強度行動障害のある人の豊かな地域生活を実現する「地域共生モデル」の理論の構築と重層的な支援手法の開発のための研究

文献情報

文献番号
202417037A
報告書区分
総括
研究課題名
強度行動障害のある人の豊かな地域生活を実現する「地域共生モデル」の理論の構築と重層的な支援手法の開発のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23GC1007
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
野澤 和弘(植草学園大学 発達教育学部発達支援教育学科)
研究分担者(所属機関)
  • 内山 登紀夫(福島学院大学 福祉学部)
  • 八木 淳子(岩手医科大学医学部 神経精神科学講座)
  • 田中 義之(東京大学 大学院工学系研究科附属キャンパス・マネジメント研究センター)
  • 鈴木 さとみ(福島学院大学 福島こどもと親のメンタルヘルス情報・支援センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
8,316,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

概要版(繰越課題)
研究目的:強度行動障害があっても地域社会に関わりながら豊かな生活を実現するための理論の構築を目指す。
家族や支援者の意識変容によって行動障害の予防や悪化の回避を図る「シナジー・プログラム」,トラウマインフォームドアプローチによる強度行動障害支援の指針策定、日中活動の環境の研究などによって行動障害の予防や軽減を図る。国が制度化した「集中的支援」「中核人材の育成」は、行動障害が激しい「急性期」への対応として重要だが、本研究は「予防」「慢性期」の支援を軸としている。四つの研究の連携によって重層的な支援手法の開発を目指す。
研究方法:本研究は①地域共生モデル、②シナジー・プログラム、③トラウマ研究、④日中活動・街の環境という四つの研究項目で構成される。
①「地域共生モデル」の令和6年度の研究は、強度行動障害の利用者を支援している全国の施設・事業所に対してアンケート調査を実施した。
②「シナジー・プログラム」は英国でプログラムの開発者による研修を受講し、日本での適用などに関してインタビューした。
③「トラウマ研究」は行動障害児・者の養護者へのトラウマ/小児期逆境体験(ACEs)に関するインタビュー調査、支援者へのインタビュー調査を実施した。
④「日中活動・街の環境」は前年度に実施した日中活動の場の調査の分析を引き続き行った。
結果と考察:①地域共生モデルの全国アンケートでは、強度行動障害の利用者の処遇状況、支援スタッフの意識、法人や施設に必要なことなどを質問し、計2164件の回答を得た。現場での支援は「静かで刺激の少ない環境の提供」「マンツーマンの支援」が多く、応用行動分析やTEACCHプログラムなど専門的な支援は少なかった。支援者の意識では「学びがたくさんある」「なんとか改善したい」が9割を超えたが、「できればかかわりたくない」「福祉の支援では無理」も2割前後あり、「地域での生活はすべきではない」も12%あった。その一方、「強度行動障害の世界を豊かだと思う」、強度行動障害の人を支援するのは「かっこいい仕事だと思う」という顕著にポジティブな回答も少なからずあった。
②「シナジー・プログラム」の英国での研修では、同プログラムが日本の支援現場での実践的課題に対応しうるものであり、支援者自身のレジリエンスを高める手法として、理論的および倫理的に妥当性を有していることが確認された。また、日本において同プログラムを実施するための許諾を得た。
③「トラウマ研究」の支援者・養護者のナラティブを質的に分析した結果、トラウマの知識や情報が少なく理解が不十分な場合、家族は子どもの行動障害について「自責感」を、支援者は「疲労感」を抱きやすい傾向があることが窺えた。支援に熱心に取り組み、成果を上げている施設・支援者においてもマインドセットや並行プロセスに関する情報が少ないことが浮き彫りとなった。
④「日中活動・街の環境」は、利用者の個性にあわせて環境をつくり、利用者の変化に応じて環境を調整するという循環においては、自前で手入れし続けられることの重要性がわかってきた。課題に対し時間をかけずに自前で対応し、効果を検証しながら環境を調整する動的な応答の必要性が浮かび上がった。
結論:入所施設等では<支援者-障害者>の2者だが,地域では<支援者-地域住民-障害者>の3者が互いに影響し合う。地域住民の障害に対する意識がポジティブであれば,本人の自己有用感が高まり,支援者や家族もポジティブになるという相乗効果を生む。地域では住民とのトラブルや偏見もあり、矢面に立つのは支援スタッフだ。全国アンケートで「かっこいい仕事だと思う」との回答はプライドや支援者の自己肯定感を示すものであり、彼らが法人に求めるのは、「年齢や経験に関係なく自由に意見が言える職場の雰囲気」「声かけ、会話、コミュニケーションを重視する」だった。失敗を恐れず、風通しのよい雰囲気などの重要性を示唆している。「シナジー・プログラム」は支援者の思考、信念、ストレスが感情や行動に与える影響の理解に重点を置く。支援者のレジリエンスを高め、ストレス軽減に有効で、組織文化のポジティブな変化も確認されている。地域共生モデルには不可欠なプログラムである。
行動障害のトラウマ反応としての側面をアセスメントし、支援者や介護者が受ける影響について理解し、トラウマインフォームドの視点を加えることは、支援者や養護者のマインドセットの変容に寄与するものと期待される。当事者・家族・支援者のメンタルヘルスの維持・向上やウェルビーイングと言う観点からも、地域共生モデルに重要だ。
日中活動の場や街の環境は支援者や支援の在り方にも様々な影響を及ぼしている。利用者が環境に合わせるのではなく、自分に合った環境に移動することも有効と思われる。地域共生モデルの土台や背景とも言える。

公開日・更新日

公開日
2025-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
202417037Z