水産物におけるリステリアのリスク評価及び防除に関する研究

文献情報

文献番号
202423018A
報告書区分
総括
研究課題名
水産物におけるリステリアのリスク評価及び防除に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA3001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
中村 綾花(国立大学法人 東京海洋大学 学術研究院 食品生産科学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 肇(東京海洋大学 食品生産科学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
2,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
令和5年度では、500検体の水産加工食品を対象にリステリア菌の分布調査を行った。その結果、40検体からリステリア菌が分離され、RTE水産加工食品はある一定数リステリア菌に汚染されていることが明らかになった。近年、菌株の識別法はcore genome Multi-Locus Sequence Typing (cgMLST)解析などの全ゲノム解析を用いた手法に移行しつつあり、国際的にデータベースが日々更新されている。海外の報告では、食品由来株は特有の遺伝型に属する傾向にあり、その病原性は低いとされているが、日本国内に分布するリステリア菌の基本的知見は乏しい。実際に、日本国内においてリステリア菌のcgMLST解析を行った事例はほとんどなく、従来法であるPFGE(pulsed-field gel electrophoresis)法にとどまっている。cgMLST解析は、数千lociの塩基配列の差異に基づいて割り振られるアレル番号のパターンを数字で表しているため、解像度が高く、研究室間での菌株の比較が容易である。このことから、アウトブレイク株を含めた世界中の分離株のデータベースが構築されており、株識別をする上で豊富なリソースとなっている。本研究で得られた水産分離株についてcgMLST解析を行うことで、日本国内に分布するリステリア菌の国際的な立ち位置を把握することが可能となる。令和6年度では、RTE水産加工食品から分離されたリステリア菌について、次世代シーケンサーを用いてゲノム解析を行うこととした。
研究方法
40株の水産加工食品分離株について、全ゲノム解析を実施した。研究室でDNA抽出を行った後、Novogene Co., Ltd (Beijing, China)に次世代シーケンス解析を外注した。ゲノムライブラリーはペアエンド150 bpシーケンスによってシーケンスされた。ドラフトゲノムアセンブリはSPAdes によって行った。全ゲノム解析によって得られたゲノムデータはBIGSdb-Lm (https://bigsdb.pasteur.fr/listeria/) に登録し、株識別および解析を行った。2024年11月30日時点でBIGSdb-Lmに登録された分離株のうち、本研究で得られた分離株と同一のClonal Complexに属する食品分離株および臨床分離株を検索した。これらの分離株と本研究で得られた分離株のcgMLST schemeに基づいたMinimum spanning treeと、本研究で得られた分離株のcgMLST schemeに基づいたMinimum spanning tree をGrapeTree (Zhou et al., 2018) を用いてそれぞれ図示した。
結果と考察
RTE水産加工食品から分離された40株は14種類のClonal Complex (CC)、と15種類のSequence Type (ST)に分類された。2024年11月30日時点でBIGSdb-Lmに登録された分離株のうち、本研究で得られた分離株と同一のCCに属する食品分離株および臨床分離株は1691株であった。これらの分離株を含めたMinimum spanning treeを作成したところ、本研究で分離された水産分離株は世界各地で分離された菌株と同一のノードに位置していた。このことから、日本国内に分布する菌株は世界各地で分離された菌株と近縁であることが示された。また、同一のCCであった一部の菌株では、cgMLST Type (CT) も一致していた。CC1のマグロのたたき由来株2株はCT15309、CC3のマグロのたたき由来株2株はCT15326であり、それぞれ同一の製造所で製造された検体から分離された菌株であった。また、CC101に属する菌株のうち、ST101のスジコ由来株2株はCT15438、ST3237のマグロのたたき由来株2株はCT15439であり、CTが一致していた。いずれも検体の製造所は異なったものの、グループ会社が製造した製品であった。CTが一致した菌株の分離源となった検体の一部は、製造所または購入場所が一致していたことから、製造工程中での汚染や、製造所から出荷された後、小売店の調理場などで汚染された可能性が推測された。特に、CT15326の2株については、購入日が約3か月離れていたことから、製造所での長期的な汚染が発生している可能性が考えられた。
結論
水産分離株について全ゲノム解析を行うことで、遺伝型が明らかとなり、食品製造現場に長期間生残している可能性が考えられた。リステリア菌は環境ストレスに強く、一度製造ラインを汚染すると除去が非常に難しい。そのため、食品製造現場では適切な殺菌、洗浄方法を採用し、衛生管理を徹底することが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2025-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-08-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
202423018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,700,000円
(2)補助金確定額
2,700,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 785,852円
人件費・謝金 0円
旅費 463,441円
その他 827,707円
間接経費 623,000円
合計 2,700,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2025-08-26
更新日
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