文献情報
文献番号
202423033A
報告書区分
総括
研究課題名
食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24KA2001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
中原 剛士(九州大学 大学院医学研究院皮膚科学分野)
研究分担者(所属機関)
- 小野塚 大介(大阪大学大学院 医学研究院)
- 辻 学(九州大学病院 油症ダイオキシン研究診療センター)
- 白石 博昭(福岡県保健環境研究所)
- 前田 英史(九州大学大学院 歯学研究院)
- 申 敏哲(シン ミンチョル)(熊本保健科学大学 保健科学部 リハビリテーション学科)
- 園田 康平(九州大学大学院 医学研究院眼科学)
- 藤原 稔史(九州大学病院 整形外科)
- 鳥巣 剛弘(九州大学病院 消化管内科)
- 太田 千穂(中村学園大学 栄養科学部)
- 加藤 聖子(九州大学大学院 医学研究院生殖病態生理学)
- 岡本 勇(九州大学大学院医学研究院 呼吸器内科学)
- 緒方 英紀(九州大学病院 脳神経内科)
- 石井 祐次(九州大学大学院 薬学研究院)
- 室田 浩之(国立大学法人 長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
- 辻 博(北九州若杉病院西日本総合医学研究所)
- 貝沼 茂三郎(富山大学)
- 冬野 洋子(九州大学病院 皮膚科)
- 友清 淳(北海道大学大学院 歯学研究院)
- 山村 和彦(九州大学病院 油症ダイオキシン研究診療センター)
- 川崎 五郎(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座口腔腫瘍治療学分野)
- 戸高 尊(公益財団法人北九州生活科学センター 生体ダイオキシン類分析室)
- 井上 大輔(長崎大学病院 眼科)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
193,959,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
PCB類・ダイオキシン類の生体への影響、生体内動態を把握し、ダイオキシン類の毒性を緩和する治療法・対処法を見いだす。
研究方法
油症検診データベースの集積:健康実態調査、一斉検診の実施、検診結果を集積した患者データベースを更新し、死因調査とともに継続する。患者の血中のPCDF類の実態調査を行う。油症患者2世3世に健康調査を実施し、年次的な推移を検討する。血液検査結果は統計学的に解析し、経年変化の傾向について調査する。基礎的研究では、油症患者における臓器障害、機能障害を細胞や動物を用いた実験で検証し、ダイオキシンの毒性や細胞におけるAHRの役割を明らかにし、ダイオキシン類の毒性を緩和しうる薬剤の探索を行う。
結果と考察
1. 油症認定患者の生存情報および死亡情報をアップデートし、死亡リスクの再評価を行うことを目的として、油症認定患者を対象とした56年間の追跡調査を実施した。
2. 2023年度に実施された油症検診受診者の傾向把握のため、検診票を収集し集計した。検診受診者数は556人(認定及び同居家族認定383人、未認定173人)だった。
3. 2023年度に測定を行った認定患者184名と未認定者180名について結果集計を行った。認定患者の2,3,4,7,8-PeCDF濃度は平均37 pg/g-fat、未認定者は平均5.4 pg/g-fatであった。
4. 令和6年度油症患者の眼症状の発生およびその経過を調査し、油症認定患者の角膜上皮状態と、血中のPeCDF濃度との関連について調査を開始した。
5. 令和6年度の長崎県油症検診において歯科検診を受診した患者を対象に口腔乾燥症に関する検討を行った。油症に関連した口腔粘膜色素沈着は高い発生率であったが、口腔乾燥症との関連性は認められなかった。
6. カネミ油症発生後に油症患者より出生した児(油症2世)および油症3世の婦人科関連症状の検討をアンケートをもとに集計、解析を開始している。
7. 2024年度福岡県油症一斉検診の受診者194例において抗ミトコンドリア抗体、抗SS-A/Ro抗体および抗SS-B/La抗体を測定した。
基礎的研究
1. ヒト気道上皮の基底細胞でSIRPαが発現し、EGFRシグナルと関係しており、油症気道傷害の新たな治療標的になりうる。
2. PCB140はラットで腸管から高率に吸収され、主に糞中に代謝物M1として排泄されるが、代謝と排泄には時間を要する。
3. PDE4阻害薬ジファミラストはAhRの核内移行を誘導するが、ARNTと結合せずCYP1A1も抑制し、皮膚症状の改善に寄与する可能性がある。
4. AhRリガンドはSELENBP1を誘導し、PPARαを正に制御する。SELENBP1はSe非依存的に脂質代謝を調節する。
5. ベンゾピレンは感覚神経に障害を与え感覚閾値を上昇させるが、芍薬甘草湯はこの影響と酸化ストレスを抑制し、神経を保護すると考えられる。
6. Benzo(a)pyreneはヒト歯根膜細胞において、炎症関連遺伝子や老化関連遺伝子(特にCDKN1A)を変動させる。
7. AhRの活性化はTenascin-Cの発現を抑制し、歯根膜細胞の骨芽細胞様およびセメント芽細胞様分化を妨げる。
8. 油症ではダイオキシンによる酸化ストレスが病態に関与し、AhRシグナルはグルタチオン代謝を介してフェロトーシスを抑制することで、細胞死を制御している可能性がある。
9. AhRは破骨細胞や骨芽細胞の分化に応じて発現が増加し、ベンゾピレンはそれらの分化を阻害する。
10. 膠原病様ケラチノサイトモデルに対して、AHRリガンドは抗炎症作用を示し、その分子機構が明らかになっている。
11. Tapinarofによる刺激で、ヒト感覚神経において転写因子NFE2が誘導され、神経におけるAHRシグナルの新たな標的となる可能性が示唆された。
2. 2023年度に実施された油症検診受診者の傾向把握のため、検診票を収集し集計した。検診受診者数は556人(認定及び同居家族認定383人、未認定173人)だった。
3. 2023年度に測定を行った認定患者184名と未認定者180名について結果集計を行った。認定患者の2,3,4,7,8-PeCDF濃度は平均37 pg/g-fat、未認定者は平均5.4 pg/g-fatであった。
4. 令和6年度油症患者の眼症状の発生およびその経過を調査し、油症認定患者の角膜上皮状態と、血中のPeCDF濃度との関連について調査を開始した。
5. 令和6年度の長崎県油症検診において歯科検診を受診した患者を対象に口腔乾燥症に関する検討を行った。油症に関連した口腔粘膜色素沈着は高い発生率であったが、口腔乾燥症との関連性は認められなかった。
6. カネミ油症発生後に油症患者より出生した児(油症2世)および油症3世の婦人科関連症状の検討をアンケートをもとに集計、解析を開始している。
7. 2024年度福岡県油症一斉検診の受診者194例において抗ミトコンドリア抗体、抗SS-A/Ro抗体および抗SS-B/La抗体を測定した。
基礎的研究
1. ヒト気道上皮の基底細胞でSIRPαが発現し、EGFRシグナルと関係しており、油症気道傷害の新たな治療標的になりうる。
2. PCB140はラットで腸管から高率に吸収され、主に糞中に代謝物M1として排泄されるが、代謝と排泄には時間を要する。
3. PDE4阻害薬ジファミラストはAhRの核内移行を誘導するが、ARNTと結合せずCYP1A1も抑制し、皮膚症状の改善に寄与する可能性がある。
4. AhRリガンドはSELENBP1を誘導し、PPARαを正に制御する。SELENBP1はSe非依存的に脂質代謝を調節する。
5. ベンゾピレンは感覚神経に障害を与え感覚閾値を上昇させるが、芍薬甘草湯はこの影響と酸化ストレスを抑制し、神経を保護すると考えられる。
6. Benzo(a)pyreneはヒト歯根膜細胞において、炎症関連遺伝子や老化関連遺伝子(特にCDKN1A)を変動させる。
7. AhRの活性化はTenascin-Cの発現を抑制し、歯根膜細胞の骨芽細胞様およびセメント芽細胞様分化を妨げる。
8. 油症ではダイオキシンによる酸化ストレスが病態に関与し、AhRシグナルはグルタチオン代謝を介してフェロトーシスを抑制することで、細胞死を制御している可能性がある。
9. AhRは破骨細胞や骨芽細胞の分化に応じて発現が増加し、ベンゾピレンはそれらの分化を阻害する。
10. 膠原病様ケラチノサイトモデルに対して、AHRリガンドは抗炎症作用を示し、その分子機構が明らかになっている。
11. Tapinarofによる刺激で、ヒト感覚神経において転写因子NFE2が誘導され、神経におけるAHRシグナルの新たな標的となる可能性が示唆された。
結論
ダイオキシン類は代謝されにくく長期間体内に残存するため、その慢性影響を明らかにする油症研究は世界的にも貴重である。全国検診ではPCDF濃度に認定・未認定者間で明確な差が確認され、病態との関連を支持する重要な所見が得られた。また、角膜障害や婦人科・神経症状に関する追跡調査を通じ、油症の長期的健康影響に関する知見が蓄積されている。
基礎研究では、AHRシグナルを中心に、気道上皮のSIRPαや神経障害に対する芍薬甘草湯の作用、PDE4阻害薬やTenascin-C、PPARαとのクロストークが明らかになった。さらにTCDDによる胎児精巣や骨・歯周組織への影響など、慢性毒性の分子機構が解明されつつある。
こうした継世代にわたる研究は、油症患者のみならず人類全体にとっても、ダイオキシン類の影響を理解し対策を講じる上で極めて重要である。
基礎研究では、AHRシグナルを中心に、気道上皮のSIRPαや神経障害に対する芍薬甘草湯の作用、PDE4阻害薬やTenascin-C、PPARαとのクロストークが明らかになった。さらにTCDDによる胎児精巣や骨・歯周組織への影響など、慢性毒性の分子機構が解明されつつある。
こうした継世代にわたる研究は、油症患者のみならず人類全体にとっても、ダイオキシン類の影響を理解し対策を講じる上で極めて重要である。
公開日・更新日
公開日
2025-08-20
更新日
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