アジア地域における国際共同治験の推進に向けた環境整備に関する研究

文献情報

文献番号
202424035A
報告書区分
総括
研究課題名
アジア地域における国際共同治験の推進に向けた環境整備に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KC2014
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 宇山 佳明(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医療情報活用部)
  • 成川 衛(学校法人北里研究所 北里大学 薬学部臨床医学(医薬開発学))
  • 前田 実花(澤田 実花)(北里大学 薬学部)
  • 安部 賀央里(鈴木 賀央里)(名古屋市立大学 大学院薬学研究科)
  • 塚越 絵里(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
13,635,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者が,元名古屋市立大学薬学研究科教授(現食品安全委員会)・頭金正博より,研究分担者であった国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部・花尻瑠理に変更(厚生労働省発医薬1105第43号) 元名古屋市立大学薬学研究科教授(現食品安全委員会)・頭金正博の後任として,名古屋市立大学・安部賀央里が研究分担者として新規参加(厚生労働省発医薬1105第42号)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,ICH加盟国(地域)が少なく,また臨床試験に関する知見も少ない東南アジアや南アジア地域を主な対象として,国際共同治験(MRCT)の実施例調査により課題を抽出したうえで,臨床試験に関連する指針や臨床試験サイトの体制等調査や対照薬を含む試験デザイン等の調査を行い,それらを踏まえてアジア地域での国際共同治験推進のための規制環境及び臨床試験環境に関する留意点文書作成を行うことを目的とする.令和6年度は,東南アジア及び南アジア地域における,臨床試験に関連する指針や臨床試験サイトの体制等調査,対照薬を含む試験デザイン等に関する調査を実施した.
研究方法
アジア地域におけるMRCTの実施例について,PMDAのホームページで公表されている審査報告書,申請資料,添付文書,インタビューフォーム又はClinicalTrials.gov等のデータを収集・解析した.MRCTの対象疾患領域等の比較調査については,臨床試験データベース(Trialtrove)を用いてデータを抽出し,東南アジア及び南アジア地域が参加したMRCTの対象疾患領域等を比較した.臨床試験デザイン調査として,79のMRCT試験を解析対象とし,実施国及び用いられている臨床試験のデザインの詳細,有効性,安全性評価項目について,PMDAの申請資料概要及び審査報告書やPubMed等の文献データベースを活用し,システマティックレビューを実施した.臨床試験サイトの体制や設備等の調査において,南アジア地域調査では,委託業者を通じ,インド5施設,パキスタン5施設の臨床試験サイトに対して質問紙調査を実施した.韓国では,KoNECTとソウル大学病院の責任者を対象とした半構造化インタビュー,5つの臨床試験サイトへの質問紙調査を通じて,臨床試験環境と組織的なQMS活動の実態を総合的に調査した.南アジア(インド,パキスタン)における臨床試験関連の規制状況調査では,主に規制当局が運営するウェブサイト等に掲載されている臨床試験に関連するガイドライン等について調査した.
結果と考察
東南アジア及び南アジア地域を中心とする臨床試験に係わる調査を実施した結果,下記の結果を得た.
1. アジア地域におけるMRCTの実施状況と地域差
①東アジア(特に抗悪性腫瘍剤分野)では日本のMRCT参加が定着しているが,東南アジアの参加は限定的である.②ベンチャー企業などの小規模企業が実施するMRCTには多くのアジア諸国が参加しているが,日本が参加できていないケースが多い.③東南アジア(タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピン、ベトナム)ではMRCTが積極的に実施されつつある.南アジアのインドでは多くの臨床試験が登録されているが,国際共同治験の割合は大きくない.いずれの国でも悪性腫瘍領域が比較的多いが,各国の医療環境や社会事情を反映した疾患領域もみられる.
2. 臨床試験デザインと民族差
①MRCTの試験デザインはグローバルで統一されていることが多いものの,投与量や投与期間は国内試験と他地域で異なる傾向がある.②MRCTにおいて民族差を考慮した用量設定や安全性評価の重要性が示唆されており,外因性要因による地域差に着目し,補正手法を開発する必要がある.③安全性の指標における地域差は,医療制度の違いが要因の一つとして考えられる.
3. アジア地域の臨床試験体制と規制環境
①韓国はKoNECTを中心とした国家レベルの包括的支援体制を構築しており,人材育成,先端技術活用,効率的な被験者リクルートなど,MRCT推進のモデルとなり得る先進的な取り組みが見られる.②インドやパキスタンでは,MRCT実施に必要な基本的なインフラ,設備,SOPが整備されつつあるが,電子カルテ導入状況,MRCT経験値,規制手続きなど,改善すべき点も多い.③インドでは2019年のNew Drugs and Clinical Trials(NDCT)規則制定により,規制が合理化・透明化され,海外臨床試験データの受け入れも可能となっている.しかし,データ信頼性,倫理的問題,インフラ,人材,知的財産権保護(臨床試験データの独占権)の課題も残されている.④パキスタンではICH E6(R2)に準拠したGCP基準で治験が実施されてるが,資金不足,熟練人材の不足,規制の複雑さ,倫理審査の遅延,政府の規制の煩雑さ,文化的・宗教的信念など,多くの障害が残る.WHO ICTRPへの正式登録など,政府による包括的支援体制の強化が求められている.
結論
アジア地域でのMRCTにおいて,東南アジアや南アジアへの拡大には,多くの課題が存在することが示された.今後,アジア地域でのMRCT推進のためには,東南アジア・南アジア地域との連携強化,民族差を考慮した臨床試験デザインと評価手法の確立,国の課題に応じた協力体制の構築等が必要と考える.

公開日・更新日

公開日
2025-06-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-06-17
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収支報告書

文献番号
202424035Z