エフェクター選別性の抗がん免疫アジュバントの開発

文献情報

文献番号
201008003A
報告書区分
総括
研究課題名
エフェクター選別性の抗がん免疫アジュバントの開発
課題番号
H20-ワクチン・一般-003
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
瀬谷 司(北海道大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 美佐子(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 志馬 寛明(北海道大学 大学院医学研究科)
  • Penmetcha Kumar (ペンメッチャ クマール)(産業技術総合研究所)
  • 児玉 憲(大阪府立成人病センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は安全でQOLが高いがん患者に使える抗がん免疫アジュバントを開発し、がん医療の現場に速やかに導入することを目的とする。アジュバントは我々が開発したToll様受容体(TLR)のアゴニスト・微生物成分を模したものを基盤とし、副作用が少なくCTL, NK を効果的に誘導する物質を選ぶ.昨年度はM161 Ag リポ蛋白(Pam2)とRNA duplex のNK活性化能について解析結果を報告した。前者はTLR2, 後者はTLR3 を活性化して異なった経路で樹状細胞を成熟化する。本年度はこれらの合成変異体を増産し、(特にRNA誘導体は長いと極めて高価になる)NK のin vitro 抗腫瘍解析とCTLによる腫瘍退縮を検討する。
研究方法
H21年度にPam2誘導体のNK 活性化に必要な構造条件を定義した(H21 年度報告書)。今回、樹状細胞経由でNK活性化条件を満たすPam2Cys#6, Pam2Cys#12, Pam2CSK4,満たさないcontrolを担がんマウスに投与してNK 依存性(B16D8)とCTL依存性(EL4)の腫瘍退縮をみた。また、H21年度に合成が成功したRNA duplex(dsRNA X)と polyI:C を用いて担がんマウスのNK 依存性とCTL依存性の腫瘍退縮をみた。
結果と考察
Pam2Cys#6, Pam2Cys#12, Pam2CSK4をi.p.投与すると腫瘍退縮はNK, CTLどちらにに依存しても起きなかった。s.c.投与では腫瘍退縮が観察され,Pam2ペプチド配列によって抗がん活性も修飾を受けた。Pam2 のi.p.投与で抗がん免疫が誘導されにくい原因を探索してin vivoではIL-10, TregがPam2によって高く発現誘導することが明らかになった。従って、MyD88 経路依存性の腫瘍退縮がNK, CTLで観察されにくいという旧来の知見は抑制性の免疫環境によるものであることが判明した。MyD88経路の抗がん活性はin vitro からは類推できない。dsRNA XとpolyI:Cを用いた担がんマウスの系では、i.p.投与でどちらの系も効果的に腫瘍退縮を起こした。これらの退縮はIPS-1 経路に全く依存せず、TICAM-1経路に依存した。従って、抗がんNK,CTL ともにTLR3を活性化する経路で誘導されると証明できた。
結論
本年度は移植がんの退縮効果を発揮する抗がんアジュバントを機能別に絞り込み、dsRNA Xという最強の合成アジュバントを確立できた。今後ヒトに抗がん効果を発揮するかを調べることが急務となる。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

文献情報

文献番号
201008003B
報告書区分
総合
研究課題名
エフェクター選別性の抗がん免疫アジュバントの開発
課題番号
H20-ワクチン・一般-003
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
瀬谷 司(北海道大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 美佐子(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 矢野 郁也(株式会社MBR)
  • 西川 諭(産業技術総合研究所)
  • 児玉 憲(大阪府立成人病センター)
  • ペンメッチャ・クマール(産業技術総合研究所)
  • 志馬 寛明(北海道大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんの術後療法は確立されておらず、化学療法、放射線療法などが優位だが臨床結果は必ずしも満足できるものではない。QOLのよい術後治療法として免疫療法は注目されてきたが、Rosenberg らによればがん抗原のペプチドワクチン療法の有効例は2.6%に留まる。抗原に炎症刺激を伴う感染症の場合、多くは激しい免疫応答を起動し治癒に向かう。抗原ペプチドに微生物成分(アジュバント)を加えた抗がん免疫療法が確立できるならば高い有効率を期待しうる。この概念は樹状細胞のToll-like receptor (TLR)に細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の誘導機能があること、アジュバントはTLRのアゴニストであること、から基礎研究の支持を得た。しかし、抗がんエフェクターとしてNK を誘導する必要があること、炎症はがん細胞に働けば発がんのプロモーターにもなることなど種々の問題点も残し、これらを克服したアジュバントの開発が世界的に要望されている。ヒトに使えるTLR アゴニストは世界的な競争の中でまだ確立されていない。本研究はNK, CTLを誘導してがんを退縮に導く有望な(副作用の少ない)合成品を抽出することを目的とする。
研究方法
in vivo, in vitroのマウス系においてPam2誘導体(PamCysXXXXXX), RNAduplex (dsRNA X)のNK 細胞活性化能、CTL誘導能、抗がん免疫活性を評価し、腫瘍退縮機能の優れた構造物を特定して合成アジュバントの創製を試みた。
結果と考察
本研究ではマウス移植がんの退縮効果を発揮する抗がんアジュバントを機能別に絞り込み、dsRNA Xという最強の合成アジュバントを確立できた。一般にRNAアジュバントは樹状細胞に働いてCTL(EL4), NK (B16D8) 両方を活性化する点で最強のアジュバントと云える。代表格のpolyI:Cが治療投与に使えないのはアジュバント活性が弱いためではなく、毒性の問題を克服できないためである。今後dsRNAの毒性を落としてヒトに抗がん効果を発揮させうるかを調べることが急務となる。本研究の開発になるdsRNA Xはその際の極めてよい候補になる。
結論
TLR2アゴニスト、TLR3アゴニストを化学合成し、最も免疫療法にふさわしいアジュバント効果を有する物質をマウス移植がんの系で選別した。TLR3アゴニストについてdsRNA X(新規RNA誘導体)が最善のNK、CTL誘導活性を保持し、副作用(サイトカインストーム)が問題にならないことを証明した。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-01-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201008003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
毒性の低いTLR2, TLR3 アゴニストを化学合成の手法で多数作製し、免疫アジュバントとしてNK 細胞活性化、CTL誘導を誘起し、サイトカインストームを起こさないものを抽出した。TLR3アゴニストは2重鎖RNA誘導体で、エンドソームに標的し、マウス移植がんモデルでNK依存性、(抗原併用による)CTL依存性の腫瘍退縮を起動した。一方、TLR2アゴニスト(Pam2誘導体)はin vivo の腫瘍退縮効果は弱く、制御性T細胞(Treg)を誘導するためと判明した。
臨床的観点からの成果
TLR3アゴニストはマウスの前臨床試験を行っている。マウスに毒性は殆ど無く移植腫瘍を寛解した。in vitro合成から化学合成に進み、成功した(Nat Commun 2015)。今後ヒト血液細胞でPOCを取り、有効性を反映するバイオマーカーを設定する。予算を獲得できればGLP, GMP標品を作製して、前臨床と安全性試験を行う。TLR3アゴニストについては企業とフィージビリティ研究を開始しており、結果がよければ最適化試験と投与経路などを検討して行く。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
ペプチドワクチンの評価系が作製されて漸くがん患者への投与がこの評価系で査定しうるようになる。がんワクチンは単独では決して効かない。アジュバントが必須である。抗原とアジュバントにPD-1 抗体などを併用すればがん患者への適用と有効例が80%まで増える可能性がある(転移性メラノーマの例)。がんは高齢者が多く、非炎症性の副作用少ないアジュバントが吃緊の課題であった。非炎症性アジュバント(ARNAX)の開発に成功したので患者投与のための評価系が制定されることになる。
その他のインパクト
NK細胞活性化のアジュバント(Ebihara et al., J Exp Med. 2010)に続きCTL誘導のRNAアジュバント(ARNAX)も報告され(Matsumoto et al., Nat Commun 2015)世界中から問合せがある。多くの新聞にて報道された。核酸合成会社から北大に試薬の販売の許諾依頼があった。製薬会社などがARNAXの臨床研究に関して検討中である。今後多機関で確認実験が行われる見込みである。研究費さえ付けば進行がんが免疫で治る時代が来ることを実感している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
2008-2010年度の3年間
原著論文(英文等)
41件
2008-2010年度の3年間
その他論文(和文)
20件
2008-2010年度の3年間
その他論文(英文等)
11件
2008-2010年度の3年間
学会発表(国内学会)
78件
2008-2010年度の3年間
学会発表(国際学会等)
30件
2008-2010年度の3年間
その他成果(特許の出願)
1件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
1件
2008-2010年度の3年間
その他成果(施策への反映)
0件
2008-2010年度の3年間
その他成果(普及・啓発活動)
0件
2008-2010年度の3年間

特許

特許の名称
アジュバント活性を有する新規核酸およびその利用
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2011/067143
発明者名: 瀬谷 司、松本美佐子
権利者名: 北海道大学
出願年月日: 20100728
国内外の別: 国内外

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shime, H., M. Matsumoto, T. Seya, et al.
Tumor-secreted lactic acid promotes IL-23-IL-17 proinflammatory pathway.
J. Immunol. , 180 , 7175-7183  (2008)
原著論文2
Ebihara, T., M. Matsumoto, T. Seya, et al.
Hepatitis C virus (HCV)-infected hepatocytes extrinsically modulate dendritic cell maturation to activate T cells and natural killer cells.
Hepatology , 48 , 48-58  (2008)
原著論文3
Funami K., T. Seya, and M. Matsumoto, et al.
Homo-oligomerization is essential for Toll/IL-1 receptor domain containing adaptor molecule-1-mediated NF-kappaB and interferon regulatory factor-3 activation.
J. Biol. Chem. , 283 , 18283-18291  (2008)
原著論文4
Itoh, K., T. Seya, and M. Matsumoto, et al.
The clathrin-mediated endocytic pathway participates in dsRNA-induced IFN-beta production.
J. Immunol. , 181 , 5522-5529  (2008)
原著論文5
Kodama, K., M. Matsumoto, T. Seya, et al.
Innate immune therapy with a BCG cell wall skeleton after radical surgery for non-small cell lung cancer: a case control study.
Surgery Today. , 39 , 194-200  (2009)
原著論文6
Oshiumi, H., M. Matsumoto, T. Seya, et al.
Riplet/RNF135, a RING-finger protein, ubiquitinates RIG-I to promote interferon- induction during the early phase of viral infection.
J. Biol. Chem. , 284 , 807-817  (2009)
原著論文7
Wu, J. D., T. Seya, et al.
Obstructing shedding of the immune stimulatory MHC class I chain-related gene B prevents tumor formation.
Clin. Cancer Res. , 15 , 632-640  (2009)
原著論文8
Akao, Y., M. Matsumoto, and T. Seya, et al.
Enhancement of antitumor natural killer cell activation by orally administered Spirulina extract in mice.
Cancer Sci. , 100 , 1494-1501  (2009)
原著論文9
Yasukawa, K., T. Seya, et al.
Mitofusin 2 inhibits mitochondrial antiviral signaling.
Science Signaling. ra47 , 2 (84) , 47-  (2009)
原著論文10
Takaki, H., M. Matsumoto, and T. Seya, et al.
Oligomerized TICAM-1 (TRIF) in the cytoplasm recruits nuclear BS69 to enhance type I interferon induction.
Eur. J. Immunol. , 39 , 3469-3476  (2009)
原著論文11
Iwakiri. D., M. Matsumoto, T. Seya, et al.
Epstein-Barr virus (EBV)-encoded small RNA is released from EBV-infected cells and activates signaling from Toll-like receptor 3.
J. Exp. Med. , 206 , 2091-2099  (2009)
原著論文12
Oshiumi, H., M. Matsumoto, and T. Seya, et al.
DEAD/H BOX 3 (DDX3) helicase binds the RIG-I adaptor IPS-1 to up-regulate IFN-beta inducing potential.
Eur. J. Immunol. , 40 , 940-948  (2010)
原著論文13
Akazawa, T., M. Matsumoto, and T. Seya, et al.
Adjuvant engineering for cancer immunotherapy: development of a synthetic TLR2 ligand with increased cell adhesion.
Cancer Sci. , 101 , 1596-1603  (2010)
原著論文14
Azuma, M., M. Matsumoto, T. Seya, et al.
The peptide sequence of diacyl lipopeptides determines dendritic cell TLR2-mediated NK activation.
PLoS ONE , 5 , 12550-  (2010)
原著論文15
Tatematsu, M., T. Seya, and M. Matsumoto, et al.
A molecular mechanism for Toll/IL-1 receptor domain-containing adaptor molecule-1 (TICAM-1)-mediated IRF-3 activation.
J. Biol. Chem. , 285 , 20128-20136  (2010)
原著論文16
Ebihara, T., M. Matsumoto, and T. Seya, et al.
Identification of a polyI:C-inducible membrane protein, that participates in dendritic cell-mediated natural killer cell activation.
J. Exp. Med. , 207 , 2675-2687  (2010)
原著論文17
Oshiumi, H., M. Matsumoto, and T. Seya, et al.
Hepatitis C virus (HCV) core protein abrogates the DDX3 function that enhances IPS-1-mediated IFN-beta induction.
PLoS ONE , 5 , 14258-  (2010)
原著論文18
Oshiumi, H., M. Matsumoto, and T. Seya, et al.
Essential role of Riplet in RIG-I-dependent antiviral innate immune responses.
Cell host microbe. , 8 , 496-509  (2010)
原著論文19
Watanabe, A., T. Seya, and M. Matsumoto, et al.
Raftlin is involved in the nucleocapture complex to induce poly(I:C)-mediated TLR3 activation.
J. Biol. Chem. , 86 , 10702-10711  (2011)
原著論文20
Yamazaki, S., M. Matsumoto, and T. Seya, et al.
TLR2-dependent induction of IL-10 and Foxp3+CD25+CD4+ regulatory T cells prevents effective anti-tumor immunity induced by Pam2 lipopeptides in vivo.
PLoS ONE , 6 (4) , 18833-  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201008003Z