文献情報
文献番号
202423003A
報告書区分
総括
研究課題名
非メジャー血清群腸管出血性大腸菌の重症化因子の同定及び新たな分離検出法確立のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA3001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
窪村 亜希子(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
- 李 謙一(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli: EHEC)は食中毒や腸管感染症の原因微生物の1つであり、ヒトに下痢等の消化器症状を発症させる。分離されるEHECの90%以上は、主要7血清群(O157等)であるため、EHECに関する研究はそれら血清群を中心に行われてきたが、主要ではない血清群(以下、非メジャー血清群)についても重症例や死亡例が国内外で報告されていることから着目していく必要性がある。非メジャー血清群EHECは、病原性遺伝子領域(locus of enterocyte effacement: LEE)を保有しない血清群(LEE(-)血清群)と、保有するが主要ではない血清群(LEE(+)マイナー血清群)に分類される。本研究では、昨年度取得したLEE(+)マイナー血清群EHECの全ゲノム配列(whole-genome sequence: WGS) 解析に加え、LEE(-)血清群EHECのkatNの解析および未特定の細胞付着因子の特定を試みる。さらに、非メジャー血清群EHECについて既存培地による分離検出の有用性についても評価を行う。
研究方法
LEE(+)マイナー血清群EHECのうち、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例由来株が含まれる7種類のO血清(O51, O70, O76, O80, O109, O172, O177)に属する株のWGS解析を行い、Multilocus sequence typing(MLST)によるST特定、SNP抽出による系統解析、および網羅的な病原性関連遺伝子検出を行った。さらに検出された遺伝子保有状況を比較することで重症例から有意に高率に検出される遺伝子を特定した。LEE(-)血清群EHECについては、昨年度の解析により重症例から高率に検出されたkatNについて、マクロファージ細胞を用いた解析、各血清型大腸菌のkatN保有状況調査、およびkatN検出系の開発も行った。さらに死亡例由来LEE(-)血清群EHECから検出されるHEp-2細胞付着性に寄与する未特定の細胞付着因子をTn-seq解析法により特定を行った。また、非メジャー血清群EHECのうち国内で多く分離される8種類の血清型(64株)のEHECについて、セフィキシム・亜テルル酸カリウム(CT)含有または不含の既存平板培地における発育状況等の確認により各培地による分離検出の有用性について評価を行った。
結果と考察
LEE(+)マイナー血清群EHECについてWGS解析により病原遺伝子を網羅的に検出することで、重症例由来株からkatP等の特定の遺伝子が高率に検出されることを特定した。また、katPおよびkatNの遺伝子保有状況を確認することで、いずれも重症率の高いO血清群または血清型において保有が確認されたことから、これらの抗酸化に関与する因子は特定の血清型の非メジャー血清群EHECにおいて重症化に寄与している可能性が示唆された。死亡例由来EHEC株の新規細胞付着因子特定においては、Tn-seq解析および追加の解析により、培養細胞への付着性は本菌の外膜タンパクが担っていることを明かにした。既存培地への発育状況による分離検出の有用性評価では、非メジャー血清群EHECの半数以上がCT含有培地において発育が困難であることが確認された。非メジャー血清群を含む多様な血清型のEHECに有用な分離検出法を確立することは重要な課題であり、そのためにはCT以外の選択剤等に着目して有用性を評価していく必要性があると考えられた。
結論
多様な血清型のEHECに有用な分離検出法の確立にはCT以外にも着目して有用性を評価することが重要である。酸化ストレスに対する防御機能に関与する因子および外膜タンパク遺伝子は特定の血清型のEHEC感染症の重症化に関与している可能性がある。
公開日・更新日
公開日
2025-08-07
更新日
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