複数のガン防御機構を標的とした遅発型ガン発症マウスライブラリーの作製とガン予防戦略確立への応用

文献情報

文献番号
201008007A
報告書区分
総括
研究課題名
複数のガン防御機構を標的とした遅発型ガン発症マウスライブラリーの作製とガン予防戦略確立への応用
課題番号
H20-生物資源・一般-004
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
中西 真(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
11,875,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究ではガン防御機構を制御するシステムの二重、三重変異マウスを作製し、遅発型臨床ガン発症マウスライブラリーを確立して、ガン予防戦略に有益であることを明らかにすることを目的とする。
研究方法
1. 平成21年度に作成したTip60+/-Chk1+/-,Tip60+/-mdm2C462A,Chk1+/-mdm2C462A,p27-/-Chk2-/-マウスにおける経時的な発ガン率を病理学的に解析する。
2. これら二重変異マウスに発症したガンの組織学的、生化学的性質について明らかにする。


結果と考察
1. Tip60+/-Chk1+/-マウス群は野生型と比較して、生後1年半の時点において、有意ながん発症率の亢進は見られなかった。
2. Tip60+/-mdm2C462A,Chk1+/-mdm2C462Aマウス群については、野生型と比較して生後1年5ヶ月時において有意な発ガン率の低下は認めていない。
3. p27-/-Chk2-/-マウスについては若干の発ガン率亢進が認められるが、未だ有意ではなく、継続して解析を行っていく。
本研究の最終目標は、ガンの原因解明、治療、予防法開発の目的で、遅発型ガン発症モデルマウスライブラリーを作製することである。本年度作製の4種類のマウス群は、平成21年度に作製されたもので、平成23年3月末日現在、生後1年5ヶ月~7ヶ月程度となっている。この期間において二重欠損マウス群において有意なガン発症が認められないのは、これらマウス群が遅発型のガン発症を示すという予想からも支持される。今後の期間において有意なガン発症、あるいはガン発症の抑制が見られることが期待され、既に確立済みのこれらマウス由来のMEFs細胞の解析を含めて、ガン治療、予防戦略確立に有用なモデルマウスライブラリーの確立と解析を行う。

結論
ガン防御機構に重複不全を持つTip60+/-Chk1+/-, Tip60+/-mdm2C462A, Chk1+/-mdm2C462A,p27-/-Chk2-/-マウスを作製し、発ガン解析およびその原因について解明を進めている。現時点(1年6ヶ月程度)においてはこれらマウス群において有意なガン発症、あるいはガン発症抑制についての効果は認めていない。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

文献情報

文献番号
201008007B
報告書区分
総合
研究課題名
複数のガン防御機構を標的とした遅発型ガン発症マウスライブラリーの作製とガン予防戦略確立への応用
課題番号
H20-生物資源・一般-004
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
中西 真(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、臨床ガンの発症様式に即したガン防御機構機能不全マウスの作製を目指したものであり、ガン予防戦略確立には必要不可欠な道具となる。
研究方法
1. Chk1+/-Chk2-/-、Chk1+/-Chk2+/-二重変異マウスを作製し、これらマウスの自然発ガン率を解析する。
2. 上記マウス由来の初代線維芽細胞を用いて、DNA損傷修復、細胞周期チェックポイント、アポトーシス、早期細胞老化等のガン防御機構の不全について解析を行う。
3. DNA損傷部位へのdNTPs供給が適切なDNA損傷修復に重要であると考え、損傷部位へのdNTPs供給機構を明らかにする。
4. 新たに同定された上記経路を含む新たな二重変異マウスを作製し、自然発ガン率およびそれら由来の初代線維芽細胞におけるガン防御機構の解析を行う。
結果と考察
Chk1+/-Chk2-/-二重変異マウスは、早期細胞老化以外のDNA損傷反応を介した細胞応答における異常の結果、遅発型ガン発症を示した。このことから、これらマウス群は将来的なガン治療法の確立、あるいはガン予防法の開発に有用であると考えられた。一方、核内におけるdNTPsの濃度調節が変異率やDNA修復能に大きな影響を与えるという知見は外的に細胞内dNTPs濃度を制御することを可能にすれば、ガン発症を予防できる可能性を示唆しており非常に興味深い。計画2年度作製の4種類のマウス群は、現在生後1年5ヶ月~7ヶ月程度となっている。この期間において有意なガン発症が認められないのは、これらマウス群が遅発型のガン発症を示すという予想からも支持される。
結論
Chk1+/-Chk2-/-およびChk1+/-Chk2+/-二重変異マウスは、DNA損傷に反応した一過性細胞周期停止、およびアポトーシス誘導に重複した部分不全を持つマウスであり、ヒトに見られるガン発症と同様に遅発性にガンを発症した。これらマウスにおいては、DNA複製に依存した突発的なDNA損傷と、損傷を生じた細胞のアポトーシス誘導不全による蓄積が認められ、高発ガン率の原因と考えられた。さらに、dNTPs合成の律速酵素であるRNRがTip60ヒストンアセチル化酵素と直接結合して複合体を形成し、DNA損傷部位へ適切なdNTPsを供給していることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201008007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
複数のガン防御機構の不全を重複した変異マウスが遅発型のガン発症を示すことを世界で初めて報告した。また、DNA損傷部位へのdNTPs供給が適切なDNA損傷修復に重要であり、その詳細な分子機構を世界で初めて報告した。これらの知見は、学術的に見て非常に重要な発見であり、欧文一流紙に発表され、また多くの国際、国内学会シンポジウムで発表された。
臨床的観点からの成果
本研究により作製された遅発型ガン発症モデルマウスライブラリーは、これらマウス由来のMEFs細胞の解析を含めて、ガン治療、予防戦略確立に有用なツールが確立されたものと考えられる。具体的にはこれらマウスを用いて、抗酸化作用を持つ様々な食品、あるいは発ガンを高めると思われる食品群を投与して、それらの効果を判定可能と考えられる。
ガイドライン等の開発
現在特になし。
その他行政的観点からの成果
現在特になし。
その他のインパクト
2008年度報告のDNA損傷に依存した転写抑制機構に関する論文(Shimada et al. 2008 Cell)は、中日新聞の一面で取り上げられ、将来的なガン予防、治療法の確立に有用と報告された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
21件
欧文原著査読あり
その他論文(和文)
3件
日本語総説
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
シンポジウム
学会発表(国際学会等)
3件
招待講演
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sugiyama, M., Tanaka, Y.,Nakanishi, M.,et al.
Novel Findings for the Development of Drug Therapy for Various Liver Diseases: Genetic Variation in IL-28B Is Associated With Response to the Therapy for Chronic Hepatitis C.
J Pharmacol Sci.  (2011)
原著論文2
Shimada, M., Haruta, M.,Nakanishi, M.,et al.
PP1g is a phosphatase responsible for dephosphorylation of histone H3 at threonine 11 after DNA damage.
EMBO rep. , 11 , 883-889  (2010)
原著論文3
Niida, H., Shimada, M.,Nakanishi, M.,et al.
Mechanisms of dNTP supply that play an essential role in maintaining genome integrity in eukaryotic cells.
Cancer Sci. , 101 , 2505-2509  (2010)
原著論文4
Niida, H., Murata, K.,Nakanishi, M.,et al.
Cooperative functions of Chk1 and Chk2 reduce tumor susceptibility in vivo.
EMBO J. , 29 , 3558-3570  (2010)
原著論文5
Murakami, H., Aiba, H.,Nakanishi, M.,et al.
Y. Regulation of yeast forkhead transcription factors and FoxM1 by cyclin-dependent and polo-like kinases.
Cell Cycle , 9 , 3233-3242  (2010)
原著論文6
Sakai, S., Ohoka, N., Nakanishi, M.,et al.
Dual mode of regulation of cell division cycle 25A protein by TRB3.
Biol Pharm Bull. , 33 , 1112-1116  (2010)
原著論文7
Niida, H., Katsuno, Y.,Nakanishi, M.,et al.
Essential role of Tip60-dependent recruitment of ribonucleotide reductase at DNA damage sites in DNA repair during G1 phase.
Genes and Dev. , 24 , 333-338  (2010)
原著論文8
Ohoka, N., Sakai, S.,Nakanishi, M.,et al.
Anaphase promoting complex/cyclosome-cdh1 mediates the ubiquitination and degradation of TRB3.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 392 , 289-294  (2010)
原著論文9
Nakanishi, M., Katsuno, Y., Niida, H., et al.
Chk1-cycline A/Cdk1 axis regulates origin firing programs in mammals.
Chromosomal Res. , 18 , 103-113  (2010)
原著論文10
Nakanishi, M., Niida, H., Murakami, H.,et al.
DNA damage responses in skin biology-Implications in tumor prevention and aging acceleration.
J Dermatol Sci. , 56 , 76-81  (2009)
原著論文11
Shimada,M.,Yamamoto,A., Nakanishi, M.,et al.
Casein kinase II is required for the spindle assembly checkpoint by regulating Mad2p in fission yeast.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 388 , 529-532  (2009)
原著論文12
Zineldeen, D.H., Shimada, M., Nakanishi, M.,et al.
Ptpcd-1 is a novel cell cycle related phosphatase that regulates centriole duplication and cytokinesis.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 380 , 460-466  (2009)
原著論文13
Nishizuka, M., Kishimoto, K.,Nakanishi, M.,et al.
Disruption of the novel gene fad14 causes rapid postnatal death and attenuation of cell proliferation, adhesion, spreading and migration.
Exp. Cell Res. , 315 , 809-819  (2009)
原著論文14
Katsuno, Y., Suzuki, A.,Nakanishi, M.,et al.
Cyclin A-Cdk1 regulates the origin firing program in mammalian cells.
Cyclin A-Cdk1 regulates the origin firing program in mammalian cells. , 106 , 3184-3189  (2009)
原著論文15
Nagata, D., Hashimoto, Y., Nakanishi, M.,et al.
Peroxisome proliferator-activated receptor-gamma and growth inhibition by its ligands in prostate cancer.
Cancer Detect Prev. , 32 , 259-266  (2008)
原著論文16
Naruyama, H., Shimada, M., Nakanishi, M.,et al.
Essential role of Chk1 in S phase progression through regulation of RNR2 expression.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 374 , 79-83  (2008)
原著論文17
Shimada, M. and Nakanishi, M.
Checkpoints meet transcription at a novel histone milestone (H3-T11).
Cell Cycle , 7 , 1555-1559  (2008)
原著論文18
Hikosaka, A., Ogawa, K.,Nakanishi, M.,et al.
Susceptibility of p27 kip1 knockout mice to urinary bladder carcinogenesis induced by N-butyl-N-(4-hydroxybutyl)nitrosamine may not simply be due to enhanced proliferation.
Int. J. Cancer , 122 , 1222-1228  (2008)
原著論文19
Shimada, M., Niida, H.,Nakanishi, M.,et al.
Chk1 is a histone H3 threonine 11 kinase that regulates DNA damage-induced transcriptional repression.
Cell , 132 , 221-232  (2008)
原著論文20
Shimada, M., Yamada-Namikawa, C., Nakanishi, M.,et al.
Cdc2p controls the forkhead transcription factor Fkh2 by phosphorylation during sexual differentiation in fission yeast.
EMBO J. , 27 , 132-142  (2008)

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201008007Z