新型インフルエンザワクチンの安全性に関する疫学研究

文献情報

文献番号
201005002A
報告書区分
総括
研究課題名
新型インフルエンザワクチンの安全性に関する疫学研究
課題番号
H22-特別・指定-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
山縣 然太朗(山梨大学大学院 医学工学総合研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 茂(国立大学法人長崎大学理事 長崎大学病院)
  • 多屋 馨子(国立感染症研究所感染症情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 2009年4月にメキシコとアメリカで同定されたブタインフルエンザA (H1N1)ウイルスは、その後世界に拡大し、WHOが2009年6月11日にphase 6のパンデミックとして警報を発令するに至った。季節性 インフルエンザワクチンは新型ウイルスについて予防効果は期待されず、それゆえ有効で安全な新型ワクチンの開発は喫緊の課題であった。
 2009年9月以降日本において拡大したインフルエンザ(H1N1)2009(以下、新型インフルエンザ)に対する初めてのA型インフルエンザHAワクチンH1N1株(以下、新型ワクチン)の接種事業後の症例報告として、全身状態に関わる基礎疾患をもつ者の新型ワクチン接種後の死亡が131例報告された。新型ワクチンの副反応により死亡したか、基礎疾患を重篤化させたか、もとの基礎疾患による死亡か、については意見の一致をみていない。これを明らかにするために、新型ワクチンを曝露とし、2009/2010年冬シーズンの患者の死亡を症例、患者の生存を対照とする症例対照研究をおこなうこととした。
研究方法
 日本国内310の日本呼吸器学会認定施設に調査票を送付した。2009年10月1日から2010年3月31日までの診療録に基づき、特発性間質性肺炎(IIP)の患者を対象、在宅酸素療法(HOT)導入中の慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者を対象母集団とする2つの研究を行った。18歳以上の患者に対し、性・年齢・重症度で症例と対照をマッチングし標本を採取した。同時に死亡に関するリスク要因の情報も採取した。新型ワクチン接種の非接種に対する死亡のオッズ比とその95%信頼区間を計算した。合併症や接種しなかった理由で調整した解析も行った。
結果と考察
 110施設より回答が得られた。IIP研究については75の症例と対照患者のペアが解析対象となった。新型ワクチン曝露による当該冬シーズンの粗死亡オッズ比は0.63 (CI: 0.25-1.47)、合併症等の共変量で調整したオッズ比は1.17 (CI: 0.33-4.49)であった。COPD研究については36の症例と対照患者のペアが解析対象となった。新型ワクチン曝露による当該冬シーズンの粗死亡オッズ比は0.33 (CI: 0.06-1.34)、合併症等の共変量で調整したオッズ比は0.89 (CI: 0.13-6.25)であった。
結論
 呼吸器内科認定施設の、特発性間質性肺炎患者診療録に基づく研究および在宅酸素療法導入中の慢性閉塞性肺疾患患者診療録に基づく研究では、新型インフルエンザワクチンがその患者の死亡リスクを上昇させているとはいえない。

公開日・更新日

公開日
2011-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201005002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新型インフルエンザワクチン接種が基礎疾患を持つ人の死亡リスクを上げるかについて、疫学研究の手法を用いて明らかにした国内外ではじめての成果である。基礎疾患としては、特発性間質性肺炎患者および在宅酸素療法導入中の慢性閉塞性肺疾患の患者を対象とした。いずれも、ワクチン接種が死亡のリスクを上げるとの結果は得られなかった。
臨床的観点からの成果
基礎疾患を持つ患者に対する新型インフルエンザワクチン接種の死亡が131例あり、重度の基礎疾患を有する者への優先接種について検討が必要とされた。本研究では、少なくとも、特発性間質性肺炎患者および在宅酸素療法導入中の慢性閉塞性肺疾患の患者については死亡のリスクを高めるという結果は得られなかった。このことは同疾患の患者に対しても、ワクチン接種は、新型インフルエンザ感染による重症化の防止の利点がリスクを上回る可能性が高いことを示唆する。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
WHO(世界保健機関)のウェブサイトにおいて、インフルエンザワクチンの臨床評価(PANDEMIC AND POTENTIALLY PANDEMIC INFLUENZA VACCINES)の2014年10月のアップデートで、新型インフルエンザの副反応に関する論文が掲載された。(http://www.who.int/immunization/diseases/influenza/clinical_evaluation_tables/en/index.html)
その他のインパクト
報告書の提出時点では発表を控えている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yokomichi H, Kurihara S, Yokoyama T et al
The pandemic influenza A (H1N1) 2009 vaccine does not increase the mortality rate of idiopathic interstitial pneumonia: a matched case-control study
PLoS One , 9 (2)  (2014)
10.1371/journal.pone.0088927
原著論文2
Hiroshi Yokomichi, Shintaro Kurihara, Tetsuji Yokoyama et al
Safety of the Influenza A(H1N1) 2009 Vaccine in Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Matched Case-Control Study
Journal of Vaccines & Vaccination , 3 (5)  (2012)
10.4172/2157-7560.1000148

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
2015-06-08

収支報告書

文献番号
201005002Z