広域食中毒発生時の早期探知のための調査の迅速化及びゲノム解析技術を利用した調査法の確立に資する研究

文献情報

文献番号
202423015A
報告書区分
総括
研究課題名
広域食中毒発生時の早期探知のための調査の迅速化及びゲノム解析技術を利用した調査法の確立に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA1005
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
明田 幸宏(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 佳司(九州大学 大学院医学研究院)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 廣瀬 昌平(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
  • 平井 晋一郎(国立感染症研究所 感染症危機管理研究センター)
  • 大西 真(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
39,023,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食中毒は国民に対して甚大で直接的な影響を及ぼす。そのため食中毒の発生予防や発生した際には迅速な原因究明を実施し、その健康被害の拡大抑止が必要不可欠である。特に腸管出血性大腸菌(EHEC)による食中毒は、その届出数や重症度も相まって日本の食中毒対策として最も警戒が必要となっている。本研究では迅速な原因究明、アラート発出に資する技術基盤及び情報収集能力向上を目指すことを目的とする。
研究方法
本研究班では、ゲノムシークエンスデータを用いた解析パイプライン構築、臨床由来、食品由来、家畜由来株等のゲノム情報によるデータベース拡充、MLVA法の精度管理、食中毒アラートシステムの改良・感染源の関連性解析、自治体レベルでの解析を試行し、コホート内での原因株の動きを明らかにする離島コホート研究を実施する。また本年度は高知県におけるGBS集発事例とカンピロバクター食中毒との関係性についても検討した。
結果と考察
本研究では、腸管出血性大腸菌(EHEC)による広域食中毒の早期探知と感染源の迅速な特定を目的に、MLVA法および全ゲノム解析(WGS)を用いたサーベイランス体制の強化とデータ基盤の整備を行った。MLVA(多座位変数数反復配列解析)法については、全国の地方衛生研究所(地衛研)から延べ97施設より依頼を受け、計3,074株の分子型別解析を実施した。そのうち2,573株に対しMLVA法を適用し、感染研での型名付与依頼株は約1,300株に及んだ。MLVAデータの精度確認では、遺伝子座ベースで約98%、菌株ベースで約87%の正解率を示し、昨年度と同程度の高精度を維持していた。
また、MLVA法の習熟支援を目的とした研修会を全国から11施設の参加により実施し、データ解析の実習や事例集を活用したトラブルシューティング教育を行った。これにより、技術習得と検査精度向上に資する体制の充実が図られた。特に、MLVA法の安定運用を支える人材育成の重要性と継続的支援の必要性が再確認された。
ゲノム解析に関しては、SNP解析を中心としたパイプライン「SNPcaster」の整備と試験配布を行い、全国16自治体および4研究機関へ展開した。講習会とアンケートを通じ、導入環境や操作性、マニュアル内容へのフィードバックを収集し、ソフトウェアのバグ修正やDocker無償代替への対応も含めた改訂を実施した。今後は広く一般公開を予定しており、各地衛研での活用が期待される。
また、ナノポアシーケンサーを用いた完全長ゲノム配列の取得手法を確立し、EHEC・EPEC43株について構築を完了した。得られた株は25種類の血清型、24種のSTに分類され、全株でプラスミドを確認、MLVAとWGSを組み合わせた解析の有効性が示された。
さらに沖縄県の離島を対象としたコホート研究では、ウシ由来のEHEC分離株のMLVA型と、ヒト由来株との間に高い一致が見られ、農場内の感染伝播可能性が示唆された。
GBSとカンピロバクター食中毒の関連については、高知県における2023年のGBS症例が過去と比較して有意に増加し、先行する胃腸炎やC. jejuni陽性率、鶏肉喫食歴の増加と関連していた。また、ST-22型のC. jejuniが患者と食中毒事例の双方から検出され、病因菌の共通性が示唆された。
最後に、NESIDを活用したEHEC食中毒アラートシステムでは、レベル3以上のアラートを通じた厚生労働省への情報提供が2024年に3回行われ、過去と同等の対応実績を維持していた。特に、海外由来の症例に起因するレベル4相当のアラート発出により、リアルタイムの公衆衛生対応が可能となった。
本研究により、MLVA・WGSを活用した広域食中毒対応力の強化と、病原体追跡技術の全国展開に向けた体制整備が進展した。
結論
コロナ禍以降、EHEC感染症を含む食中毒、食品由来感染症報告数が増加へ転じている。EHEC菌株の解析精緻化、迅速化が原因究明の要となることから、本研究で開発、改良している解析パイプラインや現行型別法であるMLVA法の精度管理、研修をすすめると共に、これまで以上に幅広い対象物よりEHEC菌株を分離し、そのゲノムデータを含む遺伝学的性状を明らかにすることは、迅速な食中毒アラートの発出に有用であることは自明であり、さらに研究開発を進める必要がある。

公開日・更新日

公開日
2025-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-08-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
202423015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
40,400,000円
(2)補助金確定額
39,933,000円
差引額 [(1)-(2)]
467,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 28,267,232円
人件費・謝金 2,914,085円
旅費 4,794,940円
その他 2,579,873円
間接経費 1,377,000円
合計 39,933,130円

備考

備考
補助金交付額の算出方法が千円未満の端数切捨てであることにより生じる自己負担等。
自己負担130円

公開日・更新日

公開日
2025-10-22
更新日
-