培養細胞研究資源の高度化及び研究資源基盤整備に関する研究

文献情報

文献番号
199700743A
報告書区分
総括
研究課題名
培養細胞研究資源の高度化及び研究資源基盤整備に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
祖父尼 俊雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 水沢博(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 原沢亮(東京大学医学部動物実験施設)
  • 阿部武丸(三菱化学中標津製造所)
  • 安本茂(神奈川県ガンセンター)
  • 加治和彦(静岡県立大学)
  • 木村成道(東京都老人総合研究所)
  • 佐々木正夫(京都大学放射線生物研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現代医学・創薬・生物学研究の推進において、培養細胞は不可欠な研究資源であり、各種検査が行き届いた高品質の細胞株を長期的に保存し、安定かつ迅速に提供できる細胞バンクの存在が必須である.本研究班は、このような要請に基づいて医学、薬学研究等の厚生科学研究に必須である「培養細胞研究資源」を、研究基盤として多方面から整備することを目的に組織されたものである.従って研究の目的は、厚生省細胞バンク担当研究室(国立医薬品食品衛生研究所・変異遺伝部・第三室)を中核に、?施設や人的資源を含めた培養細胞の維持管理システムを整備すること(基盤システムの整備)、?研究資源の拡充を図ること(研究資源の拡充)、?インターネットを利用した培養細胞研究資源情報提供機能を構築すること(情報基盤の整備)、?培養細胞研究資源の品質の高度化を促すこと(品質管理システムの整備)、の4点を目的として研究を実施するものである.特に、細胞研究資源の収集については、ヒト由来細胞株を重視すると同時により生体に近い性質を維持しているプライマリ細胞の収集に重点を置く.
研究方法
本研究では、通常の実験を基礎とした研究から、コンピュータによる情報管理、さらには、収集した細胞株の品質に関連する実験・調査などを含み研究方法は多岐にわたる. ?基本システムの整備では、諸外国の細胞バンクの現状ならびに方針などに関する事情調査、収集した細胞の品質管理実験の進行状況などを把握して、人材の配分等に関する検討などが主な方法となる.?研究資源の拡充においては、研究者の保有する研究資源の調査と入手した培養細胞の培養が主な方法となる.?品質管理システムの整備は、DNAフィンガープリント法、アイソザイム分析法、PCR法、FISH法などの各実験技術を用いる.?情報提供機能の整備では、コンピュータ技術を主に使用し、ネットワークサーバの構築と、コンピュータプログラムの作成が主な研究方法である.
結果と考察
?基本システムの整備:1995年10月より、ヒューマンサイエンス振興財団が分譲事業を担当することとなったことにに対応して、用賀の変異遺伝部第三室で実施してきた細胞バンク事業は、主に種細胞(シードカルチャー)の保存と管理および新規細胞株の収集を実施するマスターバンク機能を整備に重点が置かれることとなった.この組織の改変において、事業を分担してきた提携機関で保存管理されてきた細胞を全て国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部第三室に集中することになり、本年度でその大部分の移管作業が完了した.また、これらの細胞については、マイコプラズマ汚染の有無に関する再確認、アイソザイムによる動物種の再同定、核型分析などの基本的な品質管理を改めて実施することとした.その結果、一部の細胞については汚染が検出されたものも出てきたため、MC210による除染作業を実施した.
細胞の移管作業の目処が付いたので新規細胞の登録作業を開始した.一人の職員が処理できる細胞の数は年間40種類程度なので、新たにアルバイトを採用して培養能力を高めることとした.
欧米においては、研究資源の整備の新たな展開が始まっており、施設の整備充実を新たに図りつつある.ATCCも、1998年春には移転を伴う大規模な整備を実施した.
?研究資源の拡充:?項で述べた4種の寄託細胞の培養を開始して登録作業を開始したほか、分担研究者によりヒトプライマリ細胞を中心に合計7株が新たに樹立されることとなった.これらの細胞株については、マイコプラズマ検査等の品質管理を経て、平成10年度中に新規細胞として登録を完了することとなる.主にプライマリ細胞の場合、通常の株化細胞に比べて凍結状態での輸送に弱いため、バンクにおいて解凍培養を実施し、生細胞として利用者に送付する必要がある.しかし、HSRRB(大阪)では細胞の分譲に携わっている人数が少いためこの手法を採用することが困難であるため、今後細胞株の分譲方法について再度検討しなおす必要があると思われる.
TIG細胞を中心に検討した結果では、細胞の発送作業に伴う凍結アンプルの微妙な温度上昇(-80℃以上)が細胞の生存率を下げる結果を招くことが明らかになり、細胞発送時のアンプルの取り扱い方法に変更を加え、アンプルの温度上昇を抑制するようにした.これにより、入手後うまく培養できないというクレームが若干減少したようである.
?品質管理システムの整備:ウシ下痢症ウイルスの検出にPCR法を取り入れた.開発したPCR法の検出感度の調査を目的に20種類ほどの細胞を調査した結果、そのほとんどからBVDVが検出された.BVDVの自然宿主では無い細胞からも検出されたが、血清の汚染に由来しているのか否かを検討するために、BVDVフリー血清の製造を試みることとした.これにより培養を実施したところ、一部のヒト細胞からはBVDVが検出されることが無くなったが、ウシ由来細胞からは依然として検出されつづけている結果を得つつある.
?情報提供機能の整備:Compaq Proliant 2500を設置し、WindowsNT4.0、Internet Information Server(IIS)、Active Server Pagesを導入してWWWサーバーを構築した.これを利用して既存の細胞バンク管理データベースによる情報を月に一回の頻度で、HTML(SGML)ファイルとして出力し、公開用データベースに変換するルーチン作業を確立した.この過程で、文献情報の追加および画像データの組み込みを行ない、詳細な情報の公開を実現した.現在毎月1200件のアクセスがある.
結論
厚生科学研究に利用される、ヒト細胞を中心とした細胞バンクシステムの構築に関する研究を実施した.主な課題は、?施設や人的資源を含めた培養細胞の維持管理システムを整備すること(基盤システムの整備)、?研究資源の充実を図ること(研究資源の拡充)、?インターネット等を利用した培養細胞研究資源情報提供機能を構築すること(情報基盤の整備)、?培養細胞研究資源の品質の高度化を促すこと(品質管理システムの整備)、の4点であるが、毎年一定の進展を見ている.特に、細胞分譲機能がHSRRBに移管されたことに伴って、当該研究班が担当しているマスターバンク業務は新規細胞の収集、情報システムの整備、品質管理能力の整備など、基本的な機能は徐々にではあるが向上しつつある.しかし、残念なことに職員数の制約および施設整備の制約等によって、効率的な運用を目指しつつも限界はいかんともし難く、新たに独自開発した品質管理手法を実際のバンク運営に生かせないでいる点、細胞バンクを運営する現場としては、大変歯がゆい思いをしているところである.我が国の基盤整備に対する重要な課題として、関係各所と協議のうえ、一層の整備が実現するよう努力するものである.特に欧米先進諸国においては、研究資源の確保に向けて新たな整備が展開されつつあり、放置すれば我が国の研究基盤は、再度遅れることとなると予想される.

公開日・更新日

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