集中治療医療の適正な提供を行う体制確立のための研究

文献情報

文献番号
202421010A
報告書区分
総括
研究課題名
集中治療医療の適正な提供を行う体制確立のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23IA1007
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
土井 研人(国立大学法人東京大学 医学系研究科 救急・集中治療医学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
1,578,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、令和5年度にICU入退室指針を作成した。令和6年度では、実際のDPCデータを用いた本指針の検証作業を遂行することを目的とした。また、「全国調査によるRapid Response System(RRS)の問題点抽出と経年変化追跡:前向き観察研究」を行った。
研究方法
(1)集中治療医療提供に係る調査
DPCデータベースを用いて、7つの予定術後患者および4つの内因性疾患患者におけるICU使用の有無と死亡率、在院日数、入院費用といったアウトカムの比較を行った。また、ICU入退室指針を満たした患者においても同様の検討を行った。。
(2) Rapid response system(RRS)等による早期介入に係る調査
「全国調査によるRapid Response System(RRS)の問題点抽出と経年変化追跡:前向き観察研究」は、院内救急対応に関する現状把握と経年変化追跡を目的とした前向き観察研究(アンケート調査)であり、5年間にわたって年1回の全国調査(WEBフォームによるアンケート調査)を実施している。令和6年度は第3回の全国調査である。
(3) 倫理面への配慮
(1)のDPCデータを用いた解析については、本研究は既に収集されて匿名化されたデータのみを使用するので、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」の対象外である。(2)のRRSに関する全国調査については、名古屋市立大学医学系研究倫理審査委員会にて承認されている。
結果と考察
結果
(1) 集中治療医療提供に係る調査
 DPCデータベースを用いて7つの予定術後患者および4つの内因性疾患患者におけるICU使用の有無と死亡率、在院日数、入院費用といったアウトカムの比較を行ったところ、病態によって様々な結果が得られた。すなわち、ICU使用患者の方がICUを使用していない患者よりもアウトカムが良い場合と悪い場合が混在していた。日本集中治療医学会ICU入退室指針作成タスクフォースによるICU入退室指針を満たした患者に限定しても同様の結果が得られた。
(2) Rapid response system(RRS)等による早期介入に係る調査
回答数は275施設(回収率42.9%)、RRS導入済み施設は224施設であった。600床以上の施設では、第1回調査から9割の施設が導入済みで変化なかったが、それ以外の施設においては導入済み施設数が増加していた。
一方で、導入後の定着を示す起動件数では、定着の国際的基準とされる20件(新入院千対)を超える施設は、直近の調査においても13施設(5.8%)に留まった。

考察
(1) 集中治療医療提供に係る調査
 DPCデータを用いて7つの予定手術患者、4つの内因性疾患患者を抽出し、ICU入室の有無及び、ICU入退室基準を用いて層別化し、あらかじめ設定したアウトカムである死亡率や在院日数、入院費用等を比較した。ICUを使用した患者と使用しなかった患者の比較において、アウトカムの改善あるいは悪化については、ICU入退室基準を満たす症例に限定しても、すべての病態において様々な結果であり、一貫性のある解釈が困難であった。その理由として、ICUを使用しないがためにリスクが上昇した場合と、ハイリスクであるからICUを使用した場合が混在していると推定された。
 前年度に作成した日本集中治療医学会ICU入退室指針作成は、①提供する治療・ケア、②患者因子、③施設の有する医療資源、④地域の集中治療関連の医療資源、⑤手術患者について検討を行ったが、DPCデータベースから抽出可能な項目は、おもに①提供する治療・ケア、②患者因子に限定されており、特に③施設の有する医療資源、④地域の集中治療関連の医療資源についての解析が今後必要になると考えれられた。すなわち、施設及び地域の利用可能な医療資源の状況を客観的に測定、評価する指標が必要であろう。

(2) Rapid response system(RRS)等による早期介入に係る調査
RRSを導入している施設が着実に増加しているが、起動件数は少なく、マンパワー不足に加えて、RRSに関する認知度、教育、文化の熟成といった普及が十分でないことを示す項目が、定着の障壁となっていることが明らかとなった。
結論
集中治療医療の適正な提供を行うためのICU入退室指針の妥当性の検証をDPCデータベースを用いて試みたが、①提供する治療・ケア、②患者因子、のみならず、③施設の有する医療資源、④地域の集中治療関連の医療資源についての客観的な指標の必要性が明らかとなった。また、Rapid response system(RRS)等による早期の介入に関する運用指針を定めるとともに、全国調査による現状の把握を行った。

公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
-

文献情報

文献番号
202421010B
報告書区分
総合
研究課題名
集中治療医療の適正な提供を行う体制確立のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23IA1007
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
土井 研人(国立大学法人東京大学 医学系研究科 救急・集中治療医学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究においては、集中治療を必要とする患者背景、病態、治療提供体制などの因子について文献検索と専門家による討議を行い、ICU入退室指針を作成し、さらには実際のDPCデータを用いた本指針の検証作業を遂行することを目的とした。また、Rapid response system(RRS)等による早期の介入により集中治療医療の必要な患者が減じ得るが、その効果を客観的に示す指標、質の評価基準を作成すること、我が国におけるRRS運用の実態全国調査も併せて行うこととした。
研究方法
(1)集中治療医療提供に係る調査
集中治療を必要とする患者背景、病態、治療提供体制などの因子について文献検索と専門家による討議(日本集中治療医学会ICU入退室指針作成タスクフォース)を行い、ICU入退室指針を作成した。
本指針に基づき複数のICU入室基準を具体的に定め、DPCデータベースにおける実際の患者のICU入室状況と比較可能であるかの検討を行った。次いで、DPCデータベースを用いて、7つの予定術後患者および4つの内因性疾患患者におけるICU使用の有無と死亡率、在院日数、入院費用といったアウトカムの比較を行った。また、ICU入退室指針を満たした患者においても同様の検討を行った。
(2) Rapid response system(RRS)等による早期介入に係る調査
日本集中治療医学会RRS検討委員会において、RRS 運用によって各医療機関における医療の質の向上と安全性が確保できることを目的としたRRS運用指針を作成した。また、「全国調査によるRapid Response System(RRS)の問題点抽出と経年変化追跡:前向き観察研究」の調査を行った。
結果と考察
(1) 集中治療医療提供に係る調査
 ICU入退室指針を作成した(2023年11月学会HPにて公開)。次にDPCデータベースを用いてICU使用の有無とアウトカムの比較を行ったところ、病態によって様々な結果が得られた。
 集中治療を行う場所をICUと規定するならば、ICUにおける医療が集中治療であると解釈できるが、どの患者をICUに入室させるかの基準に依存するため、患者背景や病態、またモニタリングや治療内容に基づいた入退室指針が重要となる。DPCデータを用いた検討では、ICUを使用した患者と使用しなかった患者の比較において、アウトカムの改善あるいは悪化については、ICU入退室基準を満たす症例に限定しても、すべての病態において様々な結果であり、一貫性のある解釈が困難であった。その理由として、ICUを使用しないがためにリスクが上昇した場合と、ハイリスクであるからICUを使用した場合が混在していると推定された。
 ICU入退室指針は、①提供する治療・ケア、②患者因子、③施設の有する医療資源、④地域の集中治療関連の医療資源、⑤手術患者について検討を行ったが、DPCデータベースから抽出可能な項目は、おもに①提供する治療・ケア、②患者因子に限定されており、特に③施設の有する医療資源、④地域の集中治療関連の医療資源についての解析が今後必要になると考えれられた。すなわち、施設及び地域の利用可能な医療資源の状況を客観的に測定、評価する指標が必要であろう。

(2) RRS等による早期介入に係る調査
 RRS運用指針を作成した(2025年3月公開)。全国調査では、導入率の上昇が観察された一方で、導入後の定着を示す起動件数では、定着の国際的基準とされる20件(新入院千対)を超える施設は、令和6年度第3回全国調査で13施設(5.8%)に留まった。
 合計3回の全国調査により、RRSを導入している施設が着実に増加していることが明らかとなったが、普及が十分でないことを示す項目が、定着の障壁となっていることが明らかとなった。令和4年度診療報酬改定により充実体制加算が開始され、RRS導入施設数が増加したことは評価されるが、実際の運用についてはいまだ不十分な施設が多く存在するため、本研究において作成したRapid Response System 運用指針のさらなる普及に加えて、診療報酬におけるRRS運用の評価方法についても検討が必要であると考えられた。
結論
集中治療医療の適正な提供を行うためのICU入退室指針の妥当性の検証をDPCデータベースを用いて試みたが、①提供する治療・ケア、②患者因子、のみならず、③施設の有する医療資源、④地域の集中治療関連の医療資源についての客観的な指標の必要性が明らかとなった。また、Rapid response system(RRS)等による早期の介入に関する運用指針を定めるとともに、全国調査による現状の把握を行ったが、普及に加えて運用面などの啓蒙と周知が必要な状況が確認された。

公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202421010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
適切な集中治療医療を提供するためのICU入退室指針を、集中治療を必要とする患者背景、病態、治療提供体制などの因子について文献検索と専門家による討議(日本集中治療医学会ICU入退室指針作成タスクフォース)により作成した。
臨床的観点からの成果
日本集中治療医学会RRS検討委員会においてRRS運用指針が作成され、2025年3月に公開された。学会からの指針が明確に示されたため、各医療機関におけるRRS導入が今後さらに増加することが期待できる。
ガイドライン等の開発
日本集中治療医学会 ICU入退室指針作成タスクフォースによる ICU入退室指針が、2023年に日本集中治療医学会ホームページにて公開された(https://www.jsicm.org/
publication/guideline.html)。
日本集中治療医学会RRS運用指針作成ワーキンググループによるRapid Response System運用指針が、日本集中治療医学会雑誌(32, R15, 2025年)に公開された。
その他行政的観点からの成果
令和4年度診療報酬改定により充実体制加算が開始され、RRS導入施設数が増加したことは評価されるが、「全国調査によるRapid Response System(RRS)の問題点抽出と経年変化追跡:前向き観察研究」で明らかとなったように、実際の運用についてはいまだ不十分な施設が多く存在する。この調査結果は今後の充実体制加算の見直しにも有用であろう。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
202421010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,500,000円
(2)補助金確定額
2,096,000円
差引額 [(1)-(2)]
404,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 200,000円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 1,320,000円
間接経費 576,000円
合計 2,096,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
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