神経変性疾患の原因となるプリオン様蛋白の家畜における発現分布および生物種間伝達の調査研究

文献情報

文献番号
202423005A
報告書区分
総括
研究課題名
神経変性疾患の原因となるプリオン様蛋白の家畜における発現分布および生物種間伝達の調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA3003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
Chambers James(チェンバーズ ジェームズ)(国立大学法人東京大学 大学院農学生命科学研究科獣医学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 内田 和幸(東京大学大学院 農学生命科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
2,078,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経変性疾患では特定の蛋白が神経組織に蓄積し、進行性に神経細胞が脱落する。これまでにアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症の患者の神経組織においてβ-amyloid(Aβ)、Tau、α-synuclein(αsyn)、TDP-43等の蓄積蛋白が同定されている。これらの蛋白はプリオンのように神経組織内で伝播することが示されており、患者の組織から抽出した蛋白を腸(マウス)または脳(マウス、サル)に接種することにより、それぞれ疾患特異的な蛋白が固体間で伝達することが近年確認された。また、申請者はヒト型Tauを過剰発現するマウスの脳を解析し、Tauの蓄積とともにαsynが蓄積することを明らかにした。すなわち、ヒト型Tauがseedとなり、マウス型αsynが蓄積する可能性が示唆された。これらのことから、動物に由来する蛋白をseedとしてヒトの蛋白が蓄積する可能性が考えられるため、食肉を介して神経変性疾患の原因蛋白を摂取するリスクを評価する必要性がある。そこで本研究は、食の安全性をふまえて以下の課題を明らかにすることを目的とした。
①神経変性疾患の原因となるプリオン様蛋白が食肉となる家畜の組織に存在するのか
②異なる種類のプリオン様蛋白が神経組織において伝播するのか
③動物種間でプリオン様蛋白が伝達するのか
研究方法
本年度は研究目的③に関連する実験を行った。高リン酸化Tauの蓄積がみられたヤギおよびネコの脳組織から蛋白質を抽出し、TBS可溶性/不溶性、サルコシル可溶性/不溶性分画を分離した。サルコシル不溶性分画の抽出物を溶媒で混和し、混和物を野生型マウス(C57BL/6)4週齢の脳の線状体に接種した。対照として非接種群を設けた。接種から3ヶ月後に安楽死し、解剖を行なった。脳を採取し10%中性緩衝ホルマリンで固定した後にパラフィン包埋した。HE染色および免疫染色を実施した。免疫染色には抗高リン酸化Tau抗体(AT8)等を用いた。この他に昨年度から継続して①に関連する研究として偶蹄目の動物(豚4頭、イノシシ1頭、牛5頭、山羊9頭、鹿1頭)の脳における高リン酸化Tau蓄積を同様の方法で解析した。
結果と考察
ヤギの脳の抽物物を接種した群および無接種対照群では、脳に形態的な異常や異常蛋白の蓄積は観察されなかった。ネコの脳の抽出物を接種した群では3頭のうち1頭で接種部と同側の線状体周囲の島皮質においてAT8陽性の高リン酸化Tauが蓄積した神経細胞が散見された。高リン酸化Tauは神経細胞の細胞体および同細胞の突起に顆粒状に観察された。本研究の結果から、高リン酸化Tauが動物種間で伝達する可能性が考えられ、同蛋白がプリオン様の性質を有することが示唆された。本研究では観察期間および個体数が少ないため、再現実験および接種する蛋白の量や接種経路および観察期間などの条件を変えて追加実験を行い、研究結果の意義をさらに精査する必要がある。
偶蹄目の動物の脳の解析については、豚2/4頭(10歳以上)、イノシシ1/1頭(19歳)、牛1/5頭(19歳)、山羊5/9頭(9歳以上)の大脳において高リン酸化Tauが神経細胞に蓄積する像を認めた。また、これらの動物ではAmyloid-βの蓄積は観察されなかった。これらの結果から、偶蹄目の動物では加齢性に脳に高リン酸化Tauが蓄積することが明らかになった。
結論
本研究では、偶蹄目の動物の脳において高リン酸化Tauが蓄積することを明らかにした。高リン酸化Tauの蓄積は高齢個体の脳に観察されたことから、一般に市場に流通する個体や解剖学的部位に高リン酸化Tauが蓄積する可能性は低いと考えられる。また、山羊の脳抽出物をマウスに接種した実験では高リン酸化Tauの蓄積が認められなかったことから、プリオン様蛋白の伝達には蛋白量や動物種などの要因が関与すると考えられた。本研究では統計学的な解析を実施するには調査個体数が少ないため、さらに個体数を増やして研究する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2025-08-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-08-19
更新日
-

文献情報

文献番号
202423005B
報告書区分
総合
研究課題名
神経変性疾患の原因となるプリオン様蛋白の家畜における発現分布および生物種間伝達の調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA3003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
Chambers James(チェンバーズ ジェームズ)(国立大学法人東京大学 大学院農学生命科学研究科獣医学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 内田 和幸(東京大学大学院 農学生命科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経変性疾患では特定の蛋白が神経組織に蓄積し、進行性に神経細胞が脱落する。これまでにアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症の患者の神経組織においてβ-amyloid(Aβ)、Tau、α-synuclein(αsyn)、TDP-43等の蓄積蛋白が同定されている。これらの蛋白はプリオンのように神経組織内で伝播することが示されており、患者の組織から抽出した蛋白を腸(マウス)または脳(マウス、サル)に接種することにより、それぞれ疾患特異的な蛋白が固体間で伝達することが近年確認された。また、申請者はヒト型Tauを過剰発現するマウスの脳を解析し、Tauの蓄積とともにαsynが蓄積することを明らかにした。すなわち、ヒト型Tauがseedとなり、マウス型αsynが蓄積する可能性が示唆された。これらのことから、動物に由来する蛋白をseedとしてヒトの蛋白が蓄積する可能性が考えられるため、食肉を介して神経変性疾患の原因蛋白を摂取するリスクを評価する必要性がある。そこで本研究は、食の安全性をふまえて以下の課題を明らかにすることを目的とした。
① 神経変性疾患の原因となるプリオン様蛋白が食肉となる家畜の組織に存在するのか
② 異なる種類のプリオン様蛋白が神経組織において伝播するのか
③ 動物種間でプリオン様蛋白が伝達するのか
研究方法
課題①:偶蹄目(豚、イノシシ、牛、山羊、鹿)奇蹄目(馬)、鳥類(鶏、その他)の脳組織の切片を作成し、免疫組織化学により生理的な蛋白発現および異常蓄積物を調べた。また、Proteinase K処理を行い凝集蛋白の酵素抵抗性を確認した。豚および山羊の末梢神経組織についても解析した。
課題②:ヒト型Tau発現マウス(rTg4510)の脳を免疫組織化学的に解析した。蛋白凝集物については、ギ酸処理および酵素処理による抵抗性を評価するとともに、二重免疫染色により蛋白が凝集する細胞の種類の同定および異なる蛋白の細胞内共凝集を確認した。脳組織におけるTDP-43の量をウェスタンブロットで比較した。ドキシサイクリン投与によりヒト型Tauの発現を抑制した個体群についても同様に解析した。
課題③:p-Tauの蓄積がみられたヤギおよびネコの脳凍結サンプルから抽出したサルコシル不溶性分画を野生型マウス(c57/B6)の脳に接種し、3ヶ月後に解剖し脳組織の切片を作成、病理組織学および免疫組織化学的に解析した。
結果と考察
課題①:牛、山羊、馬、豚、鳥の脳においてTauおよびα-synの生理的な発現を認めた。高齢の牛、山羊、馬、豚、イノシシの脳においてp-Tauの蓄積を認めた。高齢の鳥類の脳においてAβの蓄積を認めた。以上のことから、家畜およびジビエに供される動物の脳において神経変性疾患に関連する蛋白が生理的に発現しており、加齢性に異常蓄積すると考えられた。また、脳に蛋白の異常蓄積が認められた動物の末梢神経を解析したところ、蛋白の異常蓄積は認められなかった。
課題②:脳の各領域においてヒト型p-Tauの凝集が先行し、p-Tauが凝集した細胞においてのみマウス型p-TDP43の凝集を認めた。ヒト型p-Tauとマウス型p-TDP43が細胞内で共局在する像が観察された。また、ヒト型p-Tau蓄積の程度と相関してマウス型p-TDP43の蓄積が促進されることが分かった。さらに、ドキシサクリン投与によりヒト型p-Tauの発現を抑制したところ、マウス型p-TDP43の凝集が抑制された。本研究の結果から、異種蛋白の凝集物が他の蛋白の凝集を促進すると考えらえた。
課題③:ヤギの脳抽出物接種群および無接種群では脳に異常蛋白の蓄積は観察されなかったが、ネコの脳抽出物接種群では3頭のうち1頭で接種部と同側の大脳においてp-Tauが蓄積した神経細胞が散見された。本研究の結果から、p-Tauが動物種間で伝達する可能性が考えられた。
結論
課題①:家畜およびジビエに供される動物の脳において神経変性疾患に関連する蛋白が生理的に発現しており、加齢性にp-Tauが異常蓄積することを明らかにした。一般に市場に流通する若齢個体の中枢神経系を除く組織については異常蛋白を摂取するリスクは小さいと考えられる。
課題②:ヒト型p-Tauの蓄積にともないマウス型p-TDP43が蓄積することを実験的に示した。すなわち、一定の条件において異なる種類の蛋白が凝集を促進し、脳内に広がると考えられる。
課題③:一定の条件においてp-Tauが動物種間で伝達する可能性が示唆され、動物においても同蛋白がプリオン様の性質を有することが考えられた。本研究結果の意義については、再現実験を行い精査する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2025-08-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-08-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202423005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食用家畜種を含む偶蹄目の動物の脳において高リン酸化Tauが蓄積することを明らかにした。これまで脳における高リン酸化Tauの蓄積はヒトおよび一部の動物種のみで報告されていた。本研究成果は脳における高リン酸化Tauの蓄積が普遍的な現象であることを示しており、専門的な学会にて反響があった。
臨床的観点からの成果
偶蹄目の動物では脳に高リン酸化Tauの蓄積が認められたが、Amyloid-βの蓄積は観察されなかった。このことから、Amyloid-βの蓄積とは関係なく加齢性に高リン酸化Tauが蓄積すると考えられた。本知見は直接的に臨床に応用されるものではないが、ヒトの神経変性疾患の病態解明において間接的に寄与すると考えられる。
ガイドライン等の開発
本研究に関連するガイドライン等の開発は無い。
その他行政的観点からの成果
食用家畜種を含む偶蹄目の動物の脳において高リン酸化Tauが蓄積することを明らかにした。高リン酸化Tauの蓄積は高齢個体に観察されたことから、一般に市場に流通する年齢の個体については伝達性のリスクは小さいと考えられた。
その他のインパクト
本研究に関連するその他の社会的インパクトは無い。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakayama Y, Chambers JK, Takaichi Y, et al.
Cytoplasmic aggregation of TDP43 and topographic correlation with tau and α-synuclein accumulation in the rTg4510 mouse model of tauopathy
J Neuropathology Exp Neurol , 83 (10) , 833-842  (2024)
10.1093/jnen/nlae063

公開日・更新日

公開日
2025-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
202423005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,700,000円
(2)補助金確定額
2,700,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,701,536円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 386,850円
間接経費 622,000円
合計 2,710,386円

備考

備考
自己負担10,386円

公開日・更新日

公開日
2025-09-02
更新日
-