「ナッジ」等の行動経済学的アプローチによる労働災害防止の取組促進に資する研究

文献情報

文献番号
202422007A
報告書区分
総括
研究課題名
「ナッジ」等の行動経済学的アプローチによる労働災害防止の取組促進に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23JA1003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
財津 將嘉(産業医科大学 高年齢労働者産業保健研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宮内 博幸(産業医科大学 産業保健学部 作業環境計測制御学講座)
  • 鎌田 真光(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 田淵 貴大(国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
5,727,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高年齢労働者の増加に伴い、転倒や腰痛などの労働災害は増加傾向にあるが、特に、転倒は軽度な災害という認識があり、十分な対策が開発されているとは言えない。従来型の環境側面のみの対策だけでは効果が限定的なため、環境および個人要因の両方の側面から新たな予防アプローチの開発が必須であり、行動経済学のナッジ理論の利活用が注目すべき候補となる。本研究では、転倒等による労働災害について、労働災害疫学ビッグデータ分析や介入実験を通じてナッジ手法の効果検証をすることを目的とし、最終的には行動経済学的アプローチによる効果的な労働災害防止対策を提示することを目指す。2024年度の研究結果の概要は以下のとおりである。
研究方法
1.2017年~2019年にかけて20~66歳の輸送機械組立従事者249名を対象に実施された健康診断および閉眼片脚立位時間のパネルデータを用いた縦断観察研究を実施した。
2.2023年9月~11月にかけて全国の労働者18,440人を対象にインターネットを用いた横断研究を実施した。
3.社会福祉施設の事業所(2箇所、対象者は従業員合計46名)において転倒防止における危険予知ライトの有効性について検討した。転倒リスクが高い場所に人感センサーを搭載した転倒予知ライトを設置し、ライトの設置前後で対象者の危険認識や行動の変化をアンケート調査により測定し、その有効性を評価した。
4.一般住民725人を対象とした前向きコホート研究を実施した。
結果と考察
1.二次スプライン曲線により、年齢と閉眼片脚立位時間との間にほぼ直線的な関係が観察された。1歳の加齢に伴い、閉眼片脚立位時間は有意に短縮する(β:-0.22、95% CI:-0.31, -0.14)一方で、歩行習慣は立位時間の低下を抑制する効果を示した(β:1.76、95% CI:0.49, 3.04)。
2.全体の7.3%が過去1年間に職場での転倒を経験しており、2.8%は転倒に起因する骨折を報告していた。生活習慣病ごとの転倒に関する発生率比(IR)及び95%信頼区間(CI)は、高血圧1.64(1.45–1.84)、脂質異常症:1.35(1.18–1.55)、糖尿病:1.77(1.55–2.03)であり、いずれも転倒発生の有意な上昇が認められ、その他の生活習慣要因や行動様式とも関連を認めた。
3.アンケート結果のテキスト分析の結果、設置後は「危険」「リスクマネジメント」「予防」「予知」といったポジティブな言葉が増加した。
4.2年後の新たな慢性腰痛発生率は7.3%、慢性膝痛発生率は10.1%であった。大腿四頭筋の筋力増強運動を実践していた人は新たに慢性腰痛を有する割合が低かったが、他の身体部位の筋力増強運動・柔軟運動については慢性腰痛の発症と有意な関連が見られず、慢性膝痛はいずれの運動種目とも関連が見られなかった。また、アプリ「パ・リーグウォーク」利用者(4131人分)の歩数データを分析し、平日・休日、時間帯、年齢、性別等による身体活動のタイミング(日内変動)の関係について明らかにした。
結論
既存ビッグデータやコホートデータ等の分析により、加齢に伴う静的バランス機能と歩行習慣との関連、生活習慣と転倒災害発生との関連や、ナッジ理論による介入が労働災害防止に有効である可能性を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2025-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-08-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
202422007Z