歯科口腔保健の健康格差に関する実態把握および調査手法の改善のための研究

文献情報

文献番号
202421014A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科口腔保健の健康格差に関する実態把握および調査手法の改善のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23IA1012
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
三浦 宏子(北海道医療大学 歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 福田 英輝(国立保健医療科学院)
  • 大島 克郎(日本歯科大学東京短期大学)
  • 村田 幸枝(北海道医療大学 歯学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
2,036,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究事業では、地域や社会的状況による歯科口腔保健の健康格差の実態を全国調査や公的統計調査のリンケージ分析等によって明らかにするとともに、歯科疾患実態調査での口腔内診査の実施が難しい場合等における代替・補完方法を検討することを目的とした。本年度の研究事業では4つのサブテーマ(①介護老人保健施設における歯科保健サービス提供状況の全国調査、②2022年歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査のデータリンケージ分析、③2022年歯科疾患実態調査の問診項目と歯科疾患との関連分析、④歯科診療所での患者調査と歯科疾患実態調査との比較)を行い、総合的に分析した。
研究方法
各研究課題ごとに研究方法を示す。
①介護老人保健施設における歯科保健サービス提供状況の全国調査:全国の老健施設から無作為に抽出した1.674 施設を対象に郵送自記式調査を行い、介護老人保健施設における歯科保健サービス提供状況に関する全国調査を行った。
②2022年歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査のデータリンケージ分析:二次利用申請によって得た両調査の個人デ
ータを照合することで20 歳以上の1,981 名の統合データを作成し、解析を行った。
③2022年歯科疾患実態調査の問診項目と歯科疾患との関連分析:20 歳以上65 歳未満の働く世代に着目し、自記式質問項目と臨床検査結果との関係を検討した。
④歯科診療所での患者調査と歯科疾患実態調査との比較:歯科診療所受診患者を対象とした調査(厚生労働行政推進調査事業費23IA2003)での歯科診療所患者5,750 名と2022 年歯科疾患実態調査の結果を比較分析した。
結果と考察
①老健施設における歯科保健サービス提供状況に関する全国調査を行ったところ、定期歯科健診実施率は22.6%にとどまり、歯科専門職の配置率は約30%であった。その一方、歯科専門職による歯科保健指導の実施率は42.7%に達していた。また、約87%の施設で日常的な口腔ケアは実施されていたが、提供サービスが入所者のニーズを十分満たせていないと感じる施設が2割程度存在し、歯科専門職との連携を促進させる支援体制の必要性が示唆された。
②2022年歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査の個票データリンケージ分析では、定期歯科健診受診者は56.0%、歯間清掃習慣を有する者は54.2%であり、20歯以上の自分の歯を有する者は68.3%であった。多変量解析の結果、定期健診や歯間清掃を実施している者は、都市部在住で等価家計支出が高く、一般健診受診者が多いなど、良好な歯科保健行動と高い社会経済状況との関連が示された。
③2022年歯科疾患実態調査の問診項目と歯科疾患の関連分析では、「歯や口の状態について気になることがある」と回答した者は、未処置う蝕および4mm以上の歯周ポケットを有する割合がいずれも有意に高かった。特に「歯をみがくと血が出る」「噛めないものがある」「口が乾く」といった自覚症状は未処置う蝕の有無と有意に関連し、「歯ぐきが腫れている」「歯をみがくと血が出る」は歯周ポケットの有無と関連した。また、過去1年間に歯科健診を受診した者では、未処置う蝕および歯周ポケット有病者の割合がともに有意に低く、定期歯科健診受診の有効性が示唆された。
④歯科診療所受診患者を対象とした調査(厚生労働行政推進調査事業費23IA2003)と2022年歯科疾患実態調査の結果を比較分析した結果、歯科診療所患者群では1人平均DMFT、処置歯数および現在歯数が有意に多く、根面齲歯数、喪失歯数および健全歯数が有意に少ないことが明らかとなった。一般住民と比較して歯科受診者では齲蝕経験歯数や処置歯数が多い一方、残存歯数も多い傾向が示された。未処置歯数は両群間で有意差がみられず、両調査で共通した傾向を示す項目も認められた。
結論
これらの4 つの研究結果によって、今後の歯科保健施策に寄与する以下の知見を得ることができた。老健施設での歯科口腔保健サービス提供の格差の現状を把握するとともに、今後の課題を抽出できた。歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査のリンケージ分析によって、全国レベルで歯・口腔の健康格差と社会的決定要因との関連性が確認できた。歯科疾患実態調査での問診項目の活用は、歯科疾患の有病状況の把握にも一定の役割を果たすことが示唆された。加えて、歯科診療所での受診者データは、一般住民の状況をある程度推し量ることが可能であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2025-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-05-28
更新日
-

文献情報

文献番号
202421014B
報告書区分
総合
研究課題名
歯科口腔保健の健康格差に関する実態把握および調査手法の改善のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23IA1012
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
三浦 宏子(北海道医療大学 歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 福田 英輝(国立保健医療科学院)
  • 大島 克郎(日本歯科大学東京短期大学)
  • 村田 幸枝(北海道医療大学 歯学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域や社会的状況による歯科口腔保健の健康格差の実態を全国調査や公的統計調査のリンケージ分析等によって明らかにするとともに、歯科疾患実態調査での口腔内診査の実施が難しい場合等における代替・補完方法を検討することを目的とした。
研究方法
障害児者施設と介護老人保健施設の歯科保健サービスの提供状況については、郵送法を用いた自記式質問紙による全国調査(障害児者施設は全数、介護老人保健施設は4割の無作為抽出)を実施した。それ以外の調査は、二次利用申請を行って入手した2022年の歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査の個票データおよび過去の厚労科研での歯科診療所受診患者調査結果等を用いた二次分析を行った。
結果と考察
①障害児者施設への全国調査:年1回以上の定期歯科健診実施率は62.7%、歯科専門職による定期歯科保健指導実施率は40.6%であった。施設職員による日常的な口腔ケアは多くの施設で行われていたが、提供している歯科保健サービスが入所者のニーズを十分に満たせていないと感じる施設が約3割存在した。
②介護老人保健施設への全国調査:定期歯科健診実施率は22.6%であった。歯科専門職による歯科保健指導の実施率は42.7%に達し、約87%の施設で日常的な口腔ケアが実施されていた。一方で、提供サービスが入所者のニーズを十分満たせていないと感じる施設が約2割存在し、歯科専門職との連携を支援する体制の必要性が示唆された。
③歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査のデータリンケージ分析:定期歯科健診受診者の割合は56.0%、歯間清掃習慣を有する者は54.2%、自分の歯を20歯以上有する者は68.3%であった。多変量解析の結果、定期歯科健診や歯間清掃を実施している者は、都市部在住で等価家計支出が高く、定期健康診査受診率が高いなど、良好な歯科保健行動と高い社会経済状況との有意な関連が示された。
④歯科疾患実態調査の問診項目と歯科疾患の関連分析:2022年歯科疾患実態調査における問診票項目と口腔内診査の結果との関係を20~64歳の働く世代で分析した。その結果、「歯や口の状態について気になることがある」と回答した者は、未処置う蝕および4mm以上の歯周ポケットを有する割合がいずれも有意に高かった。特に、「歯を磨くと血が出る」「噛めないものがある」「口が乾く」といった自覚症状がある者では未処置う蝕の有病率が有意に高く、「歯ぐきが腫れている」「歯を磨くと血が出る」と回答した者では歯周ポケット有病率が有意に高かった。また、過去1年間に歯科健診を受診した者では、未処置う蝕および歯周ポケットの有病率がともに有意に低く、定期健診受診の有効性が示唆された。
⑤歯科診療所受診者と一般住民の歯科健康指標の比較分析:歯科診療所の受診患者5,750名と2022年歯科疾患実態調査における一般住民の歯科保健指標を比較した。その結果、歯科受診者では1人あたり平均齲蝕経験歯数・処置歯数・現在歯数が有意に多く、喪失歯数および健全歯数が有意に少なかった。未処置歯数には両群間で有意差がみられず、両調査で共通した傾向も一部認められた。
⑥セルフレポートによる歯科疾患評価指標の系統的レビュー:歯周疾患に関する国内文献4件および国際文献2件の研究が該当したが、う蝕に関する該当研究は見出せなかった。歯周疾患のスクリーニングに用いられていた自記式質問項目として、歯・口腔の自覚症状、口腔内の観察所見、歯科保健行動、全身の健康状態、および歯科専門職からの指摘経験に関する項目が抽出された。
⑦指標達成基準に関する分析:歯科口腔保健の推進に関する基本的事項(第2次)に掲げられた指標の達成状況を評価する手法として、健康日本21(第三次)の資料で提示された「最小変化範囲」を用いた分析を試みた。その結果、最小変化範囲等を用いた評価法は基本的事項(第2次)の進行状況評価においても有用であることが示唆された。
結論
全国の障害児者施設と介護老人保健施設における歯科保健サービス提供体制の現状を示す基礎データが得られるとともに、施設に入所している要支援者への口腔衛生管理の課題が抽出された。また調査手法の改善に関しては、歯科保健施策の評価に最小変化範囲を用いることの有用性や、歯科疾患実態調査の問診票など主観的な質問項目が歯科疾患の有無を一定程度把握する指標となりうることが示された。また、歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査とのデータリンケージは約8割の対象者で可能であり、歯・口腔の健康格差を継続的にモニタリングする手法として有用であること、さらに歯科診療所受診者を対象とした調査は一般住民の口腔健康状態を推測する代替手段となりうることも明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2025-05-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202421014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
障害児者施設および介護老人保健施設での歯科保健サービスの提供状況に関する全国調査結果は、本研究以外に報告されておらず、歯科口腔保健の推進に関する基本的事項(第2次)での関連する目標指標のベースライン値に用いられるだけでなく、疫学的見地からも有用性が高い。
臨床的観点からの成果
系統的レビューによって、重度歯周病のスクリーニングに際して役立つセルフレポート項目が明らかになったことより、今後の歯科疾患実態調査の自記式質問項目の見直しに活用される。また、感染症等の拡大等によって、今後、歯科疾患実態調査での口腔診査の実施が困難な場合において、問診や自記式質問票等の活用や、歯科診療所での受診患者調査などが代替手法となりうる可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
現時点でのガイドライン等の開発はなされていないが、本研究で得られた知見をもとに、令和5年10月に発刊された「歯・口腔の健康づくりプラン推進のための説明資料」の追補版を今後、作成する予定である。
その他行政的観点からの成果
指標達成の基準分析によって、最小変化範囲が歯科口腔保健の推進に関する基本的事項(第2次)で明示されたことから、評価計画の事前立案が可能となり、中間評価や最終評価にも活用される。
その他のインパクト
本研究で得られた知見をもとに、日本老年歯科医学会第35回学術大会(札幌、2024年6月28日~30日)にてシンポジウム「歯科口腔保健法に基づく今後の高齢者歯科保健活動~歯と口腔の健康づくりプランをふまえたアプローチ~」を開催した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
検討会での議論1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
シンポジウム1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Oshima K, Miura H, Tano R, et al.
Urban-rural differences in the prevalence of having a family dentist and their association with income inequality among Japanese individuals: a cross-sectional study
BMC Oral Health , 24 , 741-741  (2024)
10.1186/s12903-024-04528-8

公開日・更新日

公開日
2025-05-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
202421014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,646,000円
(2)補助金確定額
2,646,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 138,841円
人件費・謝金 23,850円
旅費 122,724円
その他 1,498,547円
間接経費 610,000円
合計 2,393,962円

備考

備考
データ整理のために謝金にて研究補助者を雇用する予定であったが、研究班員で作業を行うことができた。また、班会議の一部について現地開催を予定していたが、すべての班会議をオンラインで行ったため、当初予定した旅費より減額した。

公開日・更新日

公開日
2025-05-28
更新日
-