臓器特異的ストレス応答探索マウスを用いた疾病予防法の開発

文献情報

文献番号
201008008A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器特異的ストレス応答探索マウスを用いた疾病予防法の開発
課題番号
H20-生物資源・一般-005
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
佐野 元昭(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 太田 成男(日本医科大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最終年度では、ALDH2*2-TGの解析結果から得られたホルミシス効果の治験を実臨床に応用するための研究を行った。
研究方法
1. ALDH2*2-TGおよび野生型マウスに大動脈狭窄による圧負荷をかけた。心エコー法を用いて心収縮機能を経時的に測定した。
2.解糖系とミトコンドリアの酸化的リン酸化のカップリングを制御するPyruvate dehydrogenase (PDH)のリン酸化レベルを経時的に観察した。③ 慢性心不全患者に対して心筋糖代謝を活性化させる治療が心機能や運動耐用能,QOLに与える影響を評価する臨床研究を立ち上げる。
結果と考察
ALDH2*2-TGの心臓は糖の取り込みや解糖系が活性化され、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化が低下しているがこの意義を検証した。グルコースがエネルギー産生の基質として使用されているだけでなく、ペントースリン酸回路を介した補酵素 NADPHの合成、核酸合成やアミノ酸合成、脂質合成にも転用されている現象を認めた。この結果、ストレス下の心筋細胞肥大、抗酸化ストレス応答の活性化を介した細胞死抑制効果を発揮している現象を明らかにしてきた。一方で、解糖系とミトコンドリアでの酸化的リン酸化の間には積極的にアンカップリングを起こして、ミトコンドリアでの活性酸素の産生を抑制していると結論づけた。
結論
ストレス下の心臓では糖代謝を活性化させることによって心肥大を起こし、壁応力を減少させ代償している。また,GSHの合成やミトコンドリアとのアンカップリングをおこさせることによって細胞内を還元状態に維持し細胞死を抑制している。
以上の結果は、慢性心不全患者の心筋糖取り込みを活性化させることによって、心機能や運動耐用能を回復させ、予後を改善させる可能性が示唆される。以上の仮説をインクレチン関連薬を用いて検証する。

公開日・更新日

公開日
2011-07-14
更新日
-

文献情報

文献番号
201008008B
報告書区分
総合
研究課題名
臓器特異的ストレス応答探索マウスを用いた疾病予防法の開発
課題番号
H20-生物資源・一般-005
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
佐野 元昭(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 太田 成男(日本医科大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルデヒドは、心不全、脳卒中などの動脈硬化性心血管疾患、がん、アルツハイマー病などの認知症や老化などの酸化ストレス関連性疾患の成因と密接に関わっている。一方で、細胞はアルデヒドによる生体内高分子障害を感知しシグナル伝達機構を活性化させて抗酸化ストレス機構を誘導し恒常性を維持する能力を保持している。これを”ストレス応答ホルメシス”という。ストレス応答ホルメシスは、酸化ストレス関連性疾患に対するcounter regulatory response であり、その分子メカ二ズムを解明し、ストレス応答ホルメシスを特異的に賦活化する方法を開発できれば、酸化ストレス関連性疾患の予防や治療に広く応用可能となる。
研究方法
1.肝臓での薬物代謝酵素誘導の分子メカニズム解明と化学発癌に対する抵抗性の検討
2.神経細胞における酸化ストレス適応機転の解明とその破綻の分子メカニズムの解明
3.血管におけるアルデヒドに対するストレス応答機構の解明と動脈硬化惹起性メタボリックストレスに対する忍容性の検討
4.糖代謝を改善させることによって心臓の抗酸化ストレス応答を亢進させる分子機序の実証と臨床応用
結果と考察
ALDH2*2-TGマウスの解析からアルツハイマー病や心不全、糖尿病の病態発症に深く関与するミトコンドリア酸化ストレスに対する代謝応答を明らかにしてきた。これらの知見からこれらの疾病に対する新規予防法や治療法の標的分子が浮き彫りになった。
結論
アルデヒドには組織障害性と内因性の抗酸化ストレス応答性の誘導による抗酸化ストレス機構の活性化という2面性を持つ。我々は、全身に少量のアルデヒドが慢性的に蓄積するモデルALDH2*2-TGマウスを用いて酸化ストレス障害による疾病発症の機序ならびに臓器特異的抗酸化ストレス応答機構の分子機序を解明することに成功した。本研究を通じて、心不全に対しては、糖代謝を活性化することによって抗酸化ストレス応答を増強させる分子機序を説明し、臨床研究開始までこぎつけた。

公開日・更新日

公開日
2011-07-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-01-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201008008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アルデヒドには組織障害性と内因性の抗酸化ストレス応答性の誘導による抗酸化ストレス機構の活性化という2面性を持つ。我々は、全身に少量のアルデヒドが慢性的に蓄積するモデルALDH2*2-TGマウスを用いて酸化ストレス障害による疾病発症の機序ならびに臓器特異的抗酸化ストレス応答機構の分子機序を解明することに成功した。
臨床的観点からの成果
心臓における糖の取り込みを亢進させる治療は、抗酸化ストレス、抗炎症、ミトコンドリア機能維持に働き、従来の心不全治療と並行して行えば、心不全患者の再入院や死亡を減らし、予後を改善する効果が期待される。糖尿病を合併した心不全患者へのインクレチン関連薬の投与が心機能や各種画像検査、バイオマーカーに与える効果を検討する臨床研究を企画し(慶應大学の倫理委員会にプロトコールを提出済み)開始予定である。
ガイドライン等の開発
心不全に合併した糖尿病の治療に対するエビデンスやガイドラインは存在しなし。インクレチン関連薬による介入試験の結果によっては、将来ガイドラインを書きかえる大規模臨床研究に発展する可能性がある。
その他行政的観点からの成果
糖代謝改善によって心不全患者の病気の進行を遅延させ、予後を改善させることが出来れば、末期集学的治療による過度な医療費の支出を抑えられる。
その他のインパクト
本成果は、日本薬理学会、日本分子生物学会をはじめ多くの公開シンポ、循環器系、内分泌代謝系、抗加齢医学系の多くの雑誌で研究成果は発信しつづけている。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
34件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201008008Z