肥満関連疾患のアジアと米国における遺伝疫学的検討とその対策に関する研究

文献情報

文献番号
201004005A
報告書区分
総括
研究課題名
肥満関連疾患のアジアと米国における遺伝疫学的検討とその対策に関する研究
課題番号
H22-国医・指定-005
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
川上 正舒(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 康(千葉大学)
  • 松澤 佑次(財団法人 住友病院)
  • 渡邊 昌(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
  • 大内 尉義(東京大学 医学部)
  • 稲垣 暢也(京都大学 医学部)
  • 武城 英明(千葉大学 医学部)
  • 山本 茂(お茶の水大学 人間文化創成科学研究科)
  • 山下 静也(大阪大学 医学部)
  • 島野 仁(筑波 大学)
  • 船橋 徹(大阪大学 医学部)
  • 石川 鎮清(自治医科大学 医学部)
  • 豊島 秀男(自治医科大学 医学部)
  • 河野 幹彦(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(国際医学協力研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
13,889,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肥満関連疾患は保健衛生政策の中でも重要な課題である。本研究は、日米および東南アジア諸国における栄養代謝に関わる諸問題について調査研究し、様々な問題の解決についての方策を立てることを目的とする。
研究方法
栄養疫学的調査研究および臨床病態学的研究を中心に行い、分子遺伝学、細胞生物学的手法による検討などを多施設(11施設)による分担研究で行った。倫理面への適切な配慮を行った。
結果と考察
1)ベトナムにおける肥満関連疾患:ベトナム人においてはPPARG2 Pro12Alaは2型糖尿病(T2DM)の予測遺伝子マーカーではないがT2DMを発症しやすい民族である可能性があり、予防のためのBMIカットオフ値は23であった。
2)インクレチン分泌:日本人においては食事の質の違いでインクレチン分泌が違った。
3)動脈硬化発症・進展進展:T2DMにおいて、高血圧や糖尿病罹病期間などが冠動脈病変の予測因子として有用であり、LDL-C/HDL-C比などは冠動脈不安定プラークの予測因子であった。
4)加齢と肥満関連疾患:高齢者女性においては筋肉量低下がメタボリックシンドロームの独立した危険因子であった。
5)予防法・新規治療法:T2DM発症におけるBMI25以上はBMI18.5-25の2.4倍であり、低アディポネクチン血症が糜爛性胃炎の独立した危険因子であった。尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)は肥満度に関わらず推定内臓脂肪量100cm2以上の群で有意に高かった。また、遺伝子導入ヒト脂肪細胞などによる新規治療の可能性が示唆された。
結論
日米越で急速に増加している肥満関連疾患の発症には栄養学的問題とともに遺伝学的な影響が大きく、国家的な予防対策が重要である。

公開日・更新日

公開日
2011-06-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-01-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201004005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ベトナムにおける肥満関連疾患に対する疫学調査と遺伝子学的検討、食事の質とインクレチン分泌、脂質と総死亡の関連、2型糖尿病における冠動脈疾患の危険因子、高齢者における筋肉量の低下とメタボリックシンドロームとの関連、尿アルブミン排泄量と内臓肥満との関連、遺伝子導入脂肪細胞移植による代謝性疾患に対する新規治療法の開発などの研究を行い、国際学会および国際雑誌に多数発表し、肥満関連疾患研究の発展および保健衛生施策に大きく寄与している。
臨床的観点からの成果
ベトナムにおける調査において、ベトナム人は2型糖尿病を発症しやすい民族である可能性があり、発症予防のためのBMIカットオフ値は23であることが明らかとなり、ベトナム国の保健衛生政策に貢献できた。日本人においては食事の質の違いでインクレチン分泌が違うこと明らかとなり、糖質や脂質の過剰摂取が問題であること、また、2型糖尿病における動脈硬化発症・進展の危険因子やメタボリックシンドロームの独立した危険因子を明らかにした。尿中アルブミン/クレアチニン比と推定内臓脂肪量との関連も明らかとなった。
ガイドライン等の開発
メタボリックシンドロームについてはまだ、各民族・国家により診断基準が異なっている。特に、アジア系民族は欧米とは肥満度において大きく異なり、意見の一致がみられていないのが実情である。本研究事業による、ベトナムを含めた東南アジアにおける疫学研究の成果は、この地域における診断基準設定に貢献することが期待される。
その他行政的観点からの成果
肥満関連疾患に対する施策は日本を含め世界中の多くの国における健康問題の中で最も重要な課題の一つである。日米におけるこれまでの疫学・臨床・基礎的研究の蓄積と、ベトナムにおける疫学研究によりこれらの地域の問題点が明らかとなった。特に、ベトナムでは本研究事業の成果がベトナム国家の保健衛生施策に大きく貢献し、多大な謝意が与えられた。
その他のインパクト
平成22年10月に群馬県前橋市での第31回日本肥満学会との共催により、日韓米シンポジウム「肥満の原因を探る」を開催し、日本から5名、米国から3名、韓国から2名の研究者が研究成果を発表した。同時に開催された本パネルのビジネスミーティングでは、今後はベトナム、韓国に加えて、より多くの東南アジア諸国との共同研究についても討論された。

発表件数

原著論文(和文)
37件
原著論文(英文等)
83件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
12件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
26件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
ベトナム国保健衛生施策
その他成果(普及・啓発活動)
1件
群馬県前橋市:日米合同会議(10月)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Binh P. N. T., Soda K, Murayama C, Kawakami M.
Relationship between food polyamines and gross domestic product in association with longevity in Asian countries
Health , 2 (12) , 1390-1396  (2010)
原著論文2
Binh P. N. T., Soda K, Kawakami M.
Gross domestic product and dietary pattern among 49 western countries with a focus on polyamine intake
Health , 2 (11) , 1327-1334  (2010)
原著論文3
Binh P. N. T., Kawakami M, Abe Y, Tamemoto H, et al.
Lack of an Association between the PPARG2 Pro12Ala Polymorphism and Glucose Intolerance in a Vietnamese Population
日本女子大学大学院紀要 , 17 , 49-57  (2011)
原著論文4
Aoyagi Y, Kuroda M, Asada S, Bujo H,et al.
Fibrin glue increases the cell survival and the transduced gene product secretion of the ceiling culture-derived adipocytes transplanted in mice
Exp. Mol. Med. , 43 , 161-167  (2011)
原著論文5
Kuroda M, Aoyagi Y, Asada S, Bujo H, et al.
Ceiling culture-derived proliferative adipocytes are a possible delivery vehicle for LCAT protein replacement therapy.
The Open Gene Ther. J. , 4 , 1-10  (2011)
原著論文6
Asada S, Kuroda M, Aoyagi Y, Bujo H, et al.
Disturbed apolipoproteinA-I containing lipoproteins in fish eye disease is improved by lecithin: cholesterol acyltransferase produced by the gene-transduced adipocytes
Mol. Genet. Metab. , 102 (2) , 229-231  (2011)
原著論文7
Matsuzawa Y .
Adiponectin: A Key Player in Obesity Related Disorders.
Curr Pharm Des. , 16 (17) , 1896-1901  (2010)
原著論文8
Matsuzawa Y.
Establishment of a concept of visceral fat syndrome and discovery of adiponectin.
Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. , 86 (2) , 131-141  (2010)
原著論文9
Watanabe S.
Changes in dietary habits in Japan- Background of Shokuiku and its promotion.
Clin Funct Nutr , 2 , 9-14  (2010)
原著論文10
Nomura K, Eto M, Kojima T, Ogawa S, et al.
Visceral fat accumulation and metabolic risk factor clustering in older adults.
J Am Geriatr Soc. , 58 (9) , 1658-1663  (2010)
原著論文11
Akishita M, Fukai S, Hashimoto M, Kameyama Y, et al.
Association of low testosterone with metabolic syndrome and its components in middle-aged Japanese men.
Hypertens Res. , 33 (6) , 587-591  (2010)
原著論文12
Fujita, Y., Hosokawa, M., Fujimoto, S., Mukai, E.,et al
Metformin suppresses hepatic gluconeogenesis and lowers fasting blood glucose levels through reactive nitrogen species.
Diabetologia , 53 , 1471-1481  (2010)
原著論文13
Nakamori M, Nguyen XN, Nguyen CK, Cao TH, et al.
Nutritional status, feeding practice and incidence of infectious diseases among children aged 6 to 18 months in northern mountainous Vietnam.
J Med Invest. , 57 (1) , 45-53  (2010)
原著論文14
Kodama S, Saito K, Tanaka S, Maki M, et al.
Cardiorespiratory fitness as a quantitative predictor of all-cause mortality and cardiovascular events in healthy men and women: a meta-analysis.
JAMA , 301 (19) , 2024-2035  (2009)
原著論文15
Sandoval JC, Nishida M, Yamashita S.et al. Sandoval JC, Nishida M, Yamashita S.et al.
Molecular Mechanisms of Ezetimibe-Induced Attenuation of Postprandial Hypertriglyceridemia.
J Atheroscler Thromb , 17 , 914-924  (2010)
原著論文16
Nakatsuji H, Kishida K, Funahashi T, Noguchi M, Ogawa T, Okauchi Y, et al.
One-year reductions in body weight and blood pressure, but not in visceral fat accumulation and adiponectin, improve urinary albumin-to-creatinine ratio in middle-aged Japanese men.
Diabetes Care , 33 , 110-111  (2010)
原著論文17
Tamba S, Nakatsuji H, Kishida K, Noguchi M, et al.
Relationship between visceral fat accumulation and urinary albumin-creatinine ratio in middle-aged Japanese men.
Atherosclerosis , 211 , 601-605  (2010)
原著論文18
Niwa Y, Ishikawa S, Gotho T, Kayaba K, et al.
Association Between Stroke and Metabolic Syndrome in a Japanese Popilation: Jichi Medical School(JMS)Cohort Study.
J Epidemiol , 20 (1) , 62-69  (2010)
原著論文19
Watanabe K, Okamoto F, Yokoo T, Iida KT, et al.
SPARC is a major secretory gene expressed and involved in the development of proliferative diabetic retinopathy.
J Atheroscler Thromb. , 16 (2) , 69-76  (2009)
原著論文20
Uurtuya, S., Kotani, K., Taniguchi, N., Yoshioka, H.,et al.
Comperative study of atherosclerotic parameters in Mongolian and Japanese Patients with Hypertension and diabetes mellitus.
J Atheroscler Thromb. , 17 (2) , 181-188  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201004005Z