法規制薬物の分析と鑑別等の手法開発に向けた研究

文献情報

文献番号
202424001A
報告書区分
総括
研究課題名
法規制薬物の分析と鑑別等の手法開発に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KC1004
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
田中 理恵(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
  • 三澤 隆史(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
4,860,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,麻薬・向精神薬取締法,覚せい剤取締法,大麻取締法及びあへん法などで厳しく規制される薬物及び植物の効果的な鑑別法を薬物取締行政に提示するために実施する.令和7年3月時点で,医薬品医療機器等法下,指定薬物として規制されている薬物は2467種類となった.また,指定薬物から麻薬に規制強化された薬物は87種類にも及ぶ.これら薬物は,所持・使用が禁止されているが,構造類似体が多く存在し,また,ほとんどの薬物において代謝物情報が未知であるため,特に,生体試料中薬物の鑑別は困難を極めている.そこで,この研究では,主に生体試料中規制薬物及び代謝物の迅速で高感度,かつ選択性の高い鑑別法開発に焦点をあて,新規に開発された質量分析装置等を用いた検討を行う.また乱用される植物について,成分分析及び遺伝子分析による鑑別法の開発を行う.以上,本研究は,法規制薬物及び植物について効果的な鑑別を行うための手法を確立することを目的としている.
研究方法
GC-MSに接続して,高速加温による迅速分析を可能とする機器である直接試料導入装置QuickProbe🄬 GC-MSを用いたTHC類似化合物等含有製品の分析を検討した.大麻尿試験においてGC注入口で誘導体化するIPD-TMS誘導体化法の検討を行った.IPD-TMS誘導体化法を用いた尿中Δ9-THC-COOH,Δ8-THC-COOH 及び7COOH-CBDのGC/MS分析法におけるCBD代謝物の注入口内での安定性を検証し,対象物質にΔ9-THC-COOHグルクロン酸抱合体も追加し,定量性の検証のためバリデーションを行った.インターネット上等で流通するTHCアナログの含有を標榜する製品の流通実態調査を行い,成分の同定を行った.天然由来カンナビノイドの標準品確保を目的に大麻草より成分の単離を行なった. THC類縁体のΔ8-THCOP/Δ9-THCOPおよびΔ8-THCHO/Δ9-THCHO, 9S-HHCHO/9R-HHCHOを高純度に合成することを目指した.
結果と考察
法規制薬物の鑑別に関する研究では,QuickProbe GC-MSを用いて危険ドラッグ7製品,THC類似化合物を含有する16製品,CBD,THC等の含有が推定される11製品の分析を検討した.各化合物の標準溶液を分析した結果,約1分間の高速分析でCBDとΔ9-THCはピーク分離可能で,その他の化合物もスペクトルライブラリー参照で確認が可能であった.各製品試料表面にプローブを軽く付着させて試料採取とし,測定した結果,糖,油脂等の試料基質には概ね影響を受けずに主な含有化合物が検出できた.本分析法は非常に高速かつ前処理不要で,さらにEIマススペクトルライブラリーを活用できるので様々なTHC類似化合物含有製品のスクリーニング分析法として有用であることが示唆された.大麻尿試験においてGC注入口で誘導体化するIPD-TMS誘導体化法を検討した.Δ9-THC-COOH Gluc加水分解率は81%以上で,バリデーションの結果は良好であった.定量分析用のSIM測定と同時に実施したSCAN測定の結果,低濃度の試料でも各代謝物を識別可能なマススペクトルが取得可能で,高感度な定量分析と定性分析を同時に実施することが可能であることが示唆された.CBPの含有を標榜する製品からΔ8-及びΔ9-THC-O-propionate,Δ4(8)-iso-THC-O-propionateを,THCMの含有を標榜する製品からΔ8-及びΔ9-THCMを,HHCPMの含有を標榜する製品から9(R)-HHCPMを同定した.THCA種の大麻草の葉より成分の単離を行なった結果、Δ9-THCの混在なくΔ9-THCAが得られた.Δ8-及びΔ8-THCOPの合成では,異性体であるΔ9体が副生成物として得られ,フラクションごとに純度を確認することで異性体の除去が可能で, HPLC精製で目的の異性体Δ8-及びΔ9-THCOPを高純度に得た.Δ8-THCHOの合成は,Δ8-THCOPと同様に酸触媒下で環化反応を行ってΔ8-THCHが得られ,フラクションごとの純度分析を行うことで高純度に得ることが可能であった.Δ9-THCHは CBD誘導体のCBDHを経由することでΔ9-THCHを高純度に合成でき、それぞれアセチル化してΔ8-THCHO/Δ9-THCHOを得た.Δ8-THCHを出発原料として,還元および分離精製を行うことで9S-HHCHおよび9R-HHCHを単離しそれぞれアセチル化して9S-HHCHOおよび9R-HHCHOを得た.各THC類縁体を標品として提供した.
結論
本研究は,厚生労働省の薬物取締行政に直接貢献する研究であり,国の乱用薬物対策に即したものである.また今後出現しうる新規の乱用薬物の鑑別についても有用であると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2025-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
202424001B
報告書区分
総合
研究課題名
法規制薬物の分析と鑑別等の手法開発に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KC1004
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
田中 理恵(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
  • 三澤 隆史(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 緒方 潤(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,麻薬・向精神薬取締法,覚せい剤取締法,大麻取締法及びあへん法などで厳しく規制される薬物及び植物の効果的な鑑別法を薬物取締行政に提示するために実施する.令和7年3月時点で,医薬品医療機器等法下,指定薬物として規制されている薬物は2467種類となった.また,指定薬物から麻薬に規制強化された薬物は87種類にも及ぶ.これら薬物は,所持・使用が禁止されているが,構造類似体が多く存在し,また,ほとんどの薬物において代謝物情報が未知であるため,特に,生体試料中薬物の鑑別は困難を極めている.そこで,この研究では,主に生体試料中規制薬物及び代謝物の迅速で高感度,かつ選択性の高い鑑別法開発に焦点をあて,新規に開発された質量分析装置等を用いた検討を行う.また乱用される植物について,成分分析及び遺伝子分析による鑑別法の開発を行う.以上,本研究は,法規制薬物及び植物について効果的な鑑別を行うための手法を確立することを目的としている.
研究方法
Dextromethorphan又はエナンチオマーのlevomethorphanを投与したラット毛髪試料等を用い,SFEのキラルカラムを用いたLC-MS/MSによる識別法を検討した.Δ9-及びΔ8-THCの3位にC3からC8までの直鎖状アルキル鎖を有する12化合物について,GC-QTOF MS及びLC-QTOF MSを用いた一斉分析法を検討した.直接試料導入装置QuickProbe🄬 GC-MSを用いたTHC類似化合物等含有製品の分析を検討した.大麻尿試験においてIPD-TMS誘導体化法を検討した.THCアナログ含有を標榜する製品の流通実態調査を行った.カンナビノイドの標準品確保を目的に大麻草より成分を単離した.∆9-THC,∆8-THC及びそれらの誘導体の効率的な合成法を検討し 高純度標準品の確保を目指した. コンピューターモデリングで合成化合物のカンナビノイド受容体への親和性評価を行なった. テルペン合成酵素遺伝子の配列情報を用いた大麻種の判別法の検討のため遺伝子を取得し,配列情報を調査した.
結果と考察
法規制薬物の鑑別に関する研究では,dextromethorphan又はlevomethorphanを投与したラット毛髪試料等のLC-MS/MSによる摂取識別法の検討の結果SFEによる前処理法は毛髪中の薬物及び代謝物を高効率かつ簡便に検出・識別可能であった.Δ9-及びΔ8-THCの3位にC3からC8までの直鎖状アルキル鎖を有する化合物の一斉分析法を検討した結果,GCではHP-5MSカラム,LCではCortecs C18カラムを用いて化合物を明確に分離できた.QuickProbe GC-MSは非常に高速かつ前処理不要であり,様々なTHC類似化合物含有製品のスクリーニング分析法として有用であることが示唆された.IPD-TMS誘導体化の有効性を検証した結果,Δ9-THC-COOHグルクロン酸抱合体も高感度に分析可能で,分析精度も良好で同時にSCAN測定もできることから大麻尿の高感度な定量分析と定性分析の同時に行えることが示唆された.THCアナログの含有を標榜する製品からΔ8-及びΔ9-THCV,Δ8-及びΔ9-THCB,Δ8及びΔ9-THCH,Δ8-及びΔ9-THCjdを同定した.HHCPOの含有を標榜する製品から9(R)-及び9(S)-HHCPOを,CBPの含有を標榜する製品からΔ8-及びΔ9-THC-O-propionate,Δ4(8)-iso-THC-O-propionateを,THCMの含有を標榜する製品からΔ8-及びΔ9-THCMを,HHCPMの含有を標榜する製品から9(R)-HHCPMを同定した.THCA種の大麻草の葉よりΔ9-THCの混在なくTHCAが得られた.天然由来カンナビノイドの含有を標榜する製品からCBT,CBCを同定した.効率的かつ高純度に合成できるルートの検討を行い,∆9-THC及び∆8-THC,∆8-THCH/Δ9-THCH及びΔ8-THCP,Δ8-THCOP/Δ9-THCOP及びΔ8-THCHO/Δ9-THCHO, 9S-HHCHO/9R-HHCHOを分析用標品として提供した.コンピューターモデリング計算ではCBDと比較して∆8-THCおよび∆9-THCは同程度の結合力を示すことが示唆された.
法規制植物の鑑別に関する研究では,大麻8試料から2種のテルペン合成酵素遺伝子断片を単離し,その配列比較を行った結果,各遺伝子はイントロン領域に大きく違いが見られ,それぞれ2つのタイプに分離された.
結論
本研究は,厚生労働省の薬物取締行政に直接貢献する研究であり,国の乱用薬物対策に即したものである.また今後出現しうる新規の乱用薬物の鑑別についても有用であると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2025-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
202424001C

収支報告書

文献番号
202424001Z