飲料水中の有機リン化合物の健康影響評価に関する研究

文献情報

文献番号
202423006A
報告書区分
総括
研究課題名
飲料水中の有機リン化合物の健康影響評価に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA3004
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
徳村 雅弘(静岡県公立大学法人 静岡県立大学 食品栄養科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 王 斉(ワン チー)(労働安全衛生総合研究所 生体防御評価研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
2,720,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 有機リン化合物はプラスチックの難燃剤や可塑剤として使用され,室内空気やハウスダストを介した曝露が主要とされている。一方,近年,我が国においてウォーターサーバーを設置し常飲する家庭が急増しているが,海外の事例では,その水中から高濃度の有機リン化合物が検出されたことが報告されている。
 飲料水は調理過程にて加熱されることがあり,また,COVID-19の影響から,紫外線照射などの化学反応を伴う浄水器も普及し始めている。有機リン化合物は,加熱や光照射により置換基の脱離など,非意図的変化体を生成し,毒性が向上する場合もある。
 本研究では,飲料水に含まれる有機リン化合物の分析方法の精緻化および汚染実態調査を行う。また,非意図的変化体についても測定・毒性試験(アセチルコリンエステラーゼ阻害能評価)を行う。以上により,多様化する飲料水中の有機リン化合物に対し,優先的に取り組みを進めるべき物質や広く事業者がリスク低減に取り組めるような提案を行うことを目的とする。
研究方法
 有機リン化合物の汚染実態調査:飲料水として、ウォーターサーバーの水、浄水器により浄水した水を対象とする。液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて、飲料水中の有機リン化合物の一斉分析法を開発し、IUPACの国際ハーモナイズドガイドラインを参考に分析法の妥当性を検証し、それを用いて飲料水中濃度の測定を行う。
結果と考察
 前年度までに開発・妥当性検証を行った有機リン化合物19種の一斉分析法を活用し,ウォーターサーバーおよび家庭用浄水器を通した飲料水における有機リン化合物の汚染実態調査を行った。ウォーターサーバーについては,「リターナブル式」,「ワンウェイ式」,「浄水型」の3種のウォーターサーバーを含め,形態の異なる機種から採水を実施した。その結果,19種中4種の化合物が検出頻度50%以上で検出され,濃度の中央値が高い順にtriphenyl phosphine oxide(TPhPO)(150 ng L−1),tris(2-chloroethyl) phosphate(TCEP)(65 ng L−1),tris(2-chloroisopropyl) phosphate(TCPP)(24 ng L−1),tributyl phosphate(TBP)(1.6 ng L−1)であった。汚染要因の検討では,有機リン化合物のオクタノール/水分配係数(Log KOW)とウォーターサーバー水中濃度の間に統計的な有意差が見られ,本研究で対象としてる有機リン化合物においては親油性の高い化合物ほどウォーターサーバー水中に移行しやすい傾向が示された。一方,浄水器でろ過した水からは測定対象とした有機リン化合物 19 種類のうち,10種類の有機リン化合物が検出された。なかでもtriphenyl phosphate(TPhP)(14 ng L−1),TCEP(280 ng L−1),tris(1,3-dichloro-2-propyl) phosphate(TDCPP)(270 ng L−1),tris(2-ethylhexyl) phosphate(TEHP)(410 ng L−1)が比較的高濃度で検出された。
結論
 飲料水中の有機リン系化合物の測定法を開発した。飲料水としてウォーターサーバーの水中の有機リン化合物濃度を測定した結果,特に検出頻度と濃度が高かったのは、TPhPO,TCEP,TCPP,TBPであった。EDIから推算したHQは10−4から10−6の値となった。
 浄水器を通した水中の有機リン化合物濃度については,TEHP,TCEP,TDCPPが比較的高濃度で検出されたが、それぞれのEDIから推算したHQは10−4から10−6の値となった。
 ウォーターサーバーの飲料水の汚染要因としては,現時点で得られているデータにおいては,ウォーターサーバーの使用年数とウォーターサーバーの水中の有機リン化合物濃度などには統計学的な有意差はなく,有機リン化合物のオクタノール/水分配係数(Log KOW)とウォーターサーバーの水中の有機リン化合物濃度に統計学的な有意差がみられた。
 以上の結果から,ウォーターサーバーの水中の有機リン化合物の汚染経路として,ウォーターサーバーのウォーターサーバーボトルと取水口の間に使用されているシリコンチューブの透過性が,ウォーターサーバーの水中の有機リン化合物濃度に関連している可能性が考えられた。

公開日・更新日

公開日
2025-08-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-08-14
更新日
-

文献情報

文献番号
202423006B
報告書区分
総合
研究課題名
飲料水中の有機リン化合物の健康影響評価に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA3004
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
徳村 雅弘(静岡県公立大学法人 静岡県立大学 食品栄養科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 王 斉(ワン チー)(労働安全衛生総合研究所 生体防御評価研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 有機リン化合物はプラスチックの難燃剤や可塑剤として使用され,室内空気やハウスダストを介した曝露が主要とされている。一方,近年,我が国においてウォーターサーバーを設置し常飲する家庭が急増しているが,海外の事例では,その水中から高濃度の有機リン化合物が検出されたことが報告されている。
 飲料水は調理過程にて加熱されることがあり,また,COVID-19の影響から,紫外線照射などの化学反応を伴う浄水器も普及し始めている。有機リン化合物は,加熱や光照射により置換基の脱離など,非意図的変化体を生成し,毒性が向上する場合もある。
 本研究では,飲料水に含まれる有機リン化合物の分析方法の精緻化および汚染実態調査を行う。また,非意図的変化体についても測定・毒性試験(アセチルコリンエステラーゼ阻害能評価)を行う。以上により,多様化する飲料水中の有機リン化合物に対し,優先的に取り組みを進めるべき物質や広く事業者がリスク低減に取り組めるような提案を行うことを目的とする。
研究方法
 有機リン化合物の汚染実態調査:飲料水として、水道水、ウォーターサーバーの水、浄水器により浄水した水、ボトルドウォーターを対象とする。液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて、飲料水中の有機リン化合物の一斉分析法を開発し、IUPACの国際ハーモナイズドガイドラインを参考に分析法の妥当性を検証し、それを用いて飲料水中濃度の測定を行う。
 非意図的変化体の汚染実態調査:既往研究にて環境水および飲料水からの検出例のある有機リン化合物の非意図的変化体として、リン酸ジエステル類およびリン酸モノエステル類を対象として、飲料水中の分析法を開発する。分析はLC-MS/MSを用いて行う。
 AChE活性阻害能評価:有機リン化合物の非意図的変化体で、特に毒性の向上が懸念される神経毒性に着目し、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性阻害試験を行う。一方、リガンドドッキング計算(in silico評価)によりスクリーニングすることで、AChE活性阻害試験の優先順位をつけ、効率的に試験を行う。AChE活性阻害試験はEllmanらの方法を基とした改良型Ellman法により行う。
結果と考察
本研究では、飲料水中に含まれる有機リン化合物およびその非意図的変化体の汚染実態と毒性に着目し、多様化する飲料水供給形態に対応した網羅的な評価を実施した。まず、飲料水中濃度レベルに適用可能な有機リン化合物19種の一斉分析法について、前処理条件および液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)の分析パラメーターの最適化を行い、繰返し精度、ブランク、添加回収率などを指標とした妥当性検証を完了した。その分析法を用いて、ウォーターサーバー(リターナブル式、ワンウェイ式、浄水型)および家庭用浄水器を通した水における汚染実態調査を行った。その結果、ウォーターサーバー水からは19種中4種(triphenyl phosphine oxide: TPhPO、tris(2-chloroethyl) phosphate: TCEP、tris(2-chloroisopropyl) phosphate: TCPP、tributyl phosphate: TBP)が検出頻度50%以上で検出され、TPhPOが最も高濃度(中央値150 ng L−1)であった。また、有機リン化合物のオクタノール/水分配係数(Log KOW)と水中濃度の間に統計的な相関が認められ、親油性が汚染挙動に影響する可能性が示唆された。一方、浄水器でろ過した水からは10種の有機リン化合物が検出され、tris(2-ethylhexyl) phosphate(TEHP)(410 ng L−1)やtris(1,3-dichloro-2-propyl) phosphate(TDCPP)(270 ng L−1)などが比較的高濃度で検出された。さらに、加熱や紫外線照射によって生成する可能性のある非意図的変化体(リン酸ジエステル類・モノエステル類)についても調査を実施した。in silicoによるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害能の予測により優先的に評価すべき変化体を選定し、AChEとのドッキングシミュレーションを実施した上で、毒性の上昇が懸念される化合物に対してin vitroでのAChE活性阻害試験を行った。
結論
 飲料水中の有機リン系化合物の測定法を開発した。飲料水としてウォーターサーバーの水中の有機リン化合物濃度を測定した結果,特に検出頻度と濃度が高かったのは、TPhPO,TCEP,TCPP,TBPであった。EDIから推算したHQは10−4から10−6の値となった。

公開日・更新日

公開日
2025-08-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202423006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
飲料水中の有機リン化合物および変化体の網羅的分析法を確立し、汚染実態とヒト健康リスクを明らかにした。研究成果は国際学術誌の Chemosphere やScience of the Total Environment (インパクトファクター=8.2)などに掲載され、また、国内外の学会(国際会議:5件、国内会議:21件)での発表により研究奨励賞や優秀発表賞などを計10件受賞し、学術的・社会的意義が高く評価された。
臨床的観点からの成果
特になし。
ガイドライン等の開発
飲料水中に含まれる有機リン化合物の一部は現行の水質基準では規制対象外であるが、本研究では健康リスクが直ちに高いとは考えにくいものの、検出頻度が高く注意喚起が望まれる物質が複数確認された。これを踏まえ、論文発表や学会報告を通じて情報発信を行い、関連業界へのヒアリング・情報提供も実施した。今後は自主的なガイドライン整備や行政的対応の参考となることが期待される。
その他行政的観点からの成果
本研究により、飲料水中の有機リン化合物の実態が明らかとなり、現行の水質基準では対象外の物質についても濃度情報を得ることができた。多くの物質は直ちに健康リスクを示す濃度ではなかったが、得られた知見は今後の濃度指針値の検討や水質ガイドライン整備の基礎資料として活用可能である。さらに、飲料水の安全性が担保されていることを科学的に示した点も、行政的に大きな意義を有する。
その他のインパクト
本研究の成果は、国際誌『Science of The Total Environment』などに掲載されており、学術界への波及効果が期待される。室内環境学会や環境化学会での発表、サマースクールでの高校生向け啓発、業界向け講演会に加え、研究室ホームページでも成果を随時公開しており、一般社会や関係機関への情報発信と社会的関心の向上に貢献している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件
市民向け説明会4件、業界関係者向け説明会1件、ホームページ1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tsugumi Uchida, Masahiro Tokumura, Masakazu Makino et al.
Occurrence and risk assessment of organophosphorus esters in drinking water collected from water dispenser systems in Japan
Science of The Total Environment  (2025)
原著論文2
Yuna Nishiyama, Masahiro Tokumura, Masakazu Makino et al.
Dermal Exposure to Organophosphorus Compounds in Home Video Game Controllers
Environment & Health  (2025)
原著論文3
Mai Shindo, Masahiro Tokumura, Masakazu Makino et al.
Determination of Potential Dermal Exposure Rates of Phosphorus Flame Retardants via the Direct Contact with a Car Seat using Artificial Skin
Chemosphere  (2024)

公開日・更新日

公開日
2025-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
202423006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,000,000円
(2)補助金確定額
3,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,977,107円
人件費・謝金 459,735円
旅費 198,918円
その他 84,240円
間接経費 280,000円
合計 3,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-08-26
更新日
-