細胞の細胞表面マーカーの検索、初代神経細胞培養系の確立のための基礎条件の検討、各種臓器由来の初代細胞培養法の開発研究を進めた。また安定した胎児由来細胞供給のためのシステムを作成した。第3グループは、チンパンジーを対象として、ex vivo評価グループに供給する細胞採取技術を開発、バイオプシーのための基礎情報を得るため、チンパンジーの全身MRI像を撮影した。また末梢リンパ球の不死化をヘルペスウイルスサイミリを用いて試みた。第4グループは、霊長類の遺伝子、細胞など研究資源の保存および基盤整備のための研究を行う。特に霊長類で研究の推進が必要な、サル類生殖系列細胞の保存、培養、発生工学的手法に関する開発研究をおこない、遺伝子疾患モデル動物の開発や配偶子保存に関する有効な手段の開発を検討した。平成9年度は特に体外受精、顕微受精等に関する基礎条件検討を行った。第5グループは遺伝子キャリアーとして標的となり得る霊長類由来の神経系細胞、肝臓、腸、肺、腎臓、リンパ系、上皮および骨髄細胞の初代培養、不死化、凍結保存技術の開発を検討した。また霊長類由来の初代培養細胞を用いてex vivo でのベクター等の発現効率、安定性の評価を行う。平成9年度は主として神経系、免疫系細胞の初代培養と不死化について検討した。今後もそれぞれの分野で研究を進めるとともに、互いの情報交換を密にして研究を有機的に進める必要がある。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)