遺伝子治療薬の安全性確保基盤技術に関する研究

文献情報

文献番号
199700737A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子治療薬の安全性確保基盤技術に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
早川 堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 真弓忠範(大阪大学薬学部)
  • 中西真人(大阪大学微生物病研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は遺伝子治療の実用化と一層の進展に向け、より安全性の高い次世代遺伝子治療薬の開発に資する技術基盤の確立と安全性評価技術の開発に関する研究を行うことを目的とする。そのため、1)次世代ハイブリッドベクターの開発基盤研究、2)ミニ人工染色体(独立レプリコン)の開発に向けた基礎研究、3)導入遺伝子の核移行に関する研究、4)細胞質内での遺伝子発現系に関する研究、の各課題について検討を進め、これらを統合することにより遺伝子治療の安全性を確保する次世代ハイブリッド型遺伝子治療用ベクターの開発を目指す。また、関連する安全性等評価技術の開発を行う。
研究方法
1. 次世代ハイブリッドベクター開発基盤研究:アニオニックリポソームはPC : PA : Chol = 4 : 1: 5 (モル比)、カチオニックリポソームはジメチルアミノエタンカルバモイルコレステロール (DC-Chol) : DOPE : PC : Chol = 1 : 2.5 : 2.5 : 4 (モル比) で調製し、紫外線照射したセンダイウイルスと反応させることにより膜融合リポソームとした。膜融合リポソームの細胞傷害性はMTT assay により、遺伝子導入効率はルシフェラーゼ発現プラスミドを細胞に導入48時間後のルシフェラーゼ活性により測定した。膜融合リポソーム形成に関与するセンダイウイルス側の分子については、センダイウイルスをトリプシン、キモトリプシン、サーモライシン、V8プロテアーゼで処理し、ウイルスのノイラミニダーゼ活性や溶血活性、リポソームとの融合能、エンベロープ蛋白質であるF蛋白質、HN蛋白質の電気泳動像の変化を解析することにより検討した。膜融合リポソームによる物質導入の標的細胞特異性は、末梢血リンパ球より分画した単球、Bリンパ球、CD4+Tリンパ球、CD8+Tリンパ球、 CD4-/CD8-Tリンパ球をジフテリアトキシンフラグメントA封入膜融合リポソームと反応24時間後の生存率により検討した。膜融合リポソームと細胞の結合はカルセインを封入した膜融合リポソームと細胞を37℃で30分反応後、フローサイトメトリーにより評価した。
2. ミニ人工染色体(独立レプリコン)の開発に向けた基礎研究:500bpの人工テロメア配列とハイグロマイシンB耐性遺伝子を含むプラスミドpMYAC1を、末端にテロメア配列を持つ直鎖状DNAとした後、種々の細胞にエレクトロポレーション法で導入した。遺伝子が取り込まれた細胞を選択し、10日目にコロニーを単離、細胞を増殖させた後、DNAを抽出してサザンブロットによりpMYAC1導入部位の解析を行った。染色体末端であることを示すスメアなシグナルが得られたサンプルに関しては、さらにエキソヌクレアーゼBal31感受性試験によって染色体上での位置を確認した。テロメアシーディング活性は、pMYAC1挿入部位で染色体が切断され新しいテロメアができたクローン数の割合で求めた。テロメラーゼ活性は各細胞の核抽出液を用いてTatematsu らの方法で測定した。
3. 導入遺伝子の核移行に関する研究:核移行シグナルのスクリーニングは、種々の核移行シグナルペプチドを架橋試薬SMPBによりBSA, IgM, ラムダファージの各キャリアーに結合し、HEL細胞の細胞質にマイクロインジェクション後、間接蛍光抗体法で細胞内局在を検討した。核移行シグナルを付加したラムダファージはファージディスプレイ法により作製した。ラムダファージの核移行活性はHEL細胞にマイクロインジェクション後、抗ファージ抗体及びファージ粒子頭部Eタンパク質に対する特異抗体を用い、間接蛍光抗体法で検討した。DNAの局在はマイクロインジェクション後FISH法により検討した。
4. 細胞質内での遺伝子発現系に関する研究: T7 プロモーター制御T7 RNA発現プラスミド (pT7 AUTO-2) 、及びT7 プロモーターとターミネーターの間にピコナウイルス5'非翻訳領域のIRES (Internal Ribosomal Entry Site) 配列とレポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を連結させたプラスミドである pT7-IRES-L を調製した。
結果と考察
1. 次世代ハイブリッドベクター開発基盤研究:1)リポソームに不活化センダイウイルスを融合させた膜融合リポームについて、表面電荷と遺伝子導入効率、細胞傷害性との関係を検討した。 陽電荷脂質DC-Chol を導入したカチオニックリポソームはin vitroで細胞傷害性を示さず、従来のアニオニック膜融合リポソームよりも高い遺伝子発現を示し、in vivoを想定した血清存在下でも安全かつ効率の良い遺伝子発現が可能であった。今後カチオニック膜融合リポソームを最適化することで、より優れた遺伝子導入ベクターになり得ることが示された。また、in vivoへの直接遺伝子導入では、現時点ではアニオニック膜融合リポソームが最も優れていることが明らかとなった。2)膜融合リポソーム形成に関わるセンダイウイルス側の分子について検討した。センダイウイルス被膜上の2種の蛋白質のうち、HN蛋白質はリポソームとの融合には関与しておらず、F蛋白質のF1ドメインが重要な役割を担うという、細胞との融合の場合とは異なる機構で融合することが示唆された。3)膜融合リポソームによる物質導入の標的細胞特異性を解析し、血球系細胞では単球とCD4-/CD8- T細胞への物質導入が効率よく行われることが明らかとなった。また膜融合リポソームとの融合能の見られない細胞でも全て膜融合リポソームと結合することから、膜融合リポソームが細胞と融合するためには、細胞との結合に必要な因子とは別の細胞側の何らかの因子が関与している可能性が示唆された。
2. ミニ人工染色体(独立レプリコン)の開発に向けた基礎研究:染色体とは独立して安定に存在できる独立レプリコンの開発に向けた基礎研究として、核内でヒト染色体を安定にする因子の検索を行った。その結果、500bp以上のテロメア配列がヒト染色体を安定にする重要な因子であること、安定性を決める因子はテロメラーゼと無関係であることを明らかにした。また、動物細胞内での遺伝情報の安定性を迅速に測定するためのネガティブ・ポジティブ選択系の開発を進め、必要な遺伝子をすべて構築した。
3. 導入遺伝子の核移行に関する研究:導入遺伝子を高効率で核内に移行させるための技術に関する研究として、核移行シグナル(NLS)のスクリーニングを行い、強力なNLSペプチドを見出した。このNLSペプチドをファージ頭部粒子蛋白質との融合蛋白質として表面に発現させたラムダファージ(NLSファージ)を遺伝子組換え技術を用いて開発し、これを用いてDNAを核へターゲティングすることに成功した。
4. 細胞質内での遺伝子発現系に関する研究:細胞質内直接遺伝子発現システムは、核移行の必要がなく、遺伝子発現効率が細胞の増殖性・非増殖性に影響されないという利点を有するシステムである。本システム開発を目的に、T7プロモーター制御 T7 RNAポリメラーゼ発現プラスミド(pT7 AUTO2)、およびレポーター遺伝子として T7プロモーター制御 ルシフェラーゼ発現プラスミド(pT7-IRES-L)を構築した。
結論
1)膜融合リポソームの表面電荷と物質導入効率、安全性、生体内安定性などの相関より、カチオニックおよびアニオニック膜融合リポソームのそれぞれの有用性を示した。2)膜融合リポソーム形成にはセンダイウイルス被膜上のF蛋白質が関与していることが示唆された。3)膜融合リポソームによる物質導入の標的細胞特異性を解析し、血球系細胞では単球、CD4-/CD8- T細胞に効率よく物質導入できることを見出した。4)核内における遺伝情報の安定性に関する研究を行い、500bp以上のテロメア配列がヒト染色体を安定化している重要な因子であることを明らかにした。5)動物細胞で遺伝情報の安定性を迅速に測定するためのネガティブ・ポジティブ選択系の開発を進めた。6)核移行シグナルを賦与したラムダファージを遺伝子組換え技術を用いて開発し、これを用いてDNAを核へターゲティングすることに成功した。7)細胞質内で遺伝子発現が可能なT7プロモーター制御プラスミドを構築した。

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