文献情報
文献番号
202423028A
報告書区分
総括
研究課題名
ワンヘルス・アプローチに基づく食品由来薬剤耐性菌のサーベイランスと伝播機序解明のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24KA1005
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
菅井 基行(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 菅原 庸(国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所)
- 久恒 順三(国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
- 矢原 耕史(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
- 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
- 大屋 賢司(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
- 小西 典子(東京都健康安全研究センター 微生物部 食品微生物研究科)
- 富田 治芳(群馬大学大学院医学系研究科 生体防御機構学 細菌学分野)
- 浅井 鉄夫(岐阜大学大学院連合獣医学研究科)
- 川西 路子(農林水産省動物医薬品検査所 検査第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
39,310,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023-2027」に基づき、動物性食品中の薬剤耐性菌(AMR菌)の動向把握と対策のための基盤構築が求められている。国際的にはWHOが推進するGLASS(Global Antimicrobial Resistance and Use Surveillance System)の枠組みが拡充され、薬剤感受性情報に加え、薬剤耐性遺伝子などゲノム情報の提供も各国に求められつつある。本研究は、国内における動物性食品由来薬剤耐性菌のサーベイランス体制の強化、薬剤耐性機序の解明、得られた知見の薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2024やGLASS2.0への提供を目的としている。
研究方法
本研究では、全国の地方衛生研究所、大学、研究機関のネットワークを活用し、流通食品およびヒト由来のサルモネラ、大腸菌、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、腸球菌などに関する感受性試験および耐性遺伝子解析を実施した。分離された菌株のうち、一定数については全ゲノム解析(WGS)を行い、ヒトと食品由来株の系統的な近縁性や耐性遺伝子の共通性を評価した。また、ESBL産生菌、コリスチン耐性菌、MRSA、CRE、VRE等の分離、毒素遺伝子の定量、耐性遺伝子の広がりに関する解析を含め、多面的に実態を把握した。得られた成果の一部は薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書およびWHO GLASSに提出された。
結果と考察
本研究では、薬剤感受性試験に加えてWGS解析を初めて本格的に導入したことで、菌株の系統解析や耐性遺伝子の精密な特定が可能となり、ヒトと食品に由来する株が極めて近縁である事例が明らかになった。たとえば、ESBL遺伝子blaCTX-M-15を保有するサルモネラBlockley株のうち2株で、食品とヒト由来株間の相違塩基数がわずか6~10と極めて近縁であり、食品を介した耐性菌の伝播可能性を強く示唆する結果が得られた。
カンピロバクターでは、鶏肉由来株とヒト由来株の比較で相違塩基数が20台の近縁な組合せがみられたが、サルモネラと同程度の明確な伝播の証拠は得られなかった。一方、バンコマイシン耐性腸球菌ではMLST解析によりヒトと食品由来株の系統的差異が明らかとなり、セクター間伝播のリスクは相対的に低いと考えられた。
また、市販肉(鶏肉)におけるサルモネラ陽性率、薬剤耐性パターンには明確な地域差があることを示した。カンピロバクターの分離陽性率は西日本産検体からの方が東日本産検体からのものよりも有意に高く、サルモネラとは逆の結果となった。市販肉におけるESBL産生大腸菌やMRSAの汚染実態調査により、中部・九州地方での陽性率の高さが判明した。鶏肉由来のCTX耐性大腸菌についても、西日本産の検体からの陽性率が東日本産より有意に高いことが示され、地域的・流通経路的な要因による耐性菌の分布傾向が明らかになった。さらに、豚レバーからは一定数サルモネラが分離され、特に秋季にピークがみられた。
複数のグループから得られた分離株の解析を通じて、ESBLやAmpC、mcr遺伝子などの拡散状況が詳細に把握され、国際的にも共有可能な科学的基盤が構築された。一部の代表株は薬剤耐性研究センターでWGSが行われ、ドラフトゲノム情報として整理されつつある。また、毒素遺伝子の定量系構築や新規分離菌の登録により、将来的な発症リスク評価にも資するデータが得られた。
GLASS2.0が求める遺伝子レベルの情報提供に対応すべく、報告フォーマットや体制の整備も進行中であり、国際的なAMR対策において日本の貢献が一層期待される。
カンピロバクターでは、鶏肉由来株とヒト由来株の比較で相違塩基数が20台の近縁な組合せがみられたが、サルモネラと同程度の明確な伝播の証拠は得られなかった。一方、バンコマイシン耐性腸球菌ではMLST解析によりヒトと食品由来株の系統的差異が明らかとなり、セクター間伝播のリスクは相対的に低いと考えられた。
また、市販肉(鶏肉)におけるサルモネラ陽性率、薬剤耐性パターンには明確な地域差があることを示した。カンピロバクターの分離陽性率は西日本産検体からの方が東日本産検体からのものよりも有意に高く、サルモネラとは逆の結果となった。市販肉におけるESBL産生大腸菌やMRSAの汚染実態調査により、中部・九州地方での陽性率の高さが判明した。鶏肉由来のCTX耐性大腸菌についても、西日本産の検体からの陽性率が東日本産より有意に高いことが示され、地域的・流通経路的な要因による耐性菌の分布傾向が明らかになった。さらに、豚レバーからは一定数サルモネラが分離され、特に秋季にピークがみられた。
複数のグループから得られた分離株の解析を通じて、ESBLやAmpC、mcr遺伝子などの拡散状況が詳細に把握され、国際的にも共有可能な科学的基盤が構築された。一部の代表株は薬剤耐性研究センターでWGSが行われ、ドラフトゲノム情報として整理されつつある。また、毒素遺伝子の定量系構築や新規分離菌の登録により、将来的な発症リスク評価にも資するデータが得られた。
GLASS2.0が求める遺伝子レベルの情報提供に対応すべく、報告フォーマットや体制の整備も進行中であり、国際的なAMR対策において日本の貢献が一層期待される。
結論
本研究は、食品を介した薬剤耐性菌の実態とそのヒトへの伝播リスクを科学的に明らかにし、全国規模での監視体制を強化するとともに、国際的なサーベイランス体制(GLASS2.0)への貢献にも寄与した。今後は、構築されたネットワークと得られたデータを活用し、継続的なサーベイランスの維持と国際協調のもとで、食品由来AMR対策を一層推進していくことが求められる。
公開日・更新日
公開日
2025-06-30
更新日
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