百日咳とインフルエンザに関するサーベイランス手法及びワクチン効果の評価に資する研究

文献情報

文献番号
202418012A
報告書区分
総括
研究課題名
百日咳とインフルエンザに関するサーベイランス手法及びワクチン効果の評価に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23HA1006
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大塚 菜緒(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 塚田 敬子(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、百日咳の診断精度向上と公衆衛生対応の強化を主目的とし、基礎および疫学の両面からアプローチを行った。まず、百日咳様症状を呈する病原体(B. pertussis、B. parapertussis、B. holmesii、M. pneumoniae など)の同定に向け、感度の高い分子検査法を導入し、さらにマクロライド耐性株(MRBP)の出現状況を遺伝子変異の解析を通じて調査することを目的とした。これにより、流行株の動向を反映した治療方針やワクチン戦略の再構築に寄与する。また、疫学的には、リボテストの偽陽性例が百日咳届出に与える影響を評価し、診断法とサーベイランスの適正化を図る。加えて、乳児感染防止策として、①就学前児童への追加接種による感染ピーク年齢の変化と全体患者数への影響、②妊婦接種による母子免疫を介した0歳児の発症抑制効果を、数理モデルを用いて定量的に検証する。これらの分析を通じて、ワクチンを中心とした効果的な百日咳対策へ資することを目指す。さらに、季節性が不規則となった近年のインフルエンザ流行においても、ARIサーベイランスなどを活用し、迅速なワクチン有効性(VE)評価体制の確立も検討対象とする。これらの取り組みは、百日咳とインフルエンザ双方に対する包括的な予防接種戦略の構築に資することを目的としている。
研究方法
百日咳診断精度の向上を目的に、全国19医療機関から収集した疑い患者303例の検体に対して、4種類の病原体を同時検出する4Plex PCR法と、百日咳菌のマクロライド耐性関連遺伝子(23S rRNA A2047G)の解析を実施した。併せて、迅速抗原検査(リボテスト)とLAMP法の比較により、診断精度や偽陽性・偽陰性の要因を検討した。数理モデルでは、年齢依存型SVEIRモデルを用いて、就学前児童および妊婦への追加接種による感染動態への影響を評価し、国内調査による接触頻度データを接触行列として導入した。インフルエンザに関しては、test-negative design法と流行閾値に基づく手法を検討し、2025年度から開始されるARIサーベイランスを活用したVE評価体制の確立を目指した。
結果と考察
本研究は、百日咳の診断精度向上と公衆衛生対応強化を目的に、基礎および疫学的観点から多角的に評価を行った。2022年10月~2025年1月の調査で、全国19医療機関から得た百日咳疑い患者303検体に4Plex PCR法を実施した結果、2022~2023年にパラ百日咳菌の一過性流行を、2024年Q3以降にはマクロライド耐性百日咳菌(MRBP)の増加を検出した。百日咳菌(Bp)の検出率は7.9%にとどまり、非流行期における臨床診断の難しさが浮き彫りとなった。また、2024年に初めてマクロライド耐性Bp(MRBP)を検出し、国内流行株の約4割がMRBPに置き換わった可能性が示唆され、今後の拡大が懸念される。一方、LAMP法とリボテストの比較により、後者の偽陽性率が34.8%と高く、診断精度に課題があることが明らかとなった。特に抗菌薬投与歴、年齢、ワクチン接種歴などが偽陽性に関連していた。さらに、SVEIRおよび変形SEIRモデルを用いて、就学前児童および妊婦への百日咳ワクチン追加接種の効果を評価した結果、就学前児童接種では感染者全体が38%減少し、感染年齢の上昇も確認されたが、0歳児への影響は限定的であった。一方、妊婦接種では0歳児報告数が最大38%減少する効果が示され、特に生後4か月未満の乳児に対する予防効果が期待された。インフルエンザについては、ARIサーベイランスを活用したVE(ワクチン有効性)評価体制の構築可能性を検討した。特に病原体情報に基づくサーベイランスとTND(Test-Negative Design)手法の組み合わせにより、季節性や地域特性に応じた柔軟かつ恒常的なVE評価の実施が可能になると期待される。
結論
本研究は、百日咳に対する診断技術と予防戦略を多面的に再評価し、サーベイランス体制の高度化と科学的根拠に基づくワクチン政策の最適化を目指したものである。類炎菌や耐性株を含んだ発生動向を可視化し、迅速検査の限界と検査前因子の影響も明らかにした。追加接種に関する数理モデルでは、就学前児童への接種により全体の患者数が約4割減少し、感染ピークが3年後に遅延するが、0歳児への影響は限定的であった。一方、妊婦への接種では0歳児の報告数を27~38%減少させる効果が示された。今後は両者を組み合わせた包括的戦略が望まれる。インフルエンザVE観測にはARIサーベイランスの活用が有望であると考えられ、今後の呼吸器感染症対策全体への応用が視野に入る。

公開日・更新日

公開日
2025-10-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-10-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
202418012Z