ウエルシュ菌食中毒の制御のための検査法の開発及び汚染実態把握のための研究

文献情報

文献番号
202423002A
報告書区分
総括
研究課題名
ウエルシュ菌食中毒の制御のための検査法の開発及び汚染実態把握のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
大西 貴弘(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
  • 岡部 信彦(川崎市健康安全研究所)
  • 三澤 尚明(宮崎大学 農学部 獣医学科 獣医公衆衛生学研究室)
  • 大島 千尋(国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産技術研究所 環境・応用部門 水産物応用開発部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
11,014,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では、ウエルシュ菌食中毒の制御に資する研究を行っている。これまでに大規模な汚染実態調査を行い、cpe遺伝子保有ウエルシュ菌の汚染源として、カレーミックス・香辛料、さらに海藻、干しエビ、煮干し等の乾燥水産食品が重要であることを示した。一方で、牛肉、豚肉、および家畜、家禽の腸内容物からcpe遺伝子保有ウエルシュ菌はほとんど検出されないことも併せて明らかにした。また、牛肉非添加のカレー中ではウエルシュ菌はほとんど増殖できないが、牛肉を添加するとウエルシュ菌は増殖できることを明らかにした。本年度はこれまでの研究成果についてさらに検討を行った。
研究方法
牛肉以外の食肉でも、牛肉同様のウエルシュ菌増殖促進作用を持つのか、また、カレーミックスの種類を変更しても同じ現象が認められるのかについても検討した。併せて、食品を汚染しているウエルシュ菌の由来を推定するために、河川におけるウエルシュ菌の汚染調査、食品における汚染調査、分離ウエルシュ菌株の分子疫学調査を行った。
結果と考察
昨年度の調査では、牛肉非添加のカレー中ではウエルシュ菌はほとんど増殖できないが、牛肉を添加するとウエルシュ菌は増殖できることを明らかにした。本年度行なった研究成果から、牛肉だけでなく、豚肉、鶏肉にもウエルシュ菌の増殖促進効果があること、またこの現象は、カレーミックスの種類に依存しておらず、カレーミックス非添加でも認められることが明らかになった。食肉非添加のカレー中ではウエルシュ菌が増殖できない現象を利用して、食肉を別調理しておき、配膳直前に食肉をカレールーに混ぜて提供するというウエルシュ菌食中毒予防法を昨年度、提唱した。今年度の結果から、カレーミックスを使用していない煮物、例えば肉じゃがなどでも、同様の方法で食中毒発生を予防できるのではないかと考えられた。今後、大規模調理の際でも、この方法で予防できるかどうか検討を行なって行きたい。
今回の河川の調査結果から、河川に広くウエルシュ菌が存在しており、特に下水処理場周辺でcpe陽性ウエルシュ菌が高率に分離された事から、下水処理場の放流水が汚染源である可能性が強く示唆された。また、素干しエビや煮干し、二枚貝の調査結果から、河川のcpe陽性ウエルシュ菌によって沿岸部が広く汚染されている実態が明らかになった。今回の結果から、ウエルシュ菌はノロウイルス同様の汚染経路を持つと考えられる。今回明らかになったウエルシュ菌の食品汚染経路は、ウエルシュ菌対策を今後考える際に、非常に基礎的かつ重要なデーターであると考えられる。分子疫学的解析の結果からも同様の傾向が示唆された。分子疫学的解析では、患者由来株と非常に近縁な関係にある株が、海産物や乾物から分離されているという結果が得られた。その一方で、患者由来株と近縁のcpe陽性ウエルシュ菌が特定の食品から特に分離されたというような結果は、分子疫学的解析からは得られなかった。これらの結果は、広い範囲の食品が、ウエルシュ菌食中毒の原因となりうる可能性を示唆しているものと考えられた。
結論
昨年度、行なった研究で食肉を添加しないカレー中ではウエルシュ菌の増殖が抑制されることを明らかにした。今後、食肉がウエルシュ菌の増殖に及ぼす影響を検討し、食品におけるウエルシュ菌増殖の制御法を確立したい。
 今年度の研究から、ウエルシュ菌汚染が水を介して広がっている可能性が示唆された。本研究班のこれまでの成果から、香辛料がエンテロトキシン産生性ウエルシュ菌に汚染されていることを明らかにしているが、香辛料の栽培、加工には多量の水を必要とされる。よって、原産国の衛生状況によっては、土壌だけでなく、水を介したウエルシュ菌汚染が発生している可能性も考えられる。今後、食品におけるエンテロトキシン産生性ウエルシュ菌の汚染を考察する際には、水を中心に考えていく必要があるのではないかと考えられる。
 cpe陽性ウエルシュ菌の分子疫学的解析結果から、従来、ウエルシュ菌食中毒の主たる原因食品であると考えられてきた食肉だけでなく、農作物や海産物、およびその環境が、ウエルシュ菌食中毒原因菌の汚染源や由来となる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2025-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-09-01
更新日
-

文献情報

文献番号
202423002B
報告書区分
総合
研究課題名
ウエルシュ菌食中毒の制御のための検査法の開発及び汚染実態把握のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
大西 貴弘(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
  • 岡部 信彦(川崎市健康安全研究所)
  • 三澤 尚明(宮崎大学 農学部 獣医学科 獣医公衆衛生学研究室)
  • 大島 千尋(国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産技術研究所 環境・応用部門 水産物応用開発部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国ではHACCPによる管理が義務付けられているが、ウエルシュ菌による食中毒は依然発生が続いており、減少の傾向が認められない。ひとつの原因として、主たる汚染食品など食中毒予防のために必要な基本的な情報が不足していることが挙げられる。本研究ではウエルシュ菌食中毒制御に資する知見を得るため、研究を行った。
研究方法
食品や河川におけるウエルシュ菌の汚染実態調査、食品中での増殖挙動の解析、分離株の分子疫学的解析、迅速検査法の作製を行った。
結果と考察
汚染実態調査の結果から、カレーミックス・香辛料、貝、乾燥水産食品などがcpe保有芽胞に汚染されている状態が明らかになった。カレーミックス・香辛料は、ウエルシュ菌食中毒が頻発しているカレーの原料である。貝はウエルシュ菌食中毒の原因食品という観点からは重要度は低いかもしれないが、わが国の沿岸部の一部がcpe陽性のウエルシュ菌によって汚染されていることを示唆する結果であると思われる。また、干しエビ、イリコ、海藻などもcpe保有芽胞に汚染されていた。干しエビやイリコ、昆布などの乾燥水産食品は、和食をはじめとした多くの料理で使用されている。煮物やめんつゆなどでウエルシュ菌食中毒が発生しているが、乾燥水産食品を“だし”として使用し、そこから汚染が発生している可能性が示唆された。米国では、ヒトがエンテロトキシン産生性ウエルシュ菌を保菌しており、下水をとおして河川や沿岸部がエンテロトキシン産生性ウエルシュ菌に汚染されているという報告がなされている。今回の調査では、河川、特に下水処理施設の放流水で強く汚染が認められ、また、海産物においても汚染が強く認められたことから、わが国でも同様に、河川や沿岸部がエンテロトキシン産生性ウエルシュ菌の重要な感染源であり、水産食品への汚染が発生しているという可能性が示唆された。また、香辛料の栽培や収穫した果実の洗浄にも水を使用するため、原産国の河川の衛生状況によっては、土壌だけでなく、水を介したウエルシュ菌汚染が発生している可能性も考えられた。一方、これまでウエルシュ菌汚染で重要視されてきた食肉であるが、cpe保有の有無にかかわらず、ウエルシュ菌の汚染はほとんど認められなかった。また、家畜の腸内容物から、cpe保有株を検出することができなかった。これらの結果から、牛肉や豚肉でのウエルシュ菌汚染は非常に限られたものである可能性が示唆された。鶏肉ではウエルシュ菌の汚染が認められていることから、牛肉、豚肉の食肉処理工程の衛生管理が進み、ウエルシュ菌汚染が低減されたのではないかと考えられた。
これらの結果は、分子疫学的解析によっても確認された。分子疫学的解析では、患者由来株と非常に近縁な関係にある株が、海産物や乾物から分離されているという結果が得られた。その一方で、患者由来株と近縁のcpe陽性ウエルシュ菌が特定の食品から特に分離されたというような結果は、分子疫学的解析から確認できなかった。これらの結果は、従来、食中毒の主な原因であると考えられてきた食肉以外の広い範囲の食品でも、ウエルシュ菌食中毒の原因となりうる可能性を示唆しているものと考えられた
カレーにおけるウエルシュ菌の増殖挙動を解析したところ、カレーミックスに汚染している少量のウエルシュ菌でも、牛肉、豚肉、鶏肉のいずれかが添加されている場合、6時間で食中毒を引き起こせるだけの菌濃度に到達できることが明らかになった。食肉を添加しないカレーでは、ウエルシュ菌は増殖することができなかった。カレーミックス非添加でも、食肉添加に伴うウエルシュ菌の増殖が認められた。このことから、カレー以外の食品においても食肉の添加がウエルシュ菌の増殖に影響を及ぼすことが示唆された。
今回作製した免疫磁気ビーズ法は10^2 cfu/mL以上の菌濃度でウエルシュ菌を検出することができ、食中毒の原因究明に使用する場合、十分な検出感度を有していると考えられた。増菌培養を行わなくても済むため、増菌培養にかかる1日を短縮することができる。
結論
カレーで頻発しているウエルシュ菌食中毒は主にカレーミックスや香辛料からの汚染によるものであることが示唆された。今後、ウエルシュ菌食中毒の予防を考えていくうえで、カレーミックス・香辛料にさらに着目していく必要があると思われる。同様に今回の結果から、干しエビやイリコなどを汚染食品とする食中毒発生の可能性も示唆された。今後、食中毒が発生した際には、これらの食品にも注意を払う必要があると考えられる。
食肉はcpe保有ウエルシュ菌の汚染源としての重要性は高くはないが、ウエルシュ菌の増殖を促進するため、食品中のウエルシュ菌を制御するためには、重要な因子であることが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2025-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-09-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202423002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
エンテロトキシン産生性ウエルシュ菌の主な汚染食品を明らかにし、汚染経路を明らかにした。また、ウエルシュ菌の増殖に関する因子を抽出し、増殖制御法を提案した。これらの成果は、ウエルシュ菌食中毒予防に大きく貢献するものと考えられる。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
本研究班の研究成果は、ウエルシュ菌食中毒対策を考えていく上で基本となるものである。これらの知見は、食中毒対策を立案する上で活用されるものと考えられる。
その他のインパクト
下記の自治体向け講習会で、本研究班の研究成果の説明を行なった。
1) 大西貴弘:ウエルシュ菌食中毒
食品衛生危機管理研修(2024.9.27)
2) 大西貴弘:ウェルシュ菌の基礎と食中毒の原因食材に関する最新知見
特別区職員研修所 令和6年度専門研修「食品衛生」(2025.2.19)
3) 大西貴弘:食中毒予防対策(ウエルシュ菌を中心として)
令和6年度川崎市職員研修会(2025.3.4)

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
自治体向けの講習会

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohnishi T, Watanabe M, Yodotani Y et al
Contamination of Japanese retail foods with enterotoxigenic Clostridium perfringens spores.
Journal of Food Protection , 88 , 100429-  (2025)
https://doi.org/10.1016/j.jfp.2024.100429

公開日・更新日

公開日
2025-09-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
202423002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,800,000円
(2)補助金確定額
11,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,573,281円
人件費・謝金 5,490,884円
旅費 729,141円
その他 1,220,694円
間接経費 786,000円
合計 11,800,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-09-11
更新日
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