急性呼吸器感染症の感染メカニズムと疫学、感染予防・制御に関する研究

文献情報

文献番号
201004009A
報告書区分
総括
研究課題名
急性呼吸器感染症の感染メカニズムと疫学、感染予防・制御に関する研究
課題番号
H22-国医・指定-009
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
森島 恒雄(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 宏(新潟青陵大学)
  • 荒川 宜親(国立感染症研究所)
  • 河岡 義裕(東京大学 医科学研究所)
  • 田代 眞人(国立感染症研究所)
  • 山中 昇(和歌山県立医科大学)
  • 大石 和徳(大阪大学微生物研究所)
  • 押谷 仁(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所)
  • 喜田 宏(北海道大学 大学院獣医学研究科)
  • 中山 哲夫(北里生命k学研究所)
  • 渡邊 浩(久留米大学 医学部)
  • 石和田 稔彦(千葉大学 医学部附属病院)
  • 齋藤 玲子(新潟大学 教育研究院医歯学系)
  • 堤 裕幸(札幌医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(国際医学協力研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
13,889,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日米および東・東南アジアにおける急性呼吸器感染症の予防・制御を目的とした。2010年度は「新型インフルエンザ」以下AH1N1・2009をとくに緊急の課題とした。その他、細菌感染症は、耐性化の現状、メカニズム、重症化のリスクを中心に検討した。
研究方法
AH1N1・2009の特徴である肺炎の臨床像、発症機序の解析、ウイルス学的な解析を実施した。薬剤耐性についても国内外で調査した。一方、経鼻インフルエンザワクチンの効果について、動物実験モデルによる研究を進めた。国内で多発した高病原性鳥インフルエンザH5N1(以下H5N1)のサーベイランスを実施した。細菌感染症については、ウイルス感染との相互作用や近年新たにワクチンが登場した、インフルエンザ菌・肺炎球菌の血清疫学、重症化のリスクファクター、中耳炎の難治化のメカニズムおよび病原性などについて検討した。
結果と考察
小児に多発した肺炎の臨床的特徴を明らかにした。年長児に多く、低酸素血症を伴い急激に発症した。治療は抗ウイルス剤,酸素投与,ステロイド(静注)などが行われ、多くは軽症であった。ウイルス性肺炎による肺胞障害の機序として、サイトカイン・ケモカインの上昇が認められ、肺局所で活性酸素が産生され、NOx産生が誘導されていた。AH1N1・2009ウイルスの特徴は、PA、HA、NPにアミノ酸の変異が生じ、マウスへの病原性獲得に関連していた。本ウイルスの一部がタミフル耐性を示したが、拡散傾向は認められていない。2010/2011全国で報告された野鳥や家禽のH5N1の蔓延は、東南アジアから野鳥により持ち出されたH5N1が、シベリアなどの営巣湖沼で常在しつつある中で起きた現象であることが推定された。細菌感染症については、肺炎球菌・インフルエンザ桿菌などの薬剤感受性の推移、薬剤耐性株の遺伝子変異パターンの検討に加え、耐性獲得のメカニズム(バイオフィルム、細胞侵入性など)について研究を進めた。肺炎球菌ワクチンの予防効果、安全性、ワクチン導入後の流行株の推移などを検討した。同ワクチンの効果および致死的肺炎球菌感染症や難治性中耳炎のリスクファクターが明らかになった。
結論
AH1N1・2009についてウイルス学的特徴、臨床像、病態をほぼ明らかにできた。一方、細菌感染症については、肺炎球菌・インフルエンザ菌について、耐性化を中心に多くのエビデンスを得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2011-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201004009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
AH1N1.2009ウイルスの病原性に関与する変異を見出した。また同肺炎の臨床像、発症機序を明らかにし、治療法の確立に繋げた。細菌感染症では、肺炎球菌・インフルエンザ桿菌の薬剤感受性の推移、耐性獲得のメカニズム(バイオフィルム、細胞侵入性など)を明らかにした。肺炎球菌ワクチンの予防効果が推定でき、致死的肺炎球菌感染症や難治性中耳炎のリスクファクターを明らかにした。この研究は、AH7N9鳥インフルエンザの研究に生かされた。
臨床的観点からの成果
我が国の「新型インフルエンザ」の予後は、世界各国と比較して良好であった。早い段階で病像、病態の解明、と治療法の徹底が効果を上げたと思われる。「新型インフルエンザ」の社会での知識の普及や予防対策,発症後早期の医療へのアクセスおよび医療機関での診療が大きな成果につながった。また、細菌感染症では耐性化や重症化のメカニズムを明らかにすることができた。2013年中国で流行が拡大したAH7N9のヒト重症例の病態理解に役立った。
ガイドライン等の開発
本研究班における研究成果は、「新型インフルエンザ」診療上多くの参考になった。また、厚生労働省研究班で2009年9月に作成した「インフルエンザ脳症ガイドライン改訂版」の新型インフルエンザにおける治療効果や、小児の新型インフルエンザ肺炎の治療の上で、本研究班が示した病態や臨床像は重要であった。AH7N9などの重症インフルエンザの国内侵入に備えて、各学会や厚生労働省研究班が集まり、2014年4月現在ガイドラインの作成が進んでいる。
その他行政的観点からの成果
本研究班の研究成果(新型インフルエンザのウイルス学的解析、小児に多発した肺炎や脳症の臨床像及び、病態の解明)の一部は、厚生労働省における「新型インフルエンザ」対策および総括における参考となった。また、2010年以降国内で多発した家禽及び野鳥の高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)について、渡り鳥などの感染経路の推定や感染拡大予防策に参考になった。現在(2014年4月)、重症インフルエンザの診療体制整備の準備も始まっている。
その他のインパクト
日本学術会議、厚生労働省などの主催の「新型インフルエンザ」「高病原性鳥インフルエンザ」に関する市民公開講座などにおいて、班員の多く(喜田、河岡、田代、押谷、鈴木、渡邊、森島など)が、研究成果を公表する多くの機会を得た。またメデイアにとりあげられる機会も非常に多かった。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
重症インフルエンザ診療体制整備のための施策が進行している。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mori T, Tsutsumi H, et al.
Clinical characteristics and computed tomography findings in children with 2009 pandemic influenza A (H1N1) viral pneumonia.
Scand J Infect Dis. , 43 (1) , 47-54  (2011)
原著論文2
Ichinohe, T., Hasegawa H., et al.
Induction of cross-protective immunity against influenza A virus H5N1 by an intranasal vaccine with extracts of mushroom mycelia.
J of Med Virology , 82 , 128-137  (2010)
原著論文3
Nakajima, N., Hasegawa, H., et al.
The first autopsy case with pandemic influenza (A/H1N1pdm) virus infection in Japan: Detection of high copy number of the virus in type II alveolar epithelial cells by pathological and virological examination.
Jpn J Infect Dis. , 63 , 67-71  (2010)
原著論文4
Ujike, M., Tashiro, M., et al. The working group of influenza virus surveillance in Japan.
Oseltamivir-Resistant Influenza Viruses A(H1N1) during the 2007-2009 Influenza Seasons, Japan.
Emerg Infect Dis. , 16 , 926-935  (2010)
原著論文5
Ogami M, Yamanaka N., et al.
A comparison of conventional and molecular microbiology in detecting differences in pneumococcal colonization in healthy children and children with upper respiratory illness.
Eur J Pediatr. , 169 (10) , 1221-1225  (2010)
原著論文6
Kawakami K, Oishi K, et al.
Effectiveness of pneumococcal polysaccharide vaccine against pneumonia and cost analysis for the elderly who receive seasonal influenza vaccine in Japan.
Vaccine. , 28 , 7063-7069  (2010)
原著論文7
Hishiki H, Ishiwada N, et al.
Incidence of bacterial coinfection with respiratory syncytial virus bronchopulmonary infection in pediatric inpatients.
J Infect Chemother. , 17 (1) , 87-90  (2010)
原著論文8
Sakoda Y, Kida H et al.
Characterization of H5N1 highly pathogenic avian influenza virus strains isolated from migratory waterfowl in Mongolia on the way back from the southern Asia to their northern territory.
Virology. , 406 (1) , 88-94  (2010)
原著論文9
Sawada A, Komase K, Nakayama T.
AIK-C measles vaccine expressing fusion protein of respiratory syncytial virus induces protective antibodies in cotton rats.
Vaccine. , 29 (4) , 1481-1490  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
2016-06-09

収支報告書

文献番号
201004009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,889,000円
(2)補助金確定額
13,889,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 0円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 0円
間接経費 0円
合計 0円

備考

備考
 利息 90円

公開日・更新日

公開日
2016-05-25
更新日
-