労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断のより適切な実施に資する研究

文献情報

文献番号
202422002A
報告書区分
総括
研究課題名
労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断のより適切な実施に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22JA1004
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
上條 英之(東京歯科大学 歯科社会保障学)
研究分担者(所属機関)
  • 福田 英輝(国立保健医療科学院)
  • 上野 晋(産業医科大学 産業生態科学研究所)
  • 鈴木 誠太郎(目白大学 短期大学部歯科衛生学科)
  • 有川 量崇(日本大学 松戸歯学部)
  • 大山 篤(東京科学大学 歯学部)
  • 小林 宏明(東京科学大学 歯学部 )
  • 澁谷 智明(日立製作所京浜地区産業医療統括センタ 新川崎健康支援センタ)
  • 佐藤 涼一(東京歯科大学 衛生学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
5,256,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関名変更 研究分担者  大山篤・小林宏明 東京医科歯科大学(令和4年4月1日~令和6年9月30日) →東京科学大学(令和6年10月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
歯・口の健康に有害な業務に従事し法定の歯科健診が義務付けられている事業場の従事者の口腔内並びに業務従事の状況を把握し歯の酸蝕症の新基準の有用性を検討するとともに歯の酸蝕に特化した予防法開発を図ることが本研究の目的です。
研究方法
1 有害業務に従事する者の歯科健診による歯の酸蝕症の状況
 茨城県内の事業所を対象に口腔内健診を行い歯の酸蝕症の診断を行うとともに質問紙調査等を行いました。
2 産業保健総合支援センターでの調査
全国47都道府県に設置されている産業保健総合支援センターを対象として郵送による調査を行いました。
3 歯の酸蝕症に対する予防法開発のための基礎実験の方法
 脱灰抑制に効果的な濃度のフッ化物徐放の能力を持つIFRD用カチオン化HECゲルによるin vitroエナメル質脱灰抑制効果の検討を行うとともに生体適合素材による三次元造形技術にを用いたIFRDの設計等を行いました。
4 「事業所での酸蝕症の歯科健診の状況についての調査実施
 日本労働衛生研究協議会および日本産業衛生学会産業歯科保健部会会員並びに各都道府県歯科医師会を調査対象とし郵送法等で調査を行いました。
5 国内事業場において化学物質を取り扱う労働者に関するWeb調査
Web調査会社のモニタの内年齢20~60歳代の男女をを対象に調査を行いました。
結果と考察
1 有害業務に従事する者の歯科健診による歯の酸蝕症の状況
口腔内健診の結果、歯の酸蝕症の有所見者の割合はE1以上2.8%、E0(=±)9.6%でした。事業場での酸の取り扱い者の場合、E0(=±)以上の者の割合が統計学的に有意に高い状況でした。
さらに、事業場の従事者の調査の結果、歯科特殊健診を行っている多くの事業場で長時間労働はほとんどなく適切な作業管理、作業環境管理および健康管理が行われていました。ただし、一部の事業場で作業管理、作業環境の改善が必要で職場巡視が重要と考えられました。一方、歯の酸蝕症の発症には飲食など従業員の生活習慣の影響も大きいことから、健診の際、各従業員の生活習慣要因を十分に精査して判断する必要性が考えられました。
2 産業保健総合支援センターでの調査
 産業保健総合支援センターでの歯科口腔保健の業務を調べたところ研修、相談を実施しているセンターの割合はそれぞれ88.1%、54.8%でした。
3 歯の酸蝕症に対する予防法開発のための基礎実験
職場での歯の酸蝕症の予防のため行った基礎実験で脱灰抑制に効果的な濃度のフッ化物徐放の能力を持つ IFRD用のゲルを開発しカチオン化技術によりエナメル質の脱灰抑制効果を高めることが出来ることが、今回の研究で明らかになりました。また、口腔内にゲルを内部に装填できる口蓋設置型IFRDを新たに開発しました。
4 「事業所での酸蝕症の歯科健診の状況についての調査実施
2022年10月の労働安全衛生規則改正で50人未満の事業場での歯の酸蝕症に対する健診結果の報告が義務化されたことから有害業務歯科健診の対象事業場からの歯科健診の問い合わせ等が増えていることがわかりました。
また、各都道府県歯科医師会からの意見を得て2023年3月に作成した「事業所での酸蝕症の歯科健診を行うにあたっての現時点の考え方の試案(たたき台)」の改定を行いました。ただし、歯科特殊健診を実施する歯科医師間での考え方のコンセンサスを得るのにしばらく時間を要するものと考えられました。
5 国内事業場において化学物質を取り扱う労働者に関するWeb調査の結果
化学物質取り扱い者を含むWEB調査を行ったところ作業場での全体換気・局所排気装置の使用率や化学物質のリスクアセスメントの実施率、保護具の割合が今回対象とした茨城県内の事業場の調査の結果よりも低い状況でした。また、「化学物質取り扱い群」では一般歯科健診を実施している事業場が多いとともに、安全衛生委員会等の設置割合が高く、委員会の参加率も高い状況でした。
結論
茨城県の事業場での2023年から2024年にかけて実施したフィールド調査で歯の酸蝕症の有所見者の割合は、E1以上2.8%、E0(=±)の者は9.6%でした。今後、事業場の労働者の健康を守る観点を重視しての現場での適切な対応が今後求められると考えられました。
 また、産業保健総合支援センターでは、法定歯科健診に関連しての研修や相談が行われており、今後のセンターでの事業の充実が期待されました。今回、2023年にとりまとめた
「事業所での酸蝕症の歯科健診を行うにあたっての現時点の考え方の試案(たたき台)」の改定を行いましたが、今後、歯科医療従事者の間でコンセンサスが得られることが期待されました。さらに、WEB調査により、今後、有害業務従事者の歯科健診をさらに進めていく必要性があることが示唆されました。

公開日・更新日

公開日
2025-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-08-08
更新日
-

文献情報

文献番号
202422002B
報告書区分
総合
研究課題名
労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断のより適切な実施に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22JA1004
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
上條 英之(東京歯科大学 歯科社会保障学)
研究分担者(所属機関)
  • 福田 英輝(国立保健医療科学院)
  • 上野 晋(産業医科大学 産業生態科学研究所)
  • 杉原 直樹(東京歯科大学 衛生学講座)
  • 有川 量崇(日本大学 松戸歯学部)
  • 大山 篤(東京科学大学 歯学部)
  • 澁谷 智明(日立製作所京浜地区産業医療統括センタ 新川崎健康支援センタ)
  • 小林 宏明(東京科学大学 歯学部 )
  • 佐藤 涼一(東京歯科大学 歯学部)
  • 鈴木 誠太郎(目白大学 短期大学部歯科衛生学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替  杉原直樹(令和4年4月1日~令和5年3月31日)→  鈴木誠太郎(令和5年4月1日~令和6年3月31日) 所属機関名変更  研究分担者  大山篤・小林宏明  東京医科歯科大学(令和4年4月1日~令和6年9月30日) →東京科学大学(令和6年10月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
歯・口の健康に有害な業務に従事し法定歯科健診が義務付けられている事業場従事者の口腔内並びに業務従事状況を把握し歯の酸蝕症新基準の有用性等を検討し、歯の酸蝕症に特化した予防法開発を図るとともにリスクアセスメント歯科健診制度等の歯科医療関係者への周知を行うことが本研究の目的です。
研究方法
1 有害業務の従事者の歯の酸蝕症の状況
 茨城県内の事業所を対象に口腔内健診を行い、歯の酸蝕症の診断を行うとともに、質問紙調査、唾液検査を実施しました。
2 産業保健総合支援センターでの調査
全国47都道府県の産業保健総合支援センターを対象に郵送調査を実施しました。
3 歯の酸蝕症に対する予防法開発のための基礎実験
 予防処置法評価のための基礎実験を行い、生体適合素材による口腔内装着の三次元造形技術を用いたIFRDの設計等を行いました。
4 事業所での酸蝕症の歯科健診を行うにあたっての現時点の考え方試案の取りまとめ
作成の前後に関係者への調査を行い作成および修正を行いました。
5 国内事業場での健康管理担当者および化学物質を取り扱う労働者等に関するWeb調査
Web調査会社のモニターを対象に事業場の労働者へのWEB調査を行いました。
6 事業所におけるリスクアセスメント対象物歯科健康診断ガイドブック作成
  リスクアセスメント歯科健診制度の開始に伴う周知を図るため新制度の情報収集を行い作成作業を進めました。
結果と考察
1 有害業務に従事する者の歯科健診による歯の酸蝕症の状況
歯の酸蝕症の有所見者の割合はE1以上2.8%、E0(=±)以上9.6%で、重度の者はいませんでした。事業場で酸を扱っている方の場合、E0(=±)の割合が統計学的に有意に高い状況でした。
ただし、一部の事業場で作業管理、作業環境の改善が必要で職場巡視が重要と考えられました。一方、歯の酸蝕の発症には飲食など従業員の生活習慣の影響も大きいことから、各従業員の生活習慣要因を十分に精査して判断する必要性が考えられました。
2 産業保健総合支援センターでの調査
 産業保健総合支援センターでの歯科口腔保健の業務を調べたところ、研修および相談を実施しているセンターの割合はそれぞれ88.1%、および54.8%でした。
3 歯の酸蝕症に対する予防法開発のための基礎実験
職場での歯の酸蝕症の予防のため行った基礎実験で脱灰抑制に効果的な濃度のフッ化物徐放の能力を持つIFRD用のゲルでエナメル質の脱灰抑制効果を高めることが明らかになりました。また、口腔内にゲルを内部に装填できる口蓋設置型IFRDを新たに開発しました。産業現場の酸蝕症の新たなケアとして期待されました。
4 「事業所での酸蝕症の歯科健診を行うにあたっての現時点の考え方の試案(たたき台)の作成
2022年10月の規則改正で50人未満の事業場での歯の酸蝕症に対する健診結果報告の義務化で対象事業場からの歯科健診の問い合わせや実施数が増加しており、歯科関係者の調査で、診断基準の統一、健診方法を含むマニュアル整備、一般と特殊歯科健診の違いを含む研修等の必要性の提言を受け、「事業所での酸蝕症の歯科健診を行うにあたっての現時点の考え方の試案(たたき台)を作成し各都道府県歯科医師会からの意見を得て2023年3月に作成した考え方の試案(たたき台)」の改定を行いました。
5 国内事業場において化学物質を取り扱う労働者等に関するWeb調査の結果
作業環境、作業環境管理、歯科医師による有害業務健診について50人未満の事業所では50人以上の事業所に比較し実施割合が低い状況で一部の事業場では作業環境の改善の必要性も示唆されました。また、健康管理の面で多くの事業場で一般歯科健診実施の検討も必要と考えられました。
6 リスクアセスメント歯科健診制度の開始に伴うガイドブック作成
歯科医療従事者の周知が図れるようリスクアセスメント対象物歯科健康診断ガイドブックとしてとりまとめを行いました。
結論
茨城県の事業場でのフィールド調査で歯の酸蝕症の有所見者割合はE1以上2.8%、E0(=±)以上9.6%で軽症化傾向はあるものの引き続き現場での労働衛生管理が必要と考えられ適切な対応が今後求められます。
 また、産業保健総合支援センターでは法定歯科健診に関連し研修や相談が行われ今後の事業の充実が期待されました。
2022年10月からの労働安全規則の改正並びに歯科関係者への調査の意見をを踏まえ「事業所での酸蝕症の歯科健診を行うにあたっての現時点の考え方の試案(たたき台)」の作成・改定を行いました。この他、リスクアセスメント対象物歯科健康診断制度の開始に伴い、関連のガイドブックを作成したことから今後の活用が期待されます。事業場での円滑な業務推進にあたり今まで以上に医科と歯科の連携による対応が円滑になされることが望まれます。

公開日・更新日

公開日
2025-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-08-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202422002C

収支報告書

文献番号
202422002Z