妊婦・授乳婦における医薬品の安全性に関する情報収集及び情報提供の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
202424023A
報告書区分
総括
研究課題名
妊婦・授乳婦における医薬品の安全性に関する情報収集及び情報提供の在り方に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KC2002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
後藤 美賀子(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 濱田 洋実(筑波大学医学医療系 総合周産期医学)
  • 佐瀬 一洋(順天堂大学大学院医学研究科臨床薬理学教室)
  • 伊藤 直樹(帝京大学 医学部小児科学講座)
  • 村島 温子(埼玉医科大学 リウマチ膠原病科)
  • 八鍬 奈穂(国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
6,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
妊婦・授乳婦における医薬品の安全性情報の欠落は、臨床において依然として大きな課題である。本研究は、医薬品添付文書の「9.4 生殖能を有する者」「9.5 妊婦」「9.6 授乳婦」各項目の記載内容について、臨床現場での判断材料として十分かどうかを検証し、市販後に蓄積されるリアルワールドエビデンス(RWE)を用いた適切な更新方法論を提案することを目的とした。また、得られた研究知見を2026年改訂予定の産婦人科診療ガイドラインに反映し、診療ガイドラインと添付文書との一貫性を確保する仕組みを構築することを目指した。さらに、妊娠登録研究制度および母乳中薬物濃度測定ネットワークの構築を推進し、これらの成果を社会的に実装するために産官学および患者と連携した包括的な情報提供体制を整備することを目的とした。
研究方法
研究は以下の6つの課題に分割され、臨床、疫学、規制科学などの領域を横断して実施した。
(1) 製薬企業へのアンケート調査として、日本製薬工業協会加盟70社にオンラインアンケートを実施し、添付文書9.4〜9.6項の改訂経験や改訂過程における障壁を調査した。アンケート結果は内容分析によりカテゴリ化し、集計した。
(2) 国内データソース整合性評価として、JDIIP(Japan Drug Information Institute in Pregnancy)の相談症例データベースに含まれる項目を整理し、欧州のConcePTIONプロジェクトが提示する妊娠登録共通変数との対照を行い、国内データの国際的活用可能性を評価した。
(3) 母乳中薬物濃度測定体制調査として、JDIIP拠点病院61施設を対象にオンライン質問票を配布し、母乳中の薬物濃度測定の実施状況、使用機器、外部委託の有無、今後のニーズを調査した。
(4) 国際規制およびRWE活用レビューとして、米国FDAのPregnancy and Lactation Labeling Rule(PLLR)および欧州EMAガイダンスをはじめとする主要な海外規制やRWEを活用した最新の妊娠登録研究を系統的にレビューし、日本の現状との相違点を明確にした。
(5) 産官学および患者を対象とした公開シンポジウムを東京都内で開催し、研究成果を広く共有し、政策提言の方向性を確認した。
(6) SEA-U分類 (Study、Experience、Animal experiment、Utility)について、妊婦・授乳婦向けの情報評価指標の妥当性と改善点を検討した。
結果と考察
アンケート結果によると、回答企業の61%が添付文書9.4〜9.6項の改訂を過去3年間で経験しており、改訂の契機として最も多かったのは企業中核データシート(CCDS)の改訂(59%)であった。また改訂相談の結果、82%が何らかの改訂に至ったが、完全に承認されたのは35%、一部修正後に承認されたケースが47%であった。市販後の臨床情報不足、過去情報再収集の負担、改訂基準の不透明性、海外本社との調整が改訂過程の障壁であることが明らかとなった。
JDIIP相談症例データベースの整合性評価では、薬剤曝露量や母体併存症に関するデータは充実していたが、出生後の小児アウトカムや父親情報などが不足しており、外部データとの統合・補完が今後の課題であることが判明した。
母乳中薬物濃度測定の調査では、実際に測定を行っている施設は12%に過ぎず、多くの施設で実施希望はあるものの、解析機器不足や輸送コスト、保険請求上の制約などの理由で導入が進んでいないことが分かった。
国際レビューでは、米国FDAのPLLR施行後の添付文書ではRWEが積極的に活用されていることがわかった。日本の添付文書運用は、同一薬効群内でのリスク評価にばらつきがあり改善の余地があった。SEA-U分類については、情報の階層化に有用と評価されたが、特に臨床経験データ(Experience領域)が不足している点が指摘され、今後のデータ収集強化が課題となった。
公開シンポジウムでは、産官学および患者連携の必要性について参加者から高い支持を得ることができ、特に患者の参画の重要性が再確認された。
結論
妊婦・授乳婦向け医薬品安全性情報を迅速かつ的確に更新するためには、RWEに基づく明確な改訂基準の整備、妊娠登録研究の国際的標準化、母乳中薬物濃度測定ネットワークの構築、市民参画の推進が不可欠である。今回得られた知見を基盤に、添付文書と診療ガイドラインの整合性を確保することで、妊婦・授乳婦における医薬品の適正使用推進に寄与する包括的な情報提供体制の構築を進めていく。

公開日・更新日

公開日
2025-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
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公開日・更新日

公開日
2025-06-09
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収支報告書

文献番号
202424023Z