文献情報
文献番号
199700732A
報告書区分
総括
研究課題名
アデノ随伴ウイルスRep蛋白質の機能とベクターの安全性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
神田 忠仁(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
AAVベクターによる遺伝子導入は、ヒト細胞19番染色体の特定の領域に外来遺伝子を組み込み、長期間安定に発現させることができると期待されている。このようなAAVベクターの特長は、ウイルスのRep蛋白質群の機能に依存している。本研究は、Rep蛋白質の機能を詳細に解析し、ベクターに安全に利用する方法を開発することが主要な目的である。同時に、AAVベクターと患者体内に潜伏感染している野生型AAVとの組み換えによる新たなウイルス出現の可能性や、我が国におけるAAV感染の実態を血清疫学で検討し、AAVベクターの安全性をどのように確保するかを検討するためのに必要な基礎的研究をおこなう。
研究方法
AAV2型(AAV2)ゲノムDNAは2本鎖プラスミドDNAとしてATCC(American Type Culture Collection)から購入した(ATCC#37215)。ウイルス蛋白質をマルトース結合蛋白質との融合蛋白質として大腸菌で発現させ、カラムクロマトグラフィで精製後、免疫やELISAの抗原とした。アデノウイルスは5型を使った。AAV2ゲノムへの変異導入は、塩基置換を含むプライマーをでPCR反応を行い、増幅されたDNA断片をゲノムの該当する領域と入れ換える方法を用いた。
結果と考察
我々は、遺伝子導入ベクターとして優れた性質を持つAAV2に注目し、新たに研究を始めた。従って、今年度は高純度のウイルス標品や抗AAV2抗血清の作製、AAV2を検出、定量する標準的な方法の確立等、来年度以降の研究に必要な材料を整備した。
ATCCより購入したAAV2の全塩基配列を調べたところ、GeneBankにAAV2ゲノムとして登録されている塩基配列(4675塩基長)とは、12カ所で異なっていた。G(370)がA、C(2878)がG、A(3854)がG、G(3893)がA、A(3895)がG、C(4337)がT、T(4343)がCに換わり、3761の後ろにGCCCGG、4334の後ろにTの挿入があり、T(2429)、C(4228)及びC(4236)が無かった。その結果、Rep78、68蛋白質の17番目のグリシンはグルタミン酸となり、Cap蛋白質のC-末端側が27アミノ酸残基長く、その27アミノ酸残基を含めてC-末端側59アミノ酸残基が、登録されているものと異なっていた。このAAV2DNAを導入したHeLa細胞にアデノウイルスを感染させ、60時間後に核抽出液を塩化セシウム密度平衡遠心で分画し、電子顕微鏡で観察したところ、密度1.41g/mlの分画に正二十面体のAAVウイルス粒子が観察された。従って、購入したAAV2ゲノムは感染性ウイルスを作れると判定し、これを以降の研究の標準ウイルスゲノムとした。
Rep遺伝子は内部プロモーターの利用やスプライシングの有無により4つの蛋白質(Rep78、68、52、及び40)が作られるが、各々の蛋白質に固有の機能は不明な点が多い。そこで、内部プロモーターのTATA-boxやスプライシングドナー配列に、アミノ酸配列に変異が起こらないよう配慮して塩基置換変異を導入し、これらの蛋白質を単独でのみ発現する4つの変異遺伝子を作製した。Rep78、68はSV40、CMVやヒトe4AIプロモーターからのレポーター遺伝子の発現を抑制する機能を持っていた。Rep-52、-40にこの機能は認められなかった。Rep78、68のこの活性は細胞毒性を示すと予想され、Rep蛋白質の機能を利用して19番染色体に遺伝子を組み込むAAVベクターの開発を行うには、どのような分子機構で遺伝子発現の抑制が起こるのか明らかにし、安全性の確保を図らなければならない。
酵母two-hybrid系で、Rep蛋白質と複合体を形成する細胞蛋白質を探索し、Rep78、68蛋白質はカルシウムイオン存在下でカルモジュリンと結合することを見いだした。Rep蛋白質はAAVゲノムを細胞DNAに組み込む反応に必要な非構造蛋白質で、ヘリカーゼ活性、ATPase活性、配列特異的なエンドヌクレアーゼ活性等を持ち、ウイルスの潜伏や増殖の各段階で必要な機能を発揮するものと考えられる。この様な複雑な機能がカルモジュリンとの結合で制御されている可能性がある。
AAVが組み込まれるとされる19番染色体長腕の一部(AAVS1)をヒト初代線維芽細胞から新たにクローニングした。塩基配列を調べたところ、報告されているものと一部が異なっていた。
ベータガラクシドダーゼ遺伝子を欠損させたマウスはGM1ガングリオシドーシスのモデルとなる。このモデルマウスをAAVベクターを利用した遺伝子導入によって治療することをめざしている。今年度はベータガラクシドダーゼ遺伝子を組み込んだAAVベクターを作製した。このベクターを用いて遺伝子導入された培養細胞は、継代後も安定に遺伝子を発現していた。ベータガラクシドダーゼ遺伝子欠損マウス脳内に、ベータガラクシドダーゼ遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターを接種する遺伝子治療の試みは、一過性の導入遺伝子発現が起こるのみで、治療効果は確認できていない。ベータガラクシドダーゼ遺伝子を細胞染色体に組み込むことができるAAVベクターが有利であると考えられ、来年度に行う予定のモデルマウスへの治療実験に興味が持たれる。
AAVキャプシド蛋白質を抗原としてヒト血清中の抗AAV抗体を測定するELISA系を作った。今後、この系を使って我が国のAAV感染の実態を血清疫学によって解析できる。病原性が無いとされるAAV2のゲノムDNAが、早期自然流産の子宮内残留物に見つかるとする報告があり、性器に感染するヘルペスウイルスやパピローマウイルスがヘルパーとなることから、AAV2の潜在的な病原性について再検討する必要があろう。AAVベクターは野生型AAV及びヘルパーウイルスと共存すればレスキューされる可能性があり、こうした観点からも、AAV2がヒト集団の中でどのように保持され、どのように伝搬するのかを明らかにすることが重要である。
ATCCより購入したAAV2の全塩基配列を調べたところ、GeneBankにAAV2ゲノムとして登録されている塩基配列(4675塩基長)とは、12カ所で異なっていた。G(370)がA、C(2878)がG、A(3854)がG、G(3893)がA、A(3895)がG、C(4337)がT、T(4343)がCに換わり、3761の後ろにGCCCGG、4334の後ろにTの挿入があり、T(2429)、C(4228)及びC(4236)が無かった。その結果、Rep78、68蛋白質の17番目のグリシンはグルタミン酸となり、Cap蛋白質のC-末端側が27アミノ酸残基長く、その27アミノ酸残基を含めてC-末端側59アミノ酸残基が、登録されているものと異なっていた。このAAV2DNAを導入したHeLa細胞にアデノウイルスを感染させ、60時間後に核抽出液を塩化セシウム密度平衡遠心で分画し、電子顕微鏡で観察したところ、密度1.41g/mlの分画に正二十面体のAAVウイルス粒子が観察された。従って、購入したAAV2ゲノムは感染性ウイルスを作れると判定し、これを以降の研究の標準ウイルスゲノムとした。
Rep遺伝子は内部プロモーターの利用やスプライシングの有無により4つの蛋白質(Rep78、68、52、及び40)が作られるが、各々の蛋白質に固有の機能は不明な点が多い。そこで、内部プロモーターのTATA-boxやスプライシングドナー配列に、アミノ酸配列に変異が起こらないよう配慮して塩基置換変異を導入し、これらの蛋白質を単独でのみ発現する4つの変異遺伝子を作製した。Rep78、68はSV40、CMVやヒトe4AIプロモーターからのレポーター遺伝子の発現を抑制する機能を持っていた。Rep-52、-40にこの機能は認められなかった。Rep78、68のこの活性は細胞毒性を示すと予想され、Rep蛋白質の機能を利用して19番染色体に遺伝子を組み込むAAVベクターの開発を行うには、どのような分子機構で遺伝子発現の抑制が起こるのか明らかにし、安全性の確保を図らなければならない。
酵母two-hybrid系で、Rep蛋白質と複合体を形成する細胞蛋白質を探索し、Rep78、68蛋白質はカルシウムイオン存在下でカルモジュリンと結合することを見いだした。Rep蛋白質はAAVゲノムを細胞DNAに組み込む反応に必要な非構造蛋白質で、ヘリカーゼ活性、ATPase活性、配列特異的なエンドヌクレアーゼ活性等を持ち、ウイルスの潜伏や増殖の各段階で必要な機能を発揮するものと考えられる。この様な複雑な機能がカルモジュリンとの結合で制御されている可能性がある。
AAVが組み込まれるとされる19番染色体長腕の一部(AAVS1)をヒト初代線維芽細胞から新たにクローニングした。塩基配列を調べたところ、報告されているものと一部が異なっていた。
ベータガラクシドダーゼ遺伝子を欠損させたマウスはGM1ガングリオシドーシスのモデルとなる。このモデルマウスをAAVベクターを利用した遺伝子導入によって治療することをめざしている。今年度はベータガラクシドダーゼ遺伝子を組み込んだAAVベクターを作製した。このベクターを用いて遺伝子導入された培養細胞は、継代後も安定に遺伝子を発現していた。ベータガラクシドダーゼ遺伝子欠損マウス脳内に、ベータガラクシドダーゼ遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターを接種する遺伝子治療の試みは、一過性の導入遺伝子発現が起こるのみで、治療効果は確認できていない。ベータガラクシドダーゼ遺伝子を細胞染色体に組み込むことができるAAVベクターが有利であると考えられ、来年度に行う予定のモデルマウスへの治療実験に興味が持たれる。
AAVキャプシド蛋白質を抗原としてヒト血清中の抗AAV抗体を測定するELISA系を作った。今後、この系を使って我が国のAAV感染の実態を血清疫学によって解析できる。病原性が無いとされるAAV2のゲノムDNAが、早期自然流産の子宮内残留物に見つかるとする報告があり、性器に感染するヘルペスウイルスやパピローマウイルスがヘルパーとなることから、AAV2の潜在的な病原性について再検討する必要があろう。AAVベクターは野生型AAV及びヘルパーウイルスと共存すればレスキューされる可能性があり、こうした観点からも、AAV2がヒト集団の中でどのように保持され、どのように伝搬するのかを明らかにすることが重要である。
結論
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの安全性確保と新たなベクターの開発を目的として、今年度からAAV2Rep蛋白質機能の解析やAAV感染の血清疫学を始めた。高純度のウイルス標品や抗AAVRep及びCap抗血清を作製し、AAVの検出と感染価の測定系、AAVRep蛋白質の検出系、及びヒト血清中の抗AAV抗体の測定系を確立した。Rep遺伝子から作られる4種の蛋白質(Rep-78、-68、-52、及び-40)を単独で発現する4つの変異遺伝子を作製し、各々の機能を独立に調べられる系を作った。Rep蛋白質はカルシウムイオン存在下でカルモジュリンと結合することを見いだした。AAVが組み込まれるとされる19番染色体長腕の一部(AAVS1)をヒト初代線維芽細胞から新たにクローニングし、塩基配列を調べた。GM1ガングリオシドーシスマウスの遺伝子治療への応用を目的にベータガラクトシダーゼ遺伝子を組み込んだAAVベクターを作製した。このベクターによって、遺伝子を細胞DNAに組み込み、安定に発現させることができた。これらの実験材料は全て来年度以降の研究に不可欠なものである。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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