疾病解析・治療にむけた遺伝子研究資源基盤整備に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199700745A
報告書区分
総括
研究課題名
疾病解析・治療にむけた遺伝子研究資源基盤整備に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 雄之(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 平井百樹(東京大学大学院理学系)
  • 奥田晶彦(埼玉医科大学)
  • 菅野純夫(東京大学医科学研究所)
  • 榊佳之(東京大学医科学研究所)
  • 押村光雄(鳥取大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトゲノム全体のDNA配列決定プロジェクトとその一環として発現遺伝子部分(cDNA断片、expressed sequence tag, EST)のクローン化が大規模に進められ、総数60万以上が登録され、約8万といわれる遺伝子のほぼ半分に対応するクローンが分離されてきている。また、ヒト全塩基配列決定は21世紀初頭には完了する勢いである。しかし、その機能解明は遺伝子部分の確定と並行して進められたとしても、全体としては残された課題となると見られる。したがって、これまでに日本でも分離された数万のESTクローンを収集し、保管・供給することは依然として必要である。
そこで本研究では新たにESTの分離を試みるとともに、それらを基に完全長cDNAクローンを選択し、細胞で発現できる形として、産物の機能、発現制御等の研究の資源とする。また、個体レベルで機能を探るために、ノックアウトマウスを作って調べる必要のある遺伝子を選択し、ES 細胞として使われる129SV系統のマウスのゲノムDNAをクローン化して、供給できるようにする。さらに、遺伝子群が連関して発現することによりその機能が発揮されるような染色体領域について、ES細胞などへも特定染色体断片を移入することのできるの材料を開発する。これによって疾病関連遺伝子の同定から機能解明、さらにその疾病の成因解明そして診断、治療に結び付く研究の発展に資することを目的とする。これら遺伝子資材を必要な研究者に供給することにより、遺伝子機能解析による疾病研究の一層の発展が期待される。
研究方法
1)多サンプルが一挙に収集されることに対応するため、プラスミドDNA自動調製機を用い、100検体以上を一回に増幅し、自動希釈装置で多検体用に制限酵素等を希釈し、制限酵素切断を行った後、アガロースゲル電気泳動で、DNAの検査を行うシステムをcDNA断片EST (Expressed Sequence Tag)クローンの増幅・検査に適用する。(橋本)。2)DNAシークエンサーを用いてクローンDNAの部分塩基配列を決定し、インサートされたDNAの両端の同定を行う方法で部分塩基 配列決定をする。多数のESTクローンについてデータベースに登録されたシークエンスとのホモロジーサーチを自動的に行えるプログラムを利用して、その結果をデータベースに登録する。ヒト新規cDNAの分離をめざして、下記3),4)のように新たな組織のcDNAライブラリーについて行う(橋本、菅野、榊)。3)ヒト胃粘膜、サル脳 各部などの組織について、さらに完全長cDNAライブラリーの作成を行う。また、消化管粘膜のライブラリーの1パス塩基配列決定を行うとともに、他のライブラリーの1パス 塩基配列につき他機関と共同研究を行い、両者で得られた完全長cDNAクローンの 登録を目指す(菅野)4)神経細胞から多数のESTを分離し、その発現パターンを解析する。それらについて、完全長cDNAを分離し、そ の構造を明らかにする。そうしたESTの配列データと発現パターンの情報及び 完全長cDNAの配列とクローンをバンクに寄託する(榊)。5)染色体上の位置の未確定なヒト及びマウスクローンについて蛍光 in situハイブリダイゼーション(FISH) 及び雑種細胞パネルによるPCRスクリーニングにより、その位置を決定する(平井、橋本)また、霊長類cDNAのマッピ ングを行ない、ヒトでの相同遺伝子のポジショナル・クローニングの基盤とする(平井)。 6)マウス129SV系統のゲノムDNAライブラリーを作製し、転写関連因子やDNAの複製に関与している多くの遺伝子のゲノムDNAクローンを分離する(奥田)。7)微小核融合法によりヒト単一染色体を含むマウスA9細胞を新たに作製し、それら約700クローンについて優性選択マーカーによって標識されてES細胞にも導入可能なものであるかを染色体FISH法で確認す(押村)。
結果と考察
1) 胎児肺由来cDNA断片の既知クローン多数の寄託を受け、その内、435 個は増幅・保管して、リストアップした。 さらに、成人心臓由来のEST約 2,500クローンを収集・保管した。内、約550クローンはデータベースUniGeneでマップされた位置を確認し、マップされた既知遺伝子とホモロジーが高いものとして WWWホームページにリストした。そのうち、5'末端側のホモロジーとインサートDNAの長さから、完全長cDNAとなる約300クローンを選別した(橋本)。2)ヒト脳cDNAライブラリーから高密度cDNAフィルターを作製し、各種臓器のmRNAをプローブとしてその発現プロファイルを調べた。そのうち、脳に特異性の高いものを中心に約1,800クローンについて自動DNAシークエンサーを用いて、クローンDNAの部分塩基配列を決定し、インサートされたDNAの両端の同定を行った。それらの配列をDNAデータベース上で検索し、約半数が既知遺伝子とホモロジーの高いもので、残りはEST ということになるが、うち192クローンが新規のものと判明した。また、
それらクローンのうち、完全長cDNAの可能性のあるものが477クローン存在した。(榊)。このデータベースに登録されたシークエンスとのホモロジーサーチの結果をインターネットで公開できる形とした(橋本)。3)ヒト小腸粘膜から完全長cDNA分離のために、新たに考案したオリゴキャップ法によりcDNAライブラリーを作製し、完全長クローン569を選別し、それらをバンクデータベースに登録し、供給可能とした(菅野、橋本)。さらに、将来の完全長cDNAクローンの分離を念頭に、ヒト:回腸粘膜、十二指腸 粘膜、大腸粘膜、マウス:脳、肝臓、腎臓、サル:側頭葉などのオリゴキャップ法 による完全長cDNAライブラリーの作製を行った。(菅野)。4)FISH法を用いて新たにクローン化された新規の完全長cDNA約30につ きマップした。また、今後サル類(カニクイザル、チンパンジー)のcDNAのマップに 基づきヒトhomologを探索するための基礎研究として霊長類各種 とヒトの染色体の対応関係を明確にした(平井)。 6)129マウスゲノム DNA ライブラリーから、転写因子 EFP 及び UTF1 の遺伝子を含むファージ DNA を分離した。また、PCNA, DNA ポリメラーゼα等、DNA の複製に関与している多くの遺伝子に関して、それぞれの遺伝子の一部をPCR 法により調製した(奥田)。7)ヒト染色体およびその断片をES細胞を含め、種々の細胞へ効率良く移入できる形にして、研究者に提供できるようにするために、微小核細胞融合法により、マウスES細胞で発現するNeoマーカーで標識したヒト単一染色体保持細胞を作製し、これまでにヒト単一染色体を含む700マウスA9細胞クローンを得た。それぞれからDNAを抽出すると共に,染色体特異的DNAマーカーを用いたPCR法およびFISH法により6,7,11,19番染色体を含むA9細胞クローンを同定した(押村)。
結論
胎児肺由来cDNA断片435 個を増幅・保管して、リストアップした。 さらに、成人心臓由来のEST約 2,500クローンを収集・保管し、約550クローンはマップされた既知遺伝子とホモロジーが高いものとして WWWホームページにリストした。ヒト脳cDNAライブラリーから高密度cDNAフィルターを作製し、各種臓器のmRNAをプローブとしてその発現プロファイルを調べた。そのうち、脳に特異性の高いものを中心に約1,800クローンについて部分塩基配列を決定した。ヒト小腸粘膜からオリゴキャップ法によりcDNAライブラリーを作製し、完全長クローン569を選別し、それらをデータベースに登録し供給可能とした。これらのうち、新規の完全長cDNA約30につきFISH法を用いてマップした。129マウスゲノム DNA ライブラリーから、転写因子 EFP 及び UTF1 の遺伝子を含むファージ DNA を分離した。微小核細胞融合法により、マウスES細胞で発現するNeoマーカーで標識したヒト単一染色体保持細胞を作製し、ヒト単一染色体を含む700マウスA9細胞クローンを得て、6,7,11,19番染色体を含むクローンを同定した。

公開日・更新日

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