多様化・ボーダーレス化する細菌性下痢症を阻止するためのフロンティア研究

文献情報

文献番号
201004001A
報告書区分
総括
研究課題名
多様化・ボーダーレス化する細菌性下痢症を阻止するためのフロンティア研究
課題番号
H22-国医・指定-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
西渕 光昭(京都大学 東南アジア研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 江崎 孝行(岐阜大学大学院 再生医科学専攻)
  • 飯田 哲也(大阪大学 微生物病研究所)
  • 甲斐 明美(東京都健康安全研究センター微生物部)
  • 山本 達男(新潟大学大学院医歯学総合研究科)
  • 渡辺 治雄(国立感染症研究所)
  • 山崎 伸二(大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科)
  • 藤井 潤(九州大学大学院医学研究院)
  • 野田 公俊(千葉大学大学院医学研究院)
  • 倉園 久生(帯広畜産大学畜産衛生学研究部門)
  • 大澤 朗(神戸大学大学院農学研究科)
  • 神谷 茂(杏林大学医学部感染症学)
  • 林 哲也(宮崎大学)
  • 辻 孝雄(藤田保健衛生大学 医学部)
  • 三澤 尚明(宮崎大学農学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(国際医学協力研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
13,889,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アジアで重要な腸管感染症原因細菌について、様々な専門分野のエキスパートが、感染症が多発する地域の最前線で現地の研究者とも協力して、多様化かつボーダーレス化する細菌性下痢症のそれぞれについて、現状と問題点の掌握(疫学・生態学)と環境・食品などの衛生規範の策定および輸入食品の安全性確保のために役立つ検査法の開発を目指した(検査法)。さらにこれらの感染症に対応できる最も効果的な治療法・予防法の確立に資する基礎研究(病原性メカニズム)を実施しつつ、基礎から応用へ向かう研究(治療法・予防法)も展開する。
研究方法
研究分担者がそれぞれの研究内容に関して専門性を生かし、あるいは研究協力者と役割を分担して、研究が遂行された。病原性細菌取扱いや組換DNA実験を含む解析は、規定や指針に従って実施した。動物実験や人体に由来するサンプルの取り扱いに関する倫理規定を遵守した。
結果と考察
1) 疫学・生態学:アジアで新型腸炎ビブリオおよび腸管出血性大腸菌(EHEC) O157が国境を越えて伝播された様式に関する仮説を提唱し、食品のサルモネラ菌、カンピロバクター、リステリア菌による予想外の汚染の実態を報告した。2) 検査法:下痢原生細菌の網羅的な遺伝子検査法、食品からのコレラ菌検出法、サルモネラ属菌のエンテロトキシンの迅速同定法、腸管出血性大腸菌およびEHEC大腸菌タイピングに関する研究に進展がみられた。3) 病原性メカニズム:赤痢菌、EHEC、ヘリコバクター・ピロリ、およびカンピロバクターに関して新たな知見が得られた。4) 治療法・予防法:腸炎ビブリオ3型分泌装置の発現制御機構が治療・予防に利用できる可能性および EHEC O157感染症の重症化要因が明らかにされた。新規コレラワクチンおよび毒素原性大腸菌の粘膜ワクチン開発に関する重要な情報が得られ、カンピロバクター菌用の新しい消毒剤が開発できた。5) 考察:研究分担者と現地研究者との国際協力体制がこれらの研究を可能にした。まだ情報は不足しているので、今後より多くの菌種および対象地域をカバーすることが必要である。
結論
総じて研究計画に沿って研究が進展し、かなり良い成果が得られている。今後もこれらの研究を軌道修正しながら展開したい。アジアでの共同研究の裾野を拡大するために、現地の研究者と連携体制ができている研究者を研究分担者に追加することを計画している。

公開日・更新日

公開日
2011-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201004001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1) 研究目的の成果:渡邊らは、赤痢菌の病原性メカニズムに関する研究で、新規細胞骨格蛋白として同定されているRodZについて、RodZが RNA結合蛋白質としてinvE遺伝子の転写後調節を介して病原性発現に関与していることを証明した。
(2) 研究成果の臨床的・国際的・社会的意義:本菌感染症の予防、治療のための創薬の開発の礎となるかも知れないと期待される。
臨床的観点からの成果
(1) 研究目的の成果:山本らは、ギラン・バレー症候群 (GBS) の原因としてのカンピロバクターの可能性を想定して、GBSに関連するカンピロバクターを解析した結果、鞭毛駆動部に新しい構造を発見した。また、非らせん型のカンピロバクターでもGBSに関与することが判明した。
(2) 研究成果の臨床的・国際的・社会的意義: 従って、らせん型の形態がGBS発症機構には関係ないことが明らかとなった。
ガイドライン等の開発
西渕は、第41回コーデックス食品衛生部会(CCFH)の要請でJEMRAが2010年9月13日 - 17日に開催したJOINT FAO/WHO EXPERT MEETING ON RISK ASSESSMENT TOOLS FOR VIBRIO PARAHAEMOLYTICUS AND VIBRIO VULNIFICUSでアジアで入手した臨床・環境データおよび新たな検査法に関する実験データを紹介し、魚介類中のビブリオの国際的衛生規範確立に資する提言をした。
その他行政的観点からの成果
藤井は、研究成果に基づいて、腸管出血性大腸菌を含む食品の安全性に関して啓蒙活動を続けている。これとの関連から、平成22年6月16日付で全国食品衛生主管課長連絡会議会から厚生労働省医薬食品局に対して、牛レバーなどの食肉の生食のリスクについて啓発がなされ、マスメディアに対しても安易な食肉の生食を促すようなことはやめ、正しい情報を十分周知する要望が出された。
その他のインパクト
藤井は、食の安全シンポジウム in 北九州において「食肉の生食の危険性を広く伝えることにより、腸管出血性大腸菌O157やカンピロバクターなどの細菌性食中毒の予防を考える」基調講演を平成23年1月26日に行った。
西渕は、第3回日本カンピロバクター研究会(平成22年12月3日、宮崎市)および公開国際シンポジウム「アジアにおける食品由来人獣共通感染症の現状と対策」(平成22年12月18日、藤沢市)での教育講演において、アジアの発展途上国における食の安全性の概念を紹介した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
53件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
52件
学会発表(国際学会等)
35件
その他成果(特許の出願)
2件
「食品用殺菌剤」国内特許査定(特願2010-544101)国際特許出願 (国際出願番号PTC/JP2010/060766)他1件
その他成果(特許の取得)
1件
食品用殺菌剤(特許第46816935) H23 2月10日 
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
6件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Pui, C. F., W. C. Wong, M. Nishibuchi, etal.
Multiplex PCR for the concurrent detection and differentiation of Salmonella spp., Salmonella Typhi and Salmonella Typhimurium
Trop. Med. Health , 39 (1) , 9-15  (2011)
原著論文2
Lesley, M. B., L. Velnetti, M. Nishibuchi, etal.
Antibiotic resistance and plasmid profiling of Vibrio parahaemolyticus isolated from cockles (Anadara granosa) at Tanjung Karang, Kuala Selangor
Int. Food Res. J. , 18 (3) , 1129-1134  (2011)
原著論文3
Yamamoto, S., M. Morita, H. Watanabe, etal.
Chitin disaccharide (GlcNAc)2 induces natural competence in Vibrio cholerae through transcriptional and translational activation of a positive regulatory gene tfoXVC
Gene , 457 , 42-49  (2010)
原著論文4
Yahiro, K., N. Morinaga, M. Noda, etal.
Subtilase cytotoxin induces apoptosis in HeLa cells by mitochondrial permeabilization via activation of Bax/Bak, independent of C/EBF-homologue protein (CHOP), Ire1alpha or JNK signaling
Microb. Pathog. , 49 , 153-163  (2010)
原著論文5
Tokunaga, A., H.Yamaguchi, R.Ohsawa,etal.
Novel PCR-based genotyping method, using genomic variability between repetitive sequences of toxigenic Vibrio cholerae O1 El Tor and O139
Molecular & Cellular Probes , 24 (2) , 99-103  (2010)
原著論文6
W. Samosornsuk, M. Asakura, E. Yoshida, et al.
Isolation and characterization of Campylobacter strains from diarrheal patients in Bangkok and its suburb in Thailand.
Jpn. J. Infect. Dis.  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
2015-06-05

収支報告書

文献番号
201004001Z