文献情報
文献番号
199700742A
報告書区分
総括
研究課題名
薬用生物資源の分布調査とその活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
佐竹 元吉(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
- 後藤勝実(京都薬科大学)
- 神田博史(広島大学)
- 田中俊弘(岐阜薬科大)
- 正山征洋(九州大学)
- 金井弘夫(東洋工業専門学校)
- 岡田稔((株)ツムラ・中央研究所)
- 古谷力(岡山理科大学)
- 平岡昇(新潟薬科大学)
- 西孝三郎(国立衛研・筑波薬用植物栽培試験場)
- 香月茂樹(国立衛研・種子島薬用植物栽培試験場)
- 吉田尚利(北海道大学)
- 本多義昭(京都大学)
- 御影雅幸(金沢大学)
- 畠山好雄(国立衛研・北海道薬用植物栽培試験場)
- 高鳥浩介(国立医薬品食品衛生研究所)
- 関田節子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
生薬を始めとして薬用生物資源は、多くの国で伝統医療及び医薬品等の原料に用いられており、その保護及び保存の重要性並びに有効利用については、チェンマイ宣言(1988年)において強調されている。また、この宣言を反映し、1992年の地球サミットにおける環境と開発に関するリオ宣言及びアジェンダ21(地球再生のための行動計画)の中でも薬用生物資源の保存、保護及び研究開発の重要性が指摘されている。また、医療における薬用植物の重要性から、日本、中国、及びヨーロッパの薬局方での生薬・薬用植物収載の歴史は長く、アメリカでは大規模な追加収載が検討されている。これら世界各国で人の健康増進のために利用されている薬用生物資源の多くのものは、従来より野生のものを採集して利用していたが、乱獲や自然環境の悪化などにより絶滅の危機に瀕しているものも近年増えている。従って、わが国及び諸外国において絶滅の危機に瀕している薬用生物資源の分布状況等を明らかにし、これらの効果的な保存方法を確立することは重要な課題である。調査に臨んでは、正確に学名と分類を確定することが必須である。そのために遺伝子解析により系統分類を明確にする。また、保護の目的で、本来の植生を考えず外来植物を繁殖させたり、自然指向ブームが枯渇を招来させていることから、本研究班に集積する知識や情報を、都道府県や大学などの薬用植物園が各地域の薬用植物の観察、栽培指導を行う際の重要な情報発生源とする。これらの研究を通して、薬用生物が医療に用いられるための資源の確保の方策を探る。
研究方法
次の3つの研究グループに分けて実施する。
1.国内の薬用資源植物の調査研究
日本薬局方および局方外生薬規格集収載薬用植物について標本調査に基づきデータベース化及び分布図を作成する。また、分布図周辺の地域の植物の視認調査を行う。資源の減少が確認された植物種については、レッドデータ植物とし、種子の保存や栽培に関わる諸要素を検討し,保存と保護の方策を講じる。また、分類の不確かな植物については遺伝子塩基配列の多型解析による研究を行い、基原植物を明確にする。次いで、民間薬の分布と利用調査を行い,都道府県の薬用植物園などでの普及を図る。
2.国外の薬用資源植物の調査研究
アジア諸国、南米等の薬用生物資源の分布と利用に関する研究を行う。資源の減少が確認される種類の植物については、種子の保存や栽培を検討し、保存と保護の方策を講じる。
3.薬用微生物資源の分布・分類及び生理活性物質に関する研究
薬用微生物資源として、植物由来真菌の長期保存による影響を、生物学的、化学的検討により明らかにし、適切な保存条件を見出す。また、植物内生菌について植物と菌類との相互作用についても検討する。
1.国内の薬用資源植物の調査研究
日本薬局方および局方外生薬規格集収載薬用植物について標本調査に基づきデータベース化及び分布図を作成する。また、分布図周辺の地域の植物の視認調査を行う。資源の減少が確認された植物種については、レッドデータ植物とし、種子の保存や栽培に関わる諸要素を検討し,保存と保護の方策を講じる。また、分類の不確かな植物については遺伝子塩基配列の多型解析による研究を行い、基原植物を明確にする。次いで、民間薬の分布と利用調査を行い,都道府県の薬用植物園などでの普及を図る。
2.国外の薬用資源植物の調査研究
アジア諸国、南米等の薬用生物資源の分布と利用に関する研究を行う。資源の減少が確認される種類の植物については、種子の保存や栽培を検討し、保存と保護の方策を講じる。
3.薬用微生物資源の分布・分類及び生理活性物質に関する研究
薬用微生物資源として、植物由来真菌の長期保存による影響を、生物学的、化学的検討により明らかにし、適切な保存条件を見出す。また、植物内生菌について植物と菌類との相互作用についても検討する。
結果と考察
1.国内の薬用資源植物の調査研究
薬用植物版貴重種のカテゴリー案を作成した。また、アカメガシワ、アマドコロ、イカリソウ等の日本薬局方関連薬用植物160種、22,350件 の標本調査を行い、データーベースを作成し、集積したデータのインプットを行った。 位置座標を与え得たのは、80%の17,987件。この内50%は位置座標検出ソフト による半自動付加が可能で、残りは手作業によった。分布図作成は今後の作業であるが、主要な生薬資源の分布の大勢を示すことは可能であると考えられる。しかし、資源の時間的変遷を追うには、特に過去のデータが不十分で、これを補うためには、植物誌、植物目録、観察会記録などからのデータの収集が必要である。
また、標本数が多い16種を対象に、全標本を3等分する年月として、1954年6月、1974年5月で区切り、その間の採集標本数の増減を種毎に比較したところ、相対的に増加している3種(ウスバサイシン、トチバニンジン、ハシリドコロ)と減少している13種にわけられた。特に減少の著しいものは「我が国の保護上重要な植物種の現状」において絶滅危急種とされているムラサキの他にハマボウフウ、ミシマサイコがあり、オオツヅラフジ、キキョウ等6種は全体的に減少しており、オケラ、カノコソウ、クチナシでは1974年以後大きく減少していると推定された。なお、増加の3種は、実際の増加か、あるいは薬用への関心が高まり標本が増加したのかとも考えられ、今後の視認調査が必要である。
視認調査として、京都市伏見区醍醐地区の植物調査を5回/年行い、300種を確認した。これは、山本亡羊が1864年に3回/秋の調査を行い、171種を記録しているものと比較するものである。吉野川流域の調査結果、カワラヨモギ(茵陳蒿)の資源は豊富であるが、信州、北陸上越地区のカワラヨモギと比較して花穂が小さいことが明らかになった。今後、両者の遺伝子解析を行う。その他に、岡山県、新潟県、トウキAngelica属の北海道における分布調査を行うと同時に、生薬「トウキ」のDNAのRFLP解析により基原植物の解明を行った。
17種類の薬用植物種子について、貯蔵後8年6ケ月から9年7ケ月目における発芽率を調査し、温度条件に依存せず発芽率が維持されるタイプ11種、いずれの温度下においても発芽率の低下するタイプ1種、10℃、10℃~-10℃、-10℃~-20℃で温度依存性が見られ維持されるタイプの5タイプが認められた。
京都大学薬用植物園でウズベキスタンの、国立衛研種子島薬用植物栽培試験場で南米産薬用植物の栽培、増殖を試みている。
2.国外の薬用資源植物の調査研究
ウズベキスタンでは農山村部で自生の植物を民間薬として使用しており、171種の情報が得られた。ニュージーランド先住民族のマオリ族保護区では従来の23%ではあるが、自然保護政策がいき渡っており、健全な利用が図られる限り必要量は確保されるものと考えられた。青海省尾黄南蔵族自治州及び甘粛省夏河の山中の野生ダイオウの分布を確認し、Rheum tangusticumと同定した。同省同仁北部ではカンゾウの群落を発見し、Glycyrrhiza uralensisと同定したが、成分パターンが従来のものとは異なる。
3.薬用微生物資源の分布・分類及び生理活性物質に関する研究
植物に普遍的分布をとるTrichoderma 株を新鮮分離、継代維持することによる生物性状変化を2年間にわたり観察している。供試した 10株は、初代時は著しく胞子産生活性が高かった。これを毎月継代培養したところ1年後および2年後でも集落性状、胞子産生活性とも変化が認められず、また、化学的にも、変化の指標化合物としてT-4 株から我々が分離した2種の新規化合物 trichotetronin, dihydrotrichotetronin と既知化合物1種を用いた分析で、いずれも安定しており、現時点での継代培養の生物学的、化学的性状への影響は殆どなかった。
薬用植物版貴重種のカテゴリー案を作成した。また、アカメガシワ、アマドコロ、イカリソウ等の日本薬局方関連薬用植物160種、22,350件 の標本調査を行い、データーベースを作成し、集積したデータのインプットを行った。 位置座標を与え得たのは、80%の17,987件。この内50%は位置座標検出ソフト による半自動付加が可能で、残りは手作業によった。分布図作成は今後の作業であるが、主要な生薬資源の分布の大勢を示すことは可能であると考えられる。しかし、資源の時間的変遷を追うには、特に過去のデータが不十分で、これを補うためには、植物誌、植物目録、観察会記録などからのデータの収集が必要である。
また、標本数が多い16種を対象に、全標本を3等分する年月として、1954年6月、1974年5月で区切り、その間の採集標本数の増減を種毎に比較したところ、相対的に増加している3種(ウスバサイシン、トチバニンジン、ハシリドコロ)と減少している13種にわけられた。特に減少の著しいものは「我が国の保護上重要な植物種の現状」において絶滅危急種とされているムラサキの他にハマボウフウ、ミシマサイコがあり、オオツヅラフジ、キキョウ等6種は全体的に減少しており、オケラ、カノコソウ、クチナシでは1974年以後大きく減少していると推定された。なお、増加の3種は、実際の増加か、あるいは薬用への関心が高まり標本が増加したのかとも考えられ、今後の視認調査が必要である。
視認調査として、京都市伏見区醍醐地区の植物調査を5回/年行い、300種を確認した。これは、山本亡羊が1864年に3回/秋の調査を行い、171種を記録しているものと比較するものである。吉野川流域の調査結果、カワラヨモギ(茵陳蒿)の資源は豊富であるが、信州、北陸上越地区のカワラヨモギと比較して花穂が小さいことが明らかになった。今後、両者の遺伝子解析を行う。その他に、岡山県、新潟県、トウキAngelica属の北海道における分布調査を行うと同時に、生薬「トウキ」のDNAのRFLP解析により基原植物の解明を行った。
17種類の薬用植物種子について、貯蔵後8年6ケ月から9年7ケ月目における発芽率を調査し、温度条件に依存せず発芽率が維持されるタイプ11種、いずれの温度下においても発芽率の低下するタイプ1種、10℃、10℃~-10℃、-10℃~-20℃で温度依存性が見られ維持されるタイプの5タイプが認められた。
京都大学薬用植物園でウズベキスタンの、国立衛研種子島薬用植物栽培試験場で南米産薬用植物の栽培、増殖を試みている。
2.国外の薬用資源植物の調査研究
ウズベキスタンでは農山村部で自生の植物を民間薬として使用しており、171種の情報が得られた。ニュージーランド先住民族のマオリ族保護区では従来の23%ではあるが、自然保護政策がいき渡っており、健全な利用が図られる限り必要量は確保されるものと考えられた。青海省尾黄南蔵族自治州及び甘粛省夏河の山中の野生ダイオウの分布を確認し、Rheum tangusticumと同定した。同省同仁北部ではカンゾウの群落を発見し、Glycyrrhiza uralensisと同定したが、成分パターンが従来のものとは異なる。
3.薬用微生物資源の分布・分類及び生理活性物質に関する研究
植物に普遍的分布をとるTrichoderma 株を新鮮分離、継代維持することによる生物性状変化を2年間にわたり観察している。供試した 10株は、初代時は著しく胞子産生活性が高かった。これを毎月継代培養したところ1年後および2年後でも集落性状、胞子産生活性とも変化が認められず、また、化学的にも、変化の指標化合物としてT-4 株から我々が分離した2種の新規化合物 trichotetronin, dihydrotrichotetronin と既知化合物1種を用いた分析で、いずれも安定しており、現時点での継代培養の生物学的、化学的性状への影響は殆どなかった。
結論
薬用生物資源の分布調査とその活用を目的に、国内の代表的標本庫及びその他の大学等の標本160種、22,350件 の標本調査を行い、地理的分布や種内変動を検討した。また、一部については分布図の作成と視認調査も開始した。分類上の問題点は遺伝子解析により解明を試みている。種子ならびに薬用微生物の保存条件や栽培条件さらに植物と微生物の相互作用を検討し、減少傾向を数的に解析することにより、保存と保護の基礎とする。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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