脳卒中後遺症治療を標的にする遺伝子改変病態モデルの開発

文献情報

文献番号
201008006A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中後遺症治療を標的にする遺伝子改変病態モデルの開発
課題番号
H20-生物資源・一般-003
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
植田 弘師(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 黒須洋(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
9,286,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳卒中は錐体外路系障害、高次脳機能障害、慢性痛等の後遺症を誘発するが、その責任脳領域と分子基盤は十分に解明されていない。これまでに我々は、虚血性神経細胞死に対する内在性保護因子として核蛋白質プロサイモシン・アルファ(ProTa)を発見している。本研究はCre-loxPシステムを利用して部位特異的ProTa欠損マウスを作製し、脳卒中後遺症モデルとしての正当性を評価することを目的とする。
研究方法
本研究では、Cre-loxPシステムを利用して、線条体、大脳皮質・海馬、視床領域特異的なProTa欠損マウスを作製した。虚血モデルは、塞栓子を用いた一過性中大脳動脈閉塞モデル(tMCAO)と血栓生成による中大脳動脈閉塞(PIT)モデルを用いた。行動学的解析では運動機能、記憶学習、知覚受容等を評価した。虚血による細胞死はPropidium iodide染色を用いた。
結果と考察
当該年度では、線条体領域特異的ProTa欠損マウスの無症候性虚血処置による生存率の低下および運動障害が生じることを明らかにした。またこれらの障害は、精神神経系治療薬の投与により顕著に改善したことから、後遺症モデル動物としての正当性のみならず治療評価系としての有用性も検証することが出来た。また大脳皮質・海馬領域特異的ProTa欠損マウスにおいては虚血依存的な精神神経障害関連行動を観察し、海馬領域における神経細胞死の増加を観察した。Cre遺伝子発現アデノウイルスベクターによる視床領域特異的ProTa欠損マウスにおいては、遺伝子欠損から長期の時間経過により神経障害性疼痛様の疼痛閾値の変調が観察されることを明らかにした。以上より脳卒中後遺症モデル動物の作製およびその解析を全て完了した。
結論
本研究では脳卒中後遺症モデルの作製に成功し、さらに既存薬剤による症状の改善効果を見出した。このことはこれらのモデル動物が創薬スクリーニングに応用できることを示している。脳卒中後遺症モデルとしての正当性が証明されたことより、今後脳卒中後遺症モデル動物としての活用、および新たな治療薬開発への応用が期待される。本研究により得られた成果は、知的財産化および論文として報告することを計画している。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

文献情報

文献番号
201008006B
報告書区分
総合
研究課題名
脳卒中後遺症治療を標的にする遺伝子改変病態モデルの開発
課題番号
H20-生物資源・一般-003
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
植田 弘師(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 黒須洋(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳卒中は錐体外路系障害、高次脳機能障害、慢性痛等の後遺症を誘発するが、その責任脳領域と分子基盤は十分に解明されていない。これまでに我々は、虚血性神経細胞死に対する内在性保護因子として核蛋白質プロサイモシン・アルファ(ProTa)を発見している。本研究はCre-loxPシステムを利用して部位特異的ProTa欠損マウスを作製し、脳卒中後遺症モデルとしての正当性を評価することを目的とする。
研究方法
本研究では、Cre-loxPシステムを利用して、線条体、大脳皮質・海馬、視床領域特異的なProTa欠損マウスを作製した。ProTaの発現は、免疫組織化学染色により評価した。虚血モデルは、塞栓子を用いた一過性中大脳動脈閉塞モデル(tMCAO)と血栓生成による中大脳動脈閉塞(PIT)モデルを用いた。行動機能学的解析では運動機能、記憶学習、知覚受容等を評価した。虚血による細胞死はPropidium iodide染色を用いて評価した。
結果と考察
研究初年度には、線条体、大脳皮質・海馬領域特異的ProTa欠損マウスを作製した。2年目には部位特異的なProTaの発現消失を確認し、無症候性虚血の条件を確立した。最終年度には、線条体領域特異的ProTa欠損マウスの無症候性虚血処置による生存率の低下と運動障害が生じることを観察し、これらの障害が精神神経系治療薬を投与することで顕著に改善されることを明らかとした。また大脳皮質・海馬領域特異的ProTa欠損マウスにおいては虚血依存的な精神神経障害関連行動を観察し、海馬領域における神経細胞死の増加を観察した。さらにCre遺伝子発現アデノウイルスベクターによる視床領域特異的ProTa欠損マウスの無症候性虚血下において、神経障害性疼痛に類似した疼痛閾値の変調が観察された。以上より脳卒中後遺症モデル動物の作製およびその解析を全て完了した。
結論
本研究では、脳卒中後遺症モデルの作製に成功し、さらに既存薬剤による症状の改善効果を見出した。以上の結果は、本研究で作製した動物の脳卒中後遺症モデルとしての正当性を証明するものである。今後脳卒中後遺症モデル動物としての活用、および創薬スクリーニングに応用することで、新規治療薬開発への貢献が期待される。本研究により得られた成果は、知的財産化および論文として報告することを計画している。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201008006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
代表者が発見した神経保護蛋白質プロサイモシンアルファ(ProTa)は虚血ストレス時に神経細胞から放出されることを見出しているが、このProTa遺伝子を脳領域特異的に欠損させたマウスを樹立し、脳虚血時における役割解明を試みた。これらのコンディショナル遺伝子欠損マウスでは一般行動に影響を及ぼす顕著な表現型を見出すことはなかったが、無症候性脳虚血を与えたとき、欠損脳領域に関連する機能不全が観察された。これらの病態は、脳梗塞性脳卒中の特徴ある後遺症を反映することが明らかになった。
臨床的観点からの成果
脳領域特異的にプロサイモシンアルファ遺伝子を欠損させたマウスモデルに無症候性虚血を与えた時に得られる、欠損脳領域ごとに異なる表現型の脳卒中後遺症モデルは、いずれも生存率には大きく影響しなかった。原因遺伝子を標的として作成した他の遺伝子欠損マウスでは短命であり、薬物治療研究が困難であった点を考慮すると本研究は大きな進歩性を有している。実際、精神神経系治療薬について臨床薬理学的治療効果の検討を行ったとき、脳卒中後遺症の表現型の幾つかは有効に治療出来るという結果を得ることができた。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ueda H, Matsunaga H, Uchida H et al.
Prothymosin alpha as robustness molecule against ischemic stress to brain and retina
ANNALS OF THE NEW YORK ACADEMY OF SCIENCES , 1194 , 20-26  (2010)
原著論文2
Matsunaga H, Ueda H
Stress-induced non-vesicular release of prothymosin-alpha initiated by an interaction with S100A13, and its blockade by caspase-3 cleavage
Cell Death and Differentiation , 17 , 1760-1772  (2010)
原著論文3
Ueda H
Prothymosin alpha and cell death mode switch, a novel target for the prevention of cerebral ischemia-induced damage
Pharmacology & Therapeutics , 123 , 323-333  (2009)
原著論文4
Fujita R, Ueda M, Ueda H et al.
Prothymosin-alpha plays a defensive role in role in retinal ischemia through necrosis and apoptosis inhibition
Cell Death and Differentiation , 16 , 349-358  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201008006Z