NMRに基づく化学物質のデジタル化とその利活用に関する研究

文献情報

文献番号
202423019A
報告書区分
総括
研究課題名
NMRに基づく化学物質のデジタル化とその利活用に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA3002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
西崎 雄三(東洋大学 食環境科学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HifSA(1H Iterative functionalized Spin Analysis)は、NMR反復計算ソフトを活用して、1H-NMRデータから化学物質の化学シフトとスピン‐スピン結合定数から成る1Hスピン情報を精密に決定する手法である。最近では、NMR Solutions Ltd.が開発したCosmic Truth(CT)など、NMR反復計算ソフトが容易に利用できるようになった。米国薬局方(USP)では、NMR反復計算ソフトから得た1Hスピン情報を活かし、磁場の大きさに依存しない参照NMRスペクトルを作成し、これを抗ウイルス薬Remdesivirの確認試験に応用している。
また、定性分析に加えて、1Hスピン情報から作成した計算スペクトルを鋳型にし、この鋳型スペクトルとの線形フィッティングを用いた定量分析 (Quantum Mechanics qNMR (QM-qNMR)) も期待されている。1Hスピン情報が既知であれば、NMR装置の磁場の大きさに依存せず、60MHz、400MHz、800MHzなどの磁場の大きさにかかわらず一斉定量が理論上可能となる。本研究課題では、HifSAを日本で発展させる基盤を築くことを目指す。具体的には、デジタルな1Hスピン情報を基にした定性・定量分析法の実例を積み重ね、HifSAの普及啓発を進める。さらに、1Hスピン情報を活用した化学物質の確認試験や定量試験を公的分析法へ実装することを積極的に進める。
研究方法
農薬ジフェノコナゾール(DFZ)の4種立体異性体:(2R,4R) 体、(2S,4S) 体、(2R,4S) 体及び (2S,4R) 体を対象として、QM-qNMR を実施することとした。NMRスペクトル上でのエナンチオマー分離には、キラルシフト試薬であるChirabite-ARを用いることとした。NMR装置は1H共鳴周波数600 MHzの装置を用いた。得られたNMRスペクトルについて、NMR反復計算ソフトウェアCosmic Truth (CT) を用いてHifSA解析を実施し、化学シフトとスピン―スピン結合定数から1Hスピン情報を取得した。DFZに内部標準物質としてジメチルスルホン (DMSO2)、キラルシフト試薬としてChirabite-ARを添加したものを試料として、QM-qNMRを実施した。得られたNMRスペクトルについて、先に求めた1Hスピン情報を鋳型にして、CT上で線形フィッティングを行い、DFZ含量及び4種異性体の存在比を求めた。
結果と考察
重クロロホルム中にキラルシフト試薬Chirabite-ARを添加することで、DFZの4種エナンチオマーをNMRスペクトル上で明瞭に分離することに成功した。別途キラルHPLCにより単離精製した4種エナンチオマー標準品を用いて、それぞれに固有の1Hスピン情報を決定した。これらの1Hスピン情報をもとに鋳型スペクトルを作成し、QM-qNMRを実施した。
QM-qNMRの結果、DFZ含量は参照値と比較して99.7~100.9%の範囲内で一致し、良好な定量精度を示した。さらに、エナンチオマー比は99.0~100.1%と高い精度で4種異性体を分離定量できた。従来の積分法では分離が困難な多成分系のNMRスペクトルにおいても、スピン情報を基準にすることで高精度な定量が可能であることを示した。
1Hスピン情報とキラルシフト試薬(Chirabite-AR)を活用したエナンチオマー分離は、DFZのように複数の不斉炭素を有する化合物の立体異性体比を迅速かつ非破壊的に評価できる有効な手法であった。今後、他のキラル化合物や医薬品成分への応用展開が期待できる。
結論
本研究は、1Hスピン情報が該当物質の確認試験や定量試験の標準品として機能することを示した。1Hスピン情報はデジタル情報であるため、従来にはなかったデジタルリファレンススタンダード(dRS)として機能し、NMR装置があれば、既知の1Hスピン情報を基準にして、世界中で統一した試験を瞬時に実施することが可能となる。実例データを蓄積するために、DFZ以外の物質についても引き続き検討を進めていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2025-08-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-08-14
更新日
-

収支報告書

文献番号
202423019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,700,000円
(2)補助金確定額
2,700,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,654,700円
人件費・謝金 0円
旅費 2,972円
その他 42,328円
間接経費 0円
合計 2,700,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-08-26
更新日
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