食品中のブドウ球菌エンテロトキシンの検出および嘔吐活性の解明に関する研究

文献情報

文献番号
202423009A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中のブドウ球菌エンテロトキシンの検出および嘔吐活性の解明に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA3007
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
廣瀬 昌平(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
2,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
黄色ブドウ球菌が産生するエンテロトキシン(SEs/SEls)は、嘔吐型食中毒の主因であり、特にブドウ球菌エンテロトキシンA(SEA)は日本における事例で最も多く検出されている。SEAは耐熱性を有することで知られているが、加熱による抗原性の失活と嘔吐活性の関係性は明らかでなく、また市販の検出キットの感度にも影響を及ぼす可能性がある。本研究では、(1) 加熱処理によるSEAの抗原性および嘔吐活性への影響を明らかにすること、(2) その検出における市販キット(VIDAS)の有効性を評価すること、(3) 食中毒事例株のゲノム情報を基に、高食中毒原性株の存在を明らかにすることを目的とした。
研究方法
加熱後SEAの評価では、精製したSEAを100℃で30分~12時間加熱し、SDS-PAGEによる構造安定性およびVIDASによる抗原性を評価した。また、加熱後SEA(30分・60分)をコモンマーモセットに経口投与し、嘔吐反応の有無を確認した。一方、ゲノム解析には食中毒事例由来の黄色ブドウ球菌株を用い、コアグラーゼ型別および全ゲノム解析(WGS)を実施した。得られたドラフトゲノムを用いてseqense type (ST)の決定、SE/SEl遺伝子の保有状況、core genome SNP解析およびプロファージφSa3の配列解析などを行った。さらに、食品・ヒト・動物由来株のドラフトゲノムデータを収集し、SE/SEl遺伝子保有率を食中毒事例株と比較した。
結果と考察
加熱後SEAの検出性については、SDS-PAGEでは100℃で4時間加熱後もバンドが確認できたが、VIDASでの定量値は30分加熱で86 µg/mL、1時間で10 µg/mL、4時間で検出限界以下となり、抗原性の大幅な低下が示された。そのため、SEAの全長構造の保持と抗原決定基の熱変性が独立して起こることが示唆された。一方、4℃で保存したSEAは抗原性を保持していた。嘔吐活性の評価では、加熱後SEAによる嘔吐が認められず、過去の報告との相違がみられた。加熱時の溶媒、感受性の違いおよび試験個体数の不足が原因と推測された。SDS-PAGEではバンドが確認されたにもかかわらず嘔吐が誘発されなかったことから、SEAの嘔吐活性には全長残存だけでなく活性部位の立体構造等の機能保持が必要であると考えられた。食中毒事例株の系統解析では、ST6・CoaIV型(sea, selx, sel26保有)株が最も多く、次いでST1およびST81・CoaVII型が多かった。これらの型はcgSNP系統解析でそれぞれ独立したクレードを形成しており、クレード内での遺伝子構成の類似性が認められた。SE/SEl遺伝子保有率の比較では、食中毒事例株ではSEAの保有率が顕著に高く、他のSEG、SEI、SEM、SENおよびSEOなどの遺伝子は食品・ヒト・動物由来株よりも低頻度であった。日本の食中毒事例ではSEA産生株が特に重要であることが再確認された。さらに、φSa3配列の系統解析では、STごとに概ね共通した配列構造が見られ、水平伝播ではなく系統的な伝播が起きていることが示唆された。ただし、一部の例外株では異なる配列が認められ、異系統からの水平伝播の可能性も示された。
結論
本研究によってSEAは構造的には熱に安定であるが、抗原性は加熱により減衰しうることが示された。VIDASなど抗原性に依存する市販キットでは、加熱処理されたSEAの検出が困難である可能性があるため、検査結果の解釈には留意が必要である。横断的なゲノム解析によって特定の遺伝子型(ST6・CoaIVなど)の菌株が日本でブドウ球菌食中毒を発生させやすい可能性が示された。今後のブドウ球菌食中毒のリスク管理において継続的に事例株のゲノム解析を実施し、モニタリングしていくことが重要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2025-08-08
更新日
-

文献情報

文献番号
202423009B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中のブドウ球菌エンテロトキシンの検出および嘔吐活性の解明に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA3007
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
廣瀬 昌平(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
黄色ブドウ球菌が産生するブドウ球菌エンテロトキシン(SE/SEl)、特にブドウ球菌エンテロトキシンA(SEA)は、嘔吐型食中毒の主要な原因物質であり、日本国内の食中毒事例でも頻繁に報告されている。しかし、食品成分や加熱処理がSEAの検出性および嘔吐活性に与える影響については十分に解明されていない。加えて、食中毒事例株には特定の遺伝的背景をもつ高リスク株が存在する可能性が推察されている。本研究では、(1) 主な原因食品中でのSEAの検出性、(2) 加熱処理がSEAの抗原性および嘔吐活性に及ぼす影響、(3) 食中毒事例株の遺伝的背景を網羅的に解析することで、ブドウ球菌食中毒の実態解明と検査信頼性の向上を目的とした。
研究方法
まず、2000~2021年のブドウ球菌食中毒統計に基づき、原因食品を15種類に分類し、主要な食品群を抽出した。次に、米飯、求肥、粒餡、鮭フレークおよび加熱牛肉を対象に精製したSEAを添加して市販ELISAキット(VIDAS)による回収率および定量値(TV値)を評価した。また、100℃で最大12時間加熱したSEAについて、抗原性の変化をVIDASで、構造安定性をSDS-PAGEで分析した。さらに、SEAの嘔吐活性は、非加熱および加熱SEAを小型霊長類(コモンマーモセット)に経口投与して評価した。食中毒事例株については、コアグラーゼ型、SE/SEl遺伝子の保有状況、全ゲノム解析(MLST、cgSNP、φSa3配列)を実施した。SE/SEl遺伝子の保有状況については、食品・ヒト・動物由来株との比較を行った。
結果と考察
食品中でのSEA検出性については、米飯と加熱牛肉では高回収率(約100%)が得られた一方で、求肥、粒餡、鮭フレークでは50~70%と低く、特に0.125 ng/gといった低濃度条件下ではVIDASでの非検出が多数確認された。食品成分がSEAの吸着や抗原抗体反応に干渉する可能性が示唆された。加熱SEAの評価では、100℃30分加熱で抗原性が約1/3に、2時間で約1/800に低下し、4時間後にはVIDASでの検出限界以下となったが、SDS-PAGEでは構造バンドが維持されていた。このことから、構造保持と抗原性保持が一致しないことが示された。また、4℃保存では抗原性が維持され、SEAの低温安定性も確認された。コモンマーモセットへの経口投与では、加熱SEAによる嘔吐が認められず、過去の報告との相違がみられた。加熱時の溶媒、感受性の違いおよび試験個体数の不足が原因と推測された。食中毒事例株の解析では、ST6・CoaIV型でsea, selx, sel26を保有する株が最も多く、次いでST1、ST81のクレードが確認された。cgSNP解析により、各クレード内でコアグラーゼ型やSE遺伝子パターンの一致が確認され、特定の遺伝子型に偏った高食中毒原性株群の存在が示唆された。さらに、SEA遺伝子を保有する割合は食中毒事例株で顕著に高く、一方でSEG、SEI、SEM、SENおよびSEO遺伝子などは食品・ヒトおよび動物由来株に多く、SEAが日本の食中毒において中心的役割を果たすことが裏付けられた。プロファージφSa3配列の解析でも、特定のST群内で高い相同性が認められ、遺伝子伝播の系統的偏りが確認された。
結論
本研究によって食品の種類や加熱条件がSEAの検出性や嘔吐活性に大きく影響することが明らかになり、市販キットによる検出限界や誤判定の可能性を考慮する必要性が示された。また、食中毒事例株の遺伝的背景として、ST6・CoaIV型を中心としたsea保有株の優勢が確認され、日本における食中毒の主因としてSEAが重要であることが再確認された。今後も高食中毒原性菌株のモニタリングを継続し食中毒リスクを包括的に評価していくことが求められる。

公開日・更新日

公開日
2025-08-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202423009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、黄色ブドウ球菌が産生するエンテロトキシンA(SEA)を中心に、食品中での検出性、耐熱性、嘔吐活性および食中毒事例株の遺伝的背景に関する系統解析を行った。特に網羅的なゲノム解析により、日本国内の食中毒事例株で優勢な特定の遺伝子型株群が、SEAをはじめとする特定の毒素遺伝子保有パターンを示すことを明らかにした。これは黄色ブドウ球菌の中の高食中毒原性株群の存在を示唆しており、食中毒調査における迅速な原因菌株の検出・同定および高食中毒原性株の監視による食中毒予防に貢献することが期待される。
臨床的観点からの成果
本研究によってSEAの抗原性および嘔吐活性が食品成分や加熱処理の影響を受けることが示された。そのため、食中毒検査において検体の状態が毒素検出性に与える影響を考慮した判断や原因物質候補の慎重な照合が求められる。また、特定の遺伝子型に由来する高食中毒原性株の存在が示唆され、今後のアウトブレイク時のリスク評価や原因菌同定に資する知見が得られた。これらの知見は、食中毒調査で注視すべき特定の毒素遺伝子型に対する迅速検査法の導入等を通じ、食品汚染源の早期特定など食の安全確保に直結する施策への応用に繋がる。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
202423009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,800,000円
(2)補助金確定額
2,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,034,553円
人件費・謝金 162,000円
旅費 487,350円
その他 116,097円
間接経費 0円
合計 2,800,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2025-08-04
更新日
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