文献情報
文献番号
202423021A
報告書区分
総括
研究課題名
トランス脂肪酸の新規毒性分子基盤に基づく食品の毒性リスクの検討
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA3004
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
平田 祐介(東北大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 目代 恵美子(佐藤 恵美子)(東北大学 薬学部)
- 伊藤 隼哉(東北大学 大学院農学研究科 食品機能分析学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
2,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
トランス脂肪酸は循環器疾患との関連が報告されているが、日本人の摂取量は少なく健康影響は小さいとされる。しかし、脂質偏重な食事ではリスクが指摘されており、厚労省も注意喚起している。代表者らは、人工型トランス脂肪酸が細胞外ATPやDNA損傷による細胞死・炎症を促進する強力な病態増悪因子であることを解明し、毒性の機序や評価系を確立した。天然型には毒性が認められず、また抗酸化物質の共存で毒性が抑制される一方、酸化促進物質で増強されることも明らかにした。本研究では、日本人の実際の摂取量の範囲での影響を検討し、リスク管理措置の科学的根拠を提供する。
研究方法
1)代表的な人工型(エライジン酸、リノエライジン酸)と天然型(トランスバクセン酸、パルミトエライジン酸)のトランス脂肪酸をマウスに摂取させ、臓器ごとの蓄積を評価。また、HUVEC細胞に各脂肪酸を処置し、毒性や細胞死の比較解析を行った。
2)食品中に含まれる約40種類の成分(特にアンチ/プロオキシダント活性を持つもの)を選定し、エライジン酸と共処置した際の細胞死誘導への影響を、RAW264.7やHuh-7細胞で評価した。
2)食品中に含まれる約40種類の成分(特にアンチ/プロオキシダント活性を持つもの)を選定し、エライジン酸と共処置した際の細胞死誘導への影響を、RAW264.7やHuh-7細胞で評価した。
結果と考察
1)トランス脂肪酸の血管蓄積性と細胞毒性の差異
トランスバクセン酸(天然型)をマウスに投与し、臓器中の濃度を測定したところ、エライジン酸(人工型)と同様、大動脈に約5 µmol/gと高濃度で蓄積する一方、脳にはほとんど蓄積されず、肝臓には中程度の蓄積が認められた。他の脂肪酸(リノエライジン酸、トランスバクセン酸、パルミトエライジン酸)でも同様の分布が確認され、血管蓄積性は人工型に特有ではない可能性が示唆された。
一方、HUVECにこれら4種類の脂肪酸を処置したところ、エライジン酸およびリノエライジン酸では顕著な細胞死が誘導されたが、トランスバクセン酸やパルミトエライジン酸では細胞死は認められなかった。過去に使用した他の細胞株(U2OS、Huh-7、RAW264.7、BV2)ではいずれも細胞死は観察されておらず、HUVECが人工型トランス脂肪酸に対して特に感受性が高いことが示唆された。以上より、血管はトランス脂肪酸の蓄積部位であり、特に人工型曝露時に細胞死を起こしやすいことから、動脈硬化の発症・悪化との関連が強く示唆された。ただし、この蓄積性がトランス脂肪酸に特異的か否かは今後の検討課題である。
2)食品成分との相互作用と有害性評価
エライジン酸と約40種の食品由来成分をRAW264.7やHuh-7細胞に共処置し、細胞外ATPやDNA損傷による細胞死への影響を調べたところ、多くの成分は有意な影響を示さなかったが、フェネチルアミンのみ、単独では無害である濃度条件下でエライジン酸と併用した場合に細胞死を誘導した。さらにフェネチルアミンは数百nMという極めて低濃度でもエライジン酸と共に毒性を発揮することが確認され、現在、共処置による毒性の分子機序や類似構造体での作用を解析中である。
フェネチルアミンはチーズやワイン、加工食品などに天然成分または香料として含まれ、日本人の香料としての推定摂取量は0.05 µg/日とされているが、天然由来の摂取量は最大2.9 mg/日にも及ぶとされる。特に醤油や味噌、ワイン中には10–100 µM程度の濃度で存在するとの報告もあり、食品からの実際の摂取量とトランス脂肪酸との相互作用について、今後詳細な評価が必要である。
トランスバクセン酸(天然型)をマウスに投与し、臓器中の濃度を測定したところ、エライジン酸(人工型)と同様、大動脈に約5 µmol/gと高濃度で蓄積する一方、脳にはほとんど蓄積されず、肝臓には中程度の蓄積が認められた。他の脂肪酸(リノエライジン酸、トランスバクセン酸、パルミトエライジン酸)でも同様の分布が確認され、血管蓄積性は人工型に特有ではない可能性が示唆された。
一方、HUVECにこれら4種類の脂肪酸を処置したところ、エライジン酸およびリノエライジン酸では顕著な細胞死が誘導されたが、トランスバクセン酸やパルミトエライジン酸では細胞死は認められなかった。過去に使用した他の細胞株(U2OS、Huh-7、RAW264.7、BV2)ではいずれも細胞死は観察されておらず、HUVECが人工型トランス脂肪酸に対して特に感受性が高いことが示唆された。以上より、血管はトランス脂肪酸の蓄積部位であり、特に人工型曝露時に細胞死を起こしやすいことから、動脈硬化の発症・悪化との関連が強く示唆された。ただし、この蓄積性がトランス脂肪酸に特異的か否かは今後の検討課題である。
2)食品成分との相互作用と有害性評価
エライジン酸と約40種の食品由来成分をRAW264.7やHuh-7細胞に共処置し、細胞外ATPやDNA損傷による細胞死への影響を調べたところ、多くの成分は有意な影響を示さなかったが、フェネチルアミンのみ、単独では無害である濃度条件下でエライジン酸と併用した場合に細胞死を誘導した。さらにフェネチルアミンは数百nMという極めて低濃度でもエライジン酸と共に毒性を発揮することが確認され、現在、共処置による毒性の分子機序や類似構造体での作用を解析中である。
フェネチルアミンはチーズやワイン、加工食品などに天然成分または香料として含まれ、日本人の香料としての推定摂取量は0.05 µg/日とされているが、天然由来の摂取量は最大2.9 mg/日にも及ぶとされる。特に醤油や味噌、ワイン中には10–100 µM程度の濃度で存在するとの報告もあり、食品からの実際の摂取量とトランス脂肪酸との相互作用について、今後詳細な評価が必要である。
結論
全体として計画通り実施された。今後は、血管蓄積性がトランス脂肪酸特有か否かの検証、ならびにフェネチルアミンとの相乗毒性の機構解明とマウス個体レベルでの評価を行う予定である。
公開日・更新日
公開日
2025-08-14
更新日
-