環境中の疾病要因の検索とその作用機構の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201004006A
報告書区分
総括
研究課題名
環境中の疾病要因の検索とその作用機構の解明に関する研究
課題番号
H22-国医・指定-006
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
中釜 斉(独立行政法人 国立がん研究センター研究所 発がんシステム研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 若林 敬二(静岡県立大学 環境科学研究所)
  • 渡辺 徹志(京都薬科大学 公衆衛生学分野)
  • 大島 寛史(静岡県立大学 食品栄養科学部/大学院生活健康科学研究科)
  • 續 輝久(九州大学大学院医学研究院 分子遺伝学分野)
  • 椙村 春彦(浜松医科大学 医学部 病理学第一講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(国際医学協力研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
13,889,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
環境中に存在する変異原や発がん物質について、新規の物質を見出すと共に、これらの環境中発がん要因によるがん発生の分子機構を解明することを目的とする。
研究方法
ラット大腸発がんモデルを用いて、microRNA(miRNA)の網羅的発現解析を行った。食品成分由来の内因性ニトロソ化合物NIAN投与とH. pylori感染によるスナネズミ胃発がん実験を行った。糖尿病の生体内モデルメイラード反応物から同定したABAQの遺伝毒性を調べた。慢性炎症部位での活性酸素と生体成分の反応物セコステロールについて、生成機構、代謝物質、及びその生物活性とヒト血液での分析を行った。全国各地で1年間大気粉塵を捕集し、粉塵濃度、生物活性、化学成分を解析した。p53遺伝子欠損マウスでの酸化ストレス誘発腸管発がんを解析した。ヒト検体を用いて、DNA付加体の網羅的(adductome)解析を行った。
結果と考察
発がん物質特有の発現様式を示すmiRNAを指標に用いた新規の発がん性予測法の可能性が示された。NIANはH.pylori感染との複合作用により胃がんを誘発し、食品由来のニトロソ化合物が、胃がんの発生要因となる可能性が示された。ABAQの哺乳類細胞での遺伝毒性を見出し、糖尿病患者の発がん高リスク要因となる可能性を示した。セコステロール類をヒト血中から検出し、酸化ストレスの亢進と関連する疾病の発症・進展に関与する可能性を示した。大気粉塵中の発がん関連物質による広範な汚染が示され、その一部は中国大陸からの越境汚染であることが示唆された。ヒト検体を用いたadductome解析では、多数のDNA付加体が検出され、種々の環境因子に暴露していることが示された。がん発生の分子機構の解明では、酸化ストレス誘発消化管発がんでは、修復遺伝子の欠損による突然変異の誘発よりも、p53による発がん抑制の役割が大きいことを見出した。
結論
環境要因としては、発がん物質特有の発現様式を示すmiRNAを明らかにすると共に、ヒトへの種々の環境因子の暴露の可能性を示した。内因性物質としては、食品由来のニトロソ化合物、糖尿病モデル系や慢性炎症部位で生成する物質の特性を解析した。発がん抑制機構に関しては、細胞死誘導の重要性を示した。環境発がん要因の除去・低減化、新規の予防法の開発や高危険度群の推定等、得られた知見の日本及びアジア諸国におけるがん等の疾病予防対策への活用を目指す。

公開日・更新日

公開日
2011-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201004006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
発がん物質特有の発現様式を示すmicroRNAによる新規の発がん性予測法の可能性及び食品中の物質由来のニトロソ化合物が胃がんの発生要因となる可能性を示し、これらの成果は、国際学会のシンポジウムや特別講演で発表した。酸化ストレス誘発消化管発がんの抑制には、細胞死の誘導が大きく関与していることが示唆され、大腸がんの予防・抑制に重要な知見を与えた。Adductome解析による多数のDNA付加体の検出は、ヒトの突然変異に関連した多くの疾患の発生機序の解明に役立つ。
臨床的観点からの成果
食品中の物質由来のニトロソ化合物とH.pyloriによる胃発がんは、東アジアの胃がん発症要因として重要である。糖尿病に関して、生体内モデルメイラード反応物ABAQの哺乳類細胞での遺伝毒性を示し、発がんの高リスク要因の可能性を示した。慢性炎症部位での、活性酸素と生体成分の反応物セコステロール類は、酸化ストレスの亢進と関連する疾病(がん、動脈硬化症、アルツハイマー症など)の発症・進展へ関与する可能性があり、これらの疾病の早期発見、診断マーカーとしての有効性を検討することは重要である。
ガイドライン等の開発
大気粉塵中の発がん関連物質による汚染(特に都市部)や中国からの越境汚染の可能性を示したことは、発がん関連物質による大気汚染防止のためのガイドラインを策定する際の貴重な試料になる。発がん物質特有の発現様式を示すmicroRNAを指標に用いることにより、発がん性HCAと非発がん性HCAを判別可能で、新規発がん性予測法を開発できる可能性があり、新たなガイドラインの開発へ応用可能な研究成果である。
その他行政的観点からの成果
都市部を中心にした発がん関連物質による大気汚染や、中国からの越境汚染の可能性は、大気粉塵の影響が広範に及ぶことを示しており、健康被害を防止する施策を考えるうえで貴重な資料となり、他のアジア地域の大気汚染対策にも参考になる。Adductome解析によるヒトDNA付加体の解析は、ヒトの環境中の変異原への暴露の直接的な指標として、地域特有の環境要因を推定し、その低減化によるがん予防などに応用可能である。
その他のインパクト
研究代表者中釜 斉が第7回「東大医学部学生・教職員・広く一般に開かれた医学序論連続講座」(2010年11月25日)において、「小さなRNAによる新たな発がん制御機構」という演題で「環境要因への曝露による一部のマイクロRNAの発現変動」も含めて発表した。研究分担者椙村春彦が、第100回日本病理学会総会コンパニオンミーティング市民公開講座「次世代の環境発がんを考える会」(2011年5月1日予定)において、「環境発がんとDNA損傷」の演題で発表する予定だったが、震災のため中止となり、誌上発表となった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
21件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
中釜 斉、第7回「東大医学部学生・教職員・広く一般に開かれた医学序論連続講座」(2010年11月25日)。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsubara S, Wakabayashi K, Totsuka Y et al.
Induction of glandular stomach cancers in Helicobacter pylori-infected Mongolian gerbils by 1-nitrosoindole-3-acetonitrile
Int J Cancer  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201004006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,889,000円
(2)補助金確定額
13,889,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 0円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 0円
間接経費 0円
合計 0円

備考

備考
利息91円、自己資金118円

公開日・更新日

公開日
2016-05-25
更新日
-