遺伝子工学的手法による病態モデル培養細胞系作出と育成維持に関する研究

文献情報

文献番号
199700744A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子工学的手法による病態モデル培養細胞系作出と育成維持に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
田中 憲穂((財)食品薬品安全センター秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 押村光雄(鳥取大学)
  • 加藤秀樹((財)実験動物中央研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトのゲノムや、疾病メカニズムの解明には、培養細胞系や疾患モデル動物を用いた遺伝子レベルの解析が有効な手段となっている。本研究ではこれまで、それらの研究資材として重要な、特定ヒト染色体を含むマウス細胞クローンの樹立や、その染色体を疾患モデル動物由来の細胞株へ移入し、疾患関連遺伝子のマッピング・機能解析を行う手法の確立と標準化を目的として研究を進めてきた。本年度より、これまでの成果をさらに発展させるべく、マウスやニワトリの細胞を用いた一連の研究を行った。
1) ヒト単一染色体雑種細胞ライブラリーに加えて、ヒトゲノム解析研究に有用な、げっ歯類単一染色体雑種細胞の作製を試みた。本年度は、マウス初代繊維芽細胞を材料として、染色体導入の方法や、ホスト細胞の選定など、単一染色体雑種細胞の作成のための検討を行った。
2) ニワトリ由来のDT細胞は、遺伝子相同組み換えを高頻度に生じることが知られている。この細胞を単一ヒト染色体雑種細胞のホスト細胞として用いることにより、保持されているヒト単一染色体を遺伝子相同組み換えによって改変する、ヒト染色体改変(Chromosome surgery)のための検討を行った。
3) 細胞株の品質管理については、核型などそれぞれの株に特有の遺伝的特性を把握することが重要であることが認識されている。これまでに、分子生物学的手法を用いて、実験動物由来の細胞株の種、系統を同定し、遺伝的な品質管理を行うことを目的として、PCR法を用いる方法の開発・改良を行ってきた。本年度より、新たに染色体レベルでの遺伝的品質検査として、FISH法を用いた染色体ペインティングを導入し、評価・検討を行った。
研究方法
1) マウス単一染色体雑種細胞の染色体ドナー細胞には、染色体の親起源を明らかにするために、BALB/c系統とC57/BL6系統の系統間雑種個体の初代繊維芽細胞を用いた。15日齢胎児より繊維芽細胞を初代培養し、薬剤耐性マーカーであるpUCSV-BSDもしくはpPGKpuroをトランスフェクションした。トランスフェクション後、予備的な実験によって、ホスト細胞として優れた性質を持つことが明らかになったチャイニーズハムスターV79細胞と細胞融合し、ブラスチジン選択により融合細胞を得た。この融合細胞から微小核細胞を調製し、V79細胞と微小核融合することによって、単一染色体ライブラリー細胞の候補クローンを得た。これらのクローンについて、保持されているマウス染色体を同定するために、反復配列間PCR、分染法、FISH法による染色体解析を行った。
2)染色体導入に用いる微小核細胞融合法は、細胞の種類により多少異なるが、suspension type に比べadherent type の細胞に効率よく染色体が導入される。従って、本研究に用いるニワトリ由来のDT40細胞がsuspension type の細胞であることから、従来の標準的な微小核細胞融合法に加えて、ポリ-L-リジンでコーティングした6穴プレートにDT細胞を播き、遠心によって細胞をはりつけた後に微小核融合を行う方法を用いた。
3)各種系統のマウス脾臓細胞を20%FBSを含むRPMI1640で3日間培養した。R-band染色体標本作製のために培養2日目にチミジンを、また、3日目にBrdUを添加した。プローブには、市販されているマウスのCOT1 DNAをニックトランスレーションによりビオチン化UTPで標識して用いた。上記の染色体標本とin situ hybridization後、PIによるカウンター染色を行い、蛍光顕微鏡下で観察した。
結果と考察
1)マウス単一染色体雑種細胞を作製するにあたり、マウス初代繊維芽細胞の老化により、トランスフェクタントが得られないという問題が生じた。これに対しては、トランスフェクション直後にホスト細胞と細胞融合する手法を用いることにより対処することができた。この方法を用いて、32個の単一染色体ライブラリー細胞の候補クローンを得ることができた。そこで、これらのクローンに保持されているマウス染色体の同定を試みた。同定は、新たに開発した反復配列IAP-1にプライマーを設定した反復配列間PCRによりプレスクリーニングし、さらに分染法およびFISH法による核型解析を行う2段階の手法を用いた。その結果、得られた候補クローンのマウス染色体は、断片化や脱落を生じている可能性が示唆され、今後、ホスト細胞の選択や、一連の実験手法に検討を加えることとした。
2) 微小核融合法を、浮遊細胞に適した方法に改良することにより、DT細胞中にヒト染色体を保持するクローンが得ることができた。保持されている染色体の解析を行ったところ、2番染色体導入で4クローン、3番染色体導入では3クローン、11番染色体導入では1クローンにヒト染色体の存在が確認できた。また、ここで得られたヒト11番染色体を保持するクローンに関しては、この細胞より微小核細胞を調製し、マウスA9細胞へ再導入することが可能であり、DT40細胞中で相同組み換えにより改変したヒト染色体が再利用可能であることが示され、高精度な染色体改変を行うための基礎技術を確立することができた。
3) COT1 DNAを用いるFISH法によって、動原体部分で特に強い発色が観察され、動原体以外の染色体でもバンド染色様の発色が観察された。COT1 DNAは、主としてサテライトDNAに対してハイブリダイズすることが知られており、これをプローブに用いたFISH法の応用として、染色体の種の同定が挙げられる。今回の実験により、 染色体核型とFISHによる染色体ペインティングが細胞株の同定に有用であることが示されたので、今後はマウス以外の動物種、特にラットおよびヒトについても検討し、細胞株の遺伝的品質管理、特に、種が異なる細胞株間のコンタミネーションの有無に応用したいと考えている
結論
1)げっ歯類単一染色体雑種細胞の作製を開始し、系統間雑種マウス繊維芽細胞を材料として、単一染色体雑種細胞の作製技術の検討を行い、32株の候補クローンを得ることができた。また、完全長の導入マウス染色体を保持するクローンを効率よくスクリーニングする手法として、反復配列間PCR、マウス染色体およびその断片を特異的に検出するFISH法を確立した。本年度に得られた32クローンは、マウス染色体の断片化と脱落が生じる可能性が示唆されたので、外来染色体の断片化や脱落が生じにくいホスト細胞の検討を行う必要があると考えられる。
2) 相同組み換えを高頻度に起こすニワトリDT細胞をホストとしたヒト単一染色体雑種細胞の作製を行った。DT細胞中のヒト染色体は改変後にさらに他細胞に導入でき、機能解析による遺伝子マッピングや、染色体改変の重要な資材となると考えられる。
3) 実験動物由来の培養細胞株の種、系統の同定には、これまで開発・改良してきたPCR法を用いる方法に加えて、FISH法を用いる方法も有効であることを明らかにした。今後、既存の培養細胞株について、より実践的な作業を進めていく。

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