大規模発現解析より得られた新規酵素心臓特異的ミオシン軽鎖キナーゼ(cardiacMLCK)を利用した心不全治療薬・診断マーカーの開発

文献情報

文献番号
201007004A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模発現解析より得られた新規酵素心臓特異的ミオシン軽鎖キナーゼ(cardiacMLCK)を利用した心不全治療薬・診断マーカーの開発
課題番号
H20-ゲノム・一般-004
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
北風 政史(独立行政法人国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
研究分担者(所属機関)
  • 高島 成二(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 南野 哲男(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 朝倉 正紀(独立行政法人国立循環器病研究センター)
  • 筒井 裕之(北海道大学大学院 医学系研究科)
  • 室原 豊明(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 浅沼 博司(京都府立医科大学)
  • 古川 秀比古(第一三共株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
47,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、研究代表者が大規模な疾患原因遺伝子検索により同定した心臓特異的ミオシン軽鎖キナーゼ(cardiac myosin light chain kinase=cardiacMLCK)の心疾患における役割を明らかにし、cardiacMLCK自体の心疾患診断ツールへの応用およびcardiacMLCK活性制御薬剤の心不全治療創薬への展開を目的とする。
研究方法
cardiacMLCKを介するリン酸化ミオシン軽鎖(MLC)の生理機能および、リン酸化以降のシグナル解析を行う目的で、MLCの燐酸化調節因子の同定を進めた。それと同時に昨年度までに作成されたcardiacMLCKの遺伝子欠損マウスの解析、また新たに同定されたヒト家族性心筋症例にみられたcardiacMLCKの変異についてその機能と疾患との関連を解析した。また昨年度までに完成させたcardiacMLCKの高感度血中濃度測定系を用いた心不全患者血清の解析およびcardiacMLCKおよびMLCのリン酸化を制御する薬剤のスクリーニング系の確立、薬剤効果検討を行った。
結果と考察
リン酸化MLCと相互作用する因子の解析からNUAK2と呼ばれる新たなリン酸化酵素が同定されMLCのリン酸化状態をcardiacMLCKとともに規定していることが明らかになり新たな創薬標的となる可能性が示された。またcardiacMLCKの遺伝子欠損マウスの解析によりcardiacMLCKの発現量とその器質であるMLCのリン酸化量が心収縮性と密接に相関することが示された。さらにヒト家族性心筋症の複数の家系において突然変異したcardiacMLCKの活性が野生型のcardiacMLCKに比し顕著に低下していることが示された。これらの事実はcardiacMLCKの活性がMLCのリン酸化を介して心筋の収縮性を生体内で調整していることを明確に示した。さらに生体外、生体内でのcardiacMLCK活性のアッセイ系を確立し薬剤の評価実験を行った。加えてcardiacMLCKの高感度血中濃度測定法も確立し、心不全患者血清において上昇がみられ、心疾患診断マーカーとしての可能性が示された。
結論
cardiacMLCKが心不全の新たな診断マーカーとして使用できることおよびその活性あるいは発現を上昇させる薬剤が心不全治療に使用できる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2011-09-20
更新日
-

文献情報

文献番号
201007004B
報告書区分
総合
研究課題名
大規模発現解析より得られた新規酵素心臓特異的ミオシン軽鎖キナーゼ(cardiacMLCK)を利用した心不全治療薬・診断マーカーの開発
課題番号
H20-ゲノム・一般-004
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
北風 政史(独立行政法人国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
研究分担者(所属機関)
  • 高島 成二(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 南野 哲男(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 朝倉 正紀(独立行政法人国立循環器病研究センター )
  • 筒井 裕之(北海道大学大学院  医学系研究科)
  • 室原 豊明(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 浅沼 博司(京都府立医科大学)
  • 古川秀比古(第一三共株式会社)
  • 小室 一成(大阪大学大学院 医学系研究科 平成20、21年度分担)
  • 金 智隆(元 国立循環器病研究センター 平成20年度分担)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究代表者が大規模な疾患原因遺伝子検索により同定した心臓特異的ミオシン軽鎖キナーゼ(cardiac myosin light chain kinase=cardiacMLCK)の心疾患における役割を明らかにし、cardiacMLCK自体の心疾患診断ツールへの応用およびcardiacMLCK活性制御薬剤の心不全治療創薬への展開を目的とした。
研究方法
心不全治療の創薬候補としてのcardiacMLCKの生化学的基盤を確立するため、リン酸化されたMLCがいかに心筋収縮力の増強につながるかの分子メカニズムの解析を行った。これを利用してcardiacMLCKの活性増強剤の検索のためのアッセイ法確立を行った。また生体内におけるcardiacMLCKの役割を検討するためcardiacMLCK遺伝子変異マウスの作製を行った。さらに施設の倫理委員会の承認のもと施行したヒトを対象とした研究としては、cardiacMLCKの高感度検出系の確立による心不全患者血中濃度の測定および多施設の心不全症例において遺伝子変異解析を行った。
結果と考察
リン酸化されたMLCから心筋収縮性の上昇につながるMyosinATPase活性化につながる過程に複数の分子が関与することが明らかとなり、この生化学的背景をもとに、cardiacMLCKを標的とする新たな創薬スクリーニング系が確立された。さらに、これらの新規のシグナル経路が新たな創薬標的となりうることが示された。またcardiacMLCKの遺伝子改変動物の解析によりcardiacMLCKの活性、MLCのリン酸化の程度と心筋収縮性の関係が明らかとなり、cardiacMLCKを創薬標的とすることの妥当性が明確に示された。また心疾患患者でのcardiacMLCK血中濃度の上昇さらにcardiacMLCKの活性低下を伴う突然変異も発見されヒト心不全とcardiacMLCKの密接な相関が証明された。
結論
cardiacMLCKの心不全治療創薬基盤研究による成果が得られ、cardiacMLCKの活性と心不全の関係が本研究により明確にされた。この中で開発された新たなアッセイ系を利用した創薬候補の検索が可能となった。さらに診断マーカーとしてのあるいは心筋症の遺伝子診断の標的としてのcardiacMLCKの利用も期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-09-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201007004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
前年度までの業績に加え、25年度からは、高純度cardaiacMLCK精製標品を利用して、大阪大学創薬推進研究拠点事業の一つとしてcardiacMLCKに直接結合する小分子化合物のスクリーングおよび創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業の承認のもと東京大学・菅裕明らとcardiacMLCK活性制御環状ペプチドのスクリーニングを開始した。今後これらの化合物の生理・薬理作用の検討を行い心不全治療薬としての可能性を追求していく予定である。
臨床的観点からの成果
家族性心筋症の複数の家系よりcardiacMLCKの活性変化を伴う変異が同定され、心筋症の新たな原因遺伝子であることが判明した。酵素活性を有するタンパク質の変異であるため、心筋症の診断のみならず酵素活性の補充による治療にもつながると期待される。この発見により、cardiacMLCKの創薬標的としての可能性が示唆されたとともに、上記で開発を進めている薬剤の適応判断としてcardiacMLCKの遺伝子背景を解析することの重要性が示唆された。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
本研究の標的分子は平成13-15年に行った厚生労働省科研の成果により同定された新規心不全の病態に関連する分子である。平成22年-25年の本事業においてさらに多くの治験が得られ、cardiacMLCKの創薬標的としての可能性が大きく広がった。cardiacMLCKは重症心不全の患者データ解析により臨床現場から生まれた新規の創薬標的であり、権利関係も同定初期から抑えており、わが国独自開発の心不全治療薬となると期待される。
その他のインパクト
cardiacMLCKの発見およびその機能解析が論文発表された際には、国立循環器病センター内にて記者会見を行い、各新聞社、テレビ番組に取り上げあられ非常に注目を集めた。その後、学会講演会での発表および特許の登録も先行して行われ将来の成果が期待されている。

発表件数

原著論文(和文)
50件
原著論文(英文等)
50件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
6件
「出願」「取得」計6件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakano, A. Kato, H. Watanabe, T.et al
AMPK controls the speed of microtubule polymerization and directional cell migration through CLIP-170 phosphorylation
Nat Cell Biol , 12 (6) , 583-590  (2010)
原著論文2
Mori, M. Kanzaki, H. Amaki, M. et al
Impact of reduced left atrial functions on diagnosis of paroxysmal atrial fibrillation: results from analysis of time-left atrial volume curve determined by two-dimensional speckle tracking
J Cardiol , 57 (1) , 89-94  (2010)
原著論文3
Hashimoto S, Kato TS, Komamura K
The utility of echocardiographic evaluation of donor hearts upon the organ procurement for heart transplantation.
J Cardiol , 57 (2) , 215-222  (2011)
原著論文4
Higo S, Asano Y, Kato H, et al
Isoform-specific intermolecular disulfide bond formation of heterochromatin protein 1 (HP1).
J Biol Chem , 285 (41) , 31337-31347  (2010)
原著論文5
Fu HY, Okada K, Liao Y, etal.
Ablation of C/EBP homologous protein attenuates endoplasmic reticulum-mediated apoptosis and cardiac dysfunction induced by pressure overload.
Circulation , 122 (4) , 361-369  (2010)
原著論文6
Toh N, Kanzaki H, Nakatani S, et al.
Left atrial volume combined with atrial pump function identifies hypertensive patients with a history of paroxysmal atrial fibrillation.
Hypertension , 55 (5) , 1150-1156  (2010)
原著論文7
Sawada T, Minamino T, Fu HY,et al.
X-box binding protein 1 regulates brain natriuretic peptide through a novel AP1/CRE-like element in cardiomyocytes.
J Mol Cell Cardiol , 48 (6) , 1280-1289  (2010)
原著論文8
Min KD, Asakura M, Liao Y, et al.
Identification of genes related to heart failure using global gene expression profiling of human failing myocardium.
Biochem Biophys Res Commun. , 393 (1) , 55-60  (2010)
原著論文9
Shintani Y, Takashima S, Kato H, et al.
Extracellular protein kinase CK2 is a novel associating protein of neuropilin-1.
Biochem Biophys Res Commun. , 385 (4) , 618-623  (2010)
原著論文10
Tsukamoto O, Fujita M, Kato M, et al.
Natriuretic peptides enhance the production of adiponectin in human adipocytes and in patients with chronic heart failure.
J Am Coll Cardiol , 53 (22) , 2070-2077  (2009)
原著論文11
Sasaki H, Asanuma H, Fujita M, et al.
Metformin prevents progression of heart failure in dogs: role of AMP-activated protein kinase.
Circulation , 119 (19) , 2568-2577  (2009)
原著論文12
Takahama H, Minamino T, Asanuma H, et al.
Prolonged targeting of ischemic/reperfused myocardium by liposomal adenosine augments cardioprotection in rats.
J Am Coll Cardiol , 53 (8) , 709-717  (2009)
原著論文13
Asai M, Tsukamoto O, Minamino T, et al.
PKA rapidly enhances proteasome assembly and activity in in vivo canine hearts.
J Mol Cell Cardiol , 46 (4) , 452-462  (2009)
原著論文14
Zhao H, Liao Y, Minamino T, et al.
Inhibition of cardiac remodeling by pravastatin is associated with amelioration of endoplasmic reticulum stress.
Hypertens Res , 31 (10) , 1977-1987  (2008)
原著論文15
Ohara T, Kim J, Asakura M, et al.
Plasma adiponectin is associated with plasma brain natriuretic peptide and cardiac function in healthy subjects.
Hypertens Res , 31 (5) , 825-831  (2008)
原著論文16
Fujita M, Asakura M, Sanada S, et al.
Activation of ecto-5'-nucleotidase in the blood and hearts of patients with chronic heart failure.
J Card Fail , 14 (5) , 426-430  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201007004Z