歯髄幹細胞の神経分化能の検証とその治療応用

文献情報

文献番号
201006015A
報告書区分
総括
研究課題名
歯髄幹細胞の神経分化能の検証とその治療応用
課題番号
H22-再生・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
上田 実(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 朗仁(名古屋大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療廃棄物であるヒト脱落乳歯や智歯由来の歯髄幹細胞は、神経堤由来の細胞集団であり、神経細胞への分化誘導に高い反応性を示す。自己由来の成体幹細胞であるため移植における安全性が高く倫理的問題も極めて少ない。本研究は「歯髄幹細胞をもちいた難治性神経疾患の治療法の開発と実用化」を目指す。
研究方法
① 歯髄幹細胞由来ドーパミン産生細胞の製作法開発:低酸素培養による、歯髄幹細胞の神経分化誘導システムの効率化を行った。
② 完全脊髄損傷モデルを使用した歯髄幹細胞の神経再生能力の評価:移植した幹細胞の分化動態、運動機能回復効果、切断した軸索の再生効果、抗―軸索伸長阻害因子効果、脊髄切断面周囲における抗-アポプトーシス効果を検証した。
③ 脳質周囲白質軟化症(PVL)モデルを使用した神経再生能力の評価: PVLマウスへ細胞移植し、脳形態変化、移植細胞の腫瘍化、運動機能回復効果を検討した。
④ 歯髄幹細胞の培養上清による神経再生効果の検証:幹細胞の無血清培養上清が、直接的に軸索伸長阻害因子(コンドロイチン硫酸プロテオグリカンやミエリンタンパクNogo, MAGなど)を抑制するか、in vitro実験系で検証した。培養上清の持続投与のみでラット圧挫型脊髄損傷モデルの機能回復を試みた。
結果と考察
「難治性神経疾患の治療法開発」には、(I)細胞分化誘導効率の最適化、(II)移植細胞の生着効率の向上を可能にする、最適な損傷組織のコンディショニング効果が不可欠である。歯髄幹細胞の(I), (II)に関する治療効果を明らかにした。
(I):歯髄幹細胞の低酸素培養で95%がTyrosine Hydroxylase (TH)陽性のドーパミン産生細胞に分化することを見いだした。脊髄損傷に移植した歯髄幹細胞が、成熟型オリゴデンドロサイトに特異的に分化することを見いだした。
(II):歯髄幹細胞は、神経損傷周囲のアポプトーシスを抑制し、神経軸索破壊や髄鞘破壊を最小限度にとどめる。軸索伸長阻害因子の機能を直接的に抑制することで軸索の伸長を促す。この効果は、脳梗塞モデルの神経再生でも有用であった。さらに、培養上清の持続投与のみで、圧挫型脊髄損傷の下肢運動機能麻痺が劇的に改善した。
結論
歯髄幹細胞の神経幹細胞的分化能が明らかとなり、効率的な分化誘導法が確立できた。さらに歯髄幹細胞の培養上清が、他の幹細胞にはない強力な神経再生因子を含んでいることを見いだした。

公開日・更新日

公開日
2011-09-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201006015Z