高機能なヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞を用いたポリフェノール類吸収評価系の構築

文献情報

文献番号
202423007A
報告書区分
総括
研究課題名
高機能なヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞を用いたポリフェノール類吸収評価系の構築
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA3005
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
植山 由希子(鳥羽 由希子)(国立大学法人大阪大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
2,155,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ポリフェノール類は生体内で抗酸化作用を発現し、老化やがんを予防することが示唆されている。しかし、ポリフェノール類を含む製品の摂取による健康被害も報告されている。そこで、ポリフェノール類を含む食品の摂取基準をより正確に制定する必要がある。食品やサプリメントなどの経口摂取成分は、消化管から生体内に取り込まれて生理機能を発揮する。したがって、ポリフェノール類の消化管における吸収機序を明らかにすることは、それらを含む健康食品等の安全性を担保するために必須である。
そこで、本研究ではポリフェノール類の正確な吸収評価を可能とする技術の開発を試みる。具体的には、ヒト人工多能性幹(induced pluripotent stem; iPS)細胞から分化誘導した小腸上皮細胞を用いて、ポリフェノール類の吸収評価系を構築する。高機能なヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞を作製可能な分化誘導法を開発し、より生体を模したin vitro評価系の構築とその社会実装を目指す。
研究方法
令和5年度までに開発したヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞オルガノイド単層膜を用いて、検討を進めた。エピガロカテキンガレート(Epigallocatechin Gallate; EGCG)を作用させた後に、遺伝子発現量を定量的RT-PCR法により解析した。EGCGの腸管毒性を検討するため、EGCGを作用させた細胞の細胞生存率をWST-8 assayにより評価した。また、腸管上皮細胞の機能評価には、定量的RT-PCR法や免疫染色法などの生化学的手法を用いた。また、電子顕微鏡を用いた微細構造の観察や、経上皮膜電位抵抗値の測定も行なった。
結果と考察
令和5年度までに、ヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞をオルガノイド培養することで、機能と汎用性を兼ね備えた培養系の構築に成功した。さらに、より生体に模した培養系として、上皮バリア機能を有した単層膜の形成に成功したことを示してきた。令和6年度では、確立したヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞オルガノイドの単層膜を用いて、ポリフェノール類の吸収評価系の確立を試みた。緑茶に豊富に含まれるエピガロカテキンガレートを作用させ、その表現系を評価した。遺伝子発現解析を行なった結果、既報通りの発現変動を示した遺伝子が存在した一方で、仮説と異なる挙動を示した遺伝子があった。また、エピガロカテキンガレートを作用させても、1 mMのエピガロカテキンガレートまででは毒性は認められなかった。そこで、より高度に生体を模した培養系が必要である可能性を考慮し、ヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞オルガノイドから単層膜を作成する方法の改良を行なった。腸管は生体において頂端側が空気にさらされているため、作製した単層膜もそのような環境を再現することでより高度な吸収評価が可能になるのではないかと考え、気相液相界面(air-liquid interface: ALI)培養と呼ばれる方法で培養することを試みた。解析を実施した結果、ALI培養を導入することで、一部の腸管機能を担う遺伝子の発現量は増加したが、酵素活性やトランスポーター活性の増加は認められなかった。しかし、腸管の頂端側を覆う粘液層の成分であるムチンの分泌が増加している可能性が示され、より生体に近い構造を構築することに成功した。
結論
ポリフェノール類の吸収や毒性評価に応用可能な小腸上皮細胞の作製技術の開発を行なった。ALI培養を導入することで、より整体に近い構造を構築することに成功した。今後は、食品由来成分の安全性評価に資する技術であるか示すことを目的とした評価を進めたい

公開日・更新日

公開日
2025-08-14
更新日
-

文献情報

文献番号
202423007B
報告書区分
総合
研究課題名
高機能なヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞を用いたポリフェノール類吸収評価系の構築
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA3005
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
植山 由希子(鳥羽 由希子)(国立大学法人大阪大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ポリフェノール類は生体内で抗酸化作用を発現し、老化やがんを予防することが示唆されている。しかし、ポリフェノール類を含む製品の摂取による健康被害も報告されている。そこで、ポリフェノール類を含む食品の摂取基準をより正確に制定する必要がある。食品やサプリメントなどの経口摂取成分は、消化管から生体内に取り込まれて生理機能を発揮する。したがって、ポリフェノール類の消化管における吸収機序を明らかにすることは、それらを含む健康食品等の安全性を担保するために必須である。
そこで、本研究ではポリフェノール類の正確な吸収評価を可能とする技術の開発を試みる。具体的には、ヒト人工多能性幹(induced pluripotent stem; iPS)細胞から分化誘導した小腸上皮細胞を用いて、ポリフェノール類の吸収評価系を構築する。高機能なヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞を作製可能な分化誘導法を開発し、より生体を模したin vitro評価系の構築とその社会実装を目指す。
研究方法
ヒトiPS細胞から小腸上皮細胞への分化誘導法の改良には発生学的に有効であることが示唆されているシグナル伝達系を作用点とする化合物やリコンビナントタンパク質を対象に、スクリーニングを実施した。
腸管上皮細胞の機能評価には、小腸上皮細胞マーカーや薬物代謝酵素、トランスポーターの遺伝子発現量を定量的RT-PCR法あるいは免疫染色法などの生化学的手法を用いた。また、電子顕微鏡を用いた微細構造の観察や、経上皮膜電位抵抗値の測定も行なった。
薬物代謝酵素の基質を作用させ、未変化体およびその代謝物の量をUPLC-MS/MSを用いて測定することで、薬物代謝酵素活性の測定を行なった。トランスポーターの活性は、RI標識された基質を用いて評価した。
結果と考察
従来のヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞は、生検組織と比較して薬物代謝酵素やトランスポーターの機能が劣ることが指摘されている。したがって、本研究の最終目標達成のためには、ヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞への分化誘導法の改良が必須であった。そこで、令和4年度(1年目)では、高機能なヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞を分化誘導するための条件検討を行った。従来の分化誘導法で作製した細胞と比較して、薬物代謝酵素の活性は、改良後のヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞において有意に高い値を示した。また、小腸上皮細胞に発現する代表的な排出トランスポーターの活性を測定した結果、従来法と比較して改良後の細胞において有意に高い値を示した。しかし、一部のトランスポーターは活性を示さなかった。そこで、令和5年度(2年目)では、さらなる改良のために、オルガノイド培養に着手し、機能と汎用性を兼ね備えた培養系の構築に成功した。ヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞をオルガノイド培養用の培地で三次元培養を行うと、風船状の構造を持った細胞塊が観察された。この細胞塊は50回以上の継代培養が可能であった。さらに、より生体に模した培養系とするために単層膜の形成を試みた。セルカルチャーインサー上に細胞を播種し独自に開発した培地で培養を行った結果、経上皮電気抵抗値の継時的な増加が認められた。この結果から、上皮バリア機能を有した単層膜の形成に成功したことが示唆された。さらに、腸管は生体において頂端側が空気にさらされているため、作製した単層膜もそのような環境を再現することでより高度な吸収評価が可能になるのではないかと考え、気相液相界面(air-liquid interface: ALI)培養と呼ばれる方法で培養することを試みた。解析を実施した結果、ALI培養を導入することで、一部の腸管機能を担う遺伝子の発現量は増加したが、酵素活性やトランスポーター活性の増加は認められなかった。しかし、腸管の頂端側を覆う粘液層の成分であるムチンの分泌が増加している可能性が示され、より生体に近い構造を構築することに成功した。本課題の研究期間内でポリフェノール類の吸収評価系の確立や細胞毒性の評価まで詳細に検討することができなかった。今後、本培養系を用いて、これまで実施困難であった食品由来成分の安全性評価等ができるよう検討を進める。
結論
ポリフェノール類の吸収や毒性評価に応用可能な小腸上皮細胞の作製技術の開発を行なった。ヒトiPS細胞から分化誘導された小腸上皮細胞では、機能の一部が不十分だったため、オルガノイド培養技術やALI培養を導入し、これを解決した。今後は、食品由来成分の安全性評価に資する技術であるか示すことを目的とした評価を進めたい。

公開日・更新日

公開日
2025-08-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202423007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我々は、ヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞オルガノイドとその単層膜の作製技術の開発に成功した。これは、従来の腸管上皮細胞モデルよりも高い機能と汎用性を持った細胞である。実際に、薬物代謝酵素やトランスポーターの活性を評価し、医薬品開発過程や食品の安全性評価などへの実装が十分に可能であることを示した。これらの成果は、海外学術誌に掲載された。
臨床的観点からの成果
in vitro評価系の構築を目指したため、臨床的観点からの成果に直接該当するものはない。しかし、今後、我々が開発した培養系を用いた安全性評価が確立した場合、食品由来の健康被害のリスク低下が期待される。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
従来の腸管上皮細胞モデルよりも高い機能と汎用性を持ったヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞オルガノイドとその単層膜の作製技術の開発に成功した。今後、我々が開発した培養系を用いた安全性評価が確立を行い、ガイドライン等への反映を目指したい。
その他のインパクト
薬物の動態評価に応用し、簡便・迅速な医薬品開発へ貢献する高機能な腸管オルガノイドの作製に成功したことについて、プレスリリースを発表した(2024年3月1日、ResOUに掲載)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tatsuya Inui, Yusei Uraya, Yukiko Ueyama-Toba et al
Air-liquid interface culture alters the characteristics and functions of monolayers generated from human iPS cell‑derived enterocyte‑like cell organoids
European Journal of Cell Biology , 104 (2)  (2025)
doi: 10.1016/j.ejcb.2025.151479.
原著論文2
Inui T., Uraya Y., Yokota J. et al.
Functional intestinal monolayers from organoids derived from human iPS cells for drug discovery research
Stem Cell Research & Therapy , 15 (57)  (2024)
doi: 10.1186/s13287-024-03685-5.

公開日・更新日

公開日
2025-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
202423007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,800,000円
(2)補助金確定額
2,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,132,769円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 22,231円
間接経費 645,000円
合計 2,800,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2025-09-03
更新日
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