在宅医療における検体検査の質の確保に資するための研究

文献情報

文献番号
202421024A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅医療における検体検査の質の確保に資するための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24IA1006
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
小谷 和彦(自治医科大学 地域医療学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 山中 崇(東京大学 医学部附属病院)
  • 坂本 秀生(神戸常盤大学 保健科学部)
  • 井越 尚子(女子栄養大学 栄養学部)
  • 高崎 昭彦(四日市看護医療大学 看護医療学部臨床検査学科)
  • 北井 真紀子(四日市看護医療大学 看護医療学部看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
2,376,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
在宅医療で臨床検査は実施されているが。その実施には検体搬送や多職種の関与等で外来や入院の医療とやや異なる面がある。検査の精度管理をはじめとする品質確保に対して以下を検討した:在宅医療での①検査の精度管理を含む実施状況、②基本的検査セット、③検査の品質確保のための多職種向けチェックリスト。
研究方法
①検査の精度管理を含む実施状況
1)アンケート調査;全国の機能強化型在宅療養支援診療所ならびに機能強化型在宅療養支援病院(計1,000施設)を無作為抽出した。検査(特に検体検査)の実施、精度管理、パニック値等に関して調査した。
2)インタビュー調査;在宅医療従事医師(10人)に対し、精度管理等について聴取した。
②基本的検査セット
全国の実態と研究者間の合議とで検査セットを策定した。現場で利用可能で、比較的高頻度に診療する病態に対する検査項目をセット化した。
③検査の品質保証のための多職種向けチェックリスト
1)精度管理に関する用語の認知;日本在宅医療連合学会の大会参加者への聞き取り調査の集計を分析した。精度管理、また校正やコントロール(試薬)という用語の意味やその実際に対する認知度を観察した。
2)チェックリストの作成;精度管理に関する用語の認知や本研究班の経験を基に、多職種に理解され、基本的な検査項目に対応して活用されるレベルになるようにリストを試案した。
結果と考察
①検査の精度管理を含む実施状況
1)アンケート調査;回答率は22.2%で、検体検査は99.5%で実施されていた。看護師(86%)、医師(80%)、臨床検査技師(4%)が検体採取に関わっていた。衛生検査所等への外注が86%、自施設での測定は68%、POCTは40%にみられた。検体採取から測定までに3時間以上を要するとの回答は67%であった。精度管理について「知っている」との回答は36%で、自施設で検査をしている場合に精度管理は39%で実施されていた。精度管理は、診療所では29%、病院では83%で実施されていた。パニック値について「知っている」との回答は78%で、パニック値が認められた際には、患者さんの状態を確認する(87%)、再検査する(55%)、多職種で情報共有する(47%)という対応等がとられていた。
2)インタビュー調査;看取りを除き、定期診療時、病状変化時、入院の判断時等に検査は必要とされた。POCTは感染症等で活用されていた。検体検査の精度管理に関して、温度、時間、振動への対策等が必要になると認識されていた。これらの調査を通じて、全国の在宅医療を旨とする施設での検査に関する実態が明らかになった。精度管理の実施率は十分に高いとまで言えない様子と思われたが、法的な周知が進みつつある段階であること、外注での検査の実施が多いこと、臨床検査技師の関与が少ないこと等が背景にあると推察された。また、在宅医療では測定時のみならず測定前工程の考慮がより求められる。
②基本的検査セット
総合判断に有用と思われ、汎用性のある項目を基本セットとした。これは、初回診察時、定期診察時、緊急時に適宜選択して組み合わされることを前提とした。次いで、比較的高頻度に診療する病態(栄養評価、感染症、心不全)に対する検査項目をオプションセットとした。患者さんの情況に即して検査は実施されるものではあるが、今回のセット化によって診療の効率化に加え、品質確保を議論するための検査項目を具体的にイメージできるようになると思われた。
③検査の品質保証のための多職種向けチェックリスト
1)精度管理に関する用語の認知;153人について分析した。精度管理、また校正・コントロールの用語に対する認知度は、医師(72人)で順に63%、54%、看護師(78人)で42%、30%、臨床検査技師(3人)で100%、100%であった。
2)チェックリストの作成;簡易性を主眼にした、精度管理の基本的事項に対するカスケード方式のリストと、品質確保を念頭に置いたチェックボックス方式のリストを試案した。多職種の共通理解や関与が進むように工夫したこと、また特に後者のリストでは測定前から測定時や測定後までの工程に関して盛り込んだことが特徴的で、広く活用可能と思われた。
結論
今回の調査結果には、在宅医療を取り巻く比較的特異な状況が関係していることが示唆される。精度管理を含む検体検査の品質管理の推進に向けて、実情の更なる精査、管理の普及啓発活動、指針や手引き等の作成、学会や各種団体との組織的取り組み等が必要と考えられる。基本検査セットによる議論や多職種用チェックリストの活用にも意義があると思われる。今回の一連の検討は、在宅医療における臨床検査を伴うケアの発展、延いては在宅医療の質的向上に寄与すると考えている。

公開日・更新日

公開日
2025-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-05-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202421024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
在宅医療で実施される臨床検査の精度管理を含む品質確保に関しては十分に検討されていない。今回、在宅医療での検体検査の精度管理等の実施状況を調査し、在宅医療用検査セットや多職種向けチェックリストを考案した。全国の在宅医療に取り組む機関における検査の品質確保に関する現況を初めて明らかにした。また、全国の実態と専門家の合議を踏まえて検査セットやチェックリストを提示した。これらは検査の品質確保策の検討資料になるとともに在宅医療の質の向上に寄与する成果と言える。
臨床的観点からの成果
在宅医療での臨床検査の品質確保に関する現況を示したことは、今後の検査の実施を見直し、延いては診療の改善を促す契機になり得る。また、本研究班で提示した在宅医療用検査セットや多職種向けチェックリストを臨床的に活用することは、検査の品質管理の向上や診療の標準化あるいは効率化に繋がると考えられる。
ガイドライン等の開発
在宅医療での臨床検査の品質確保に関する全国的な状況をもとに、在宅医療でのその品質確保に対する提言、あるいは指針や手引き等の作成を思案する。本研究班で提示(開発)した在宅医療用検査セットや多職種向けチェックリストも一般化可能性があり、全国的に活用できる。
その他行政的観点からの成果
「医療法等の一部を改正する法律」が施行され、検体検査の測定に関して精度管理をはじめとする品質の確保が求められるようになっている今日、在宅医療に取り組む機関に特化してその実施状況を明らかにし、行政的に検討できる資料を得た点は有意義である。また、在宅医療の診断や治療体系に与する臨床検査の品質管理に関する今回の検討結果は、在宅医療が地域医療の基盤の一角を成していることに鑑みて、広く公衆衛生の向上に寄与すると考えられる。
その他のインパクト
成果の一部を出版するとともに、機会をみて情報を発信するように努めた。さらに、在宅医療での検査の品質確保に関する提言等を試みたい。調査の報告書を刊行し、医療機関や行政機関からの照会に対応しつつ、現場の意見を受けて本研究班の活動を継続する。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
202421024Z