文献情報
文献番号
202417012A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を推進する政策研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22GC2003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
- 野口 正行(岡山県精神保健福祉センター)
- 来住 由樹(岡山県精神科医療センター)
- 椎名 明大(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
- 佐竹 直子(独立行政法人 国立国際医療研究センター 国府台病院)
- 杉山 直也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
29,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を推進するうえで必要な精神保健医療福祉サービスのあり方について、エビデンスに基づく具体的かつ実現可能な政策提言を行うことである。
研究方法
精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(「にも包括」)の構築推進に関する課題について、以下の分担班で課題の検討状況を共有しつつ、調査研究を実施した。
自治体における包括的ケアの推進に関する研究(野口正行)
地域における精神科医療機関の役割に関する研究(来住由樹)
地域における危機介入のあり方に関する研究(椎名明大)
総合病院精神科の機能に関する研究(佐竹直子)
精神科救急医療体制に関する研究(杉山直也)
精神障害者の権利擁護に関する研究(藤井千代)
自治体における包括的ケアの推進に関する研究(野口正行)
地域における精神科医療機関の役割に関する研究(来住由樹)
地域における危機介入のあり方に関する研究(椎名明大)
総合病院精神科の機能に関する研究(佐竹直子)
精神科救急医療体制に関する研究(杉山直也)
精神障害者の権利擁護に関する研究(藤井千代)
結果と考察
本研究では、「にも包括」構築のための多様な課題とその対応策を明らかにするため、各班が異なる観点から調査研究を行った。野口班では、市町村の精神保健相談体制強化に向けて、法改正を踏まえた現状と課題を明らかにした。全国調査の結果、市町村には人員配置や都道府県からの支援体制に課題があることが示され、精神保健福祉相談員の育成に向けてe-learningを用いた講習資料を開発した。今後は、実地の事例検討やOJT等を含む中長期的な育成体制の構築が求められる。来住班では、精神科病院と診療所の診療機能と地域連携の実態を調査し、「にも包括」に資する医療機関の要件を具体化した。地ケア病棟では、重度・長期入院者への支援ニーズに対応する多職種連携と退院後の継続支援の重要性が示された。精神科診療所では、タスクシフトやコメディカルの活用により、初診受け入れや地域貢献が促進されていた。多職種配置により、患者の多様なニーズに柔軟に対応できるよう制度の見直しを検討することが望まれる。椎名班では、措置診察の適正化と均てん化に向けて、全国の精神保健指定医への調査を実施し、措置判断に必要な知識・手順についてのエキスパートコンセンサスを整理した。また、若手医師を対象とした研修では、標準化された教材と演習の併用により、措置診察に対する理解と自信の向上が確認され、人材育成の有効な方策が示された。佐竹班は、総合病院精神科の機能を再評価し、身体合併症や緊急対応への対応力を活かした地域連携の実態を分析した。精神疾患を有する入院患者の背景には多様な医療・福祉課題があり、身体診療部門との連携を前提とした総合病院精神科の役割は、地域包括ケアの一翼を担うものとして再評価されるべきである。杉山班は、精神科救急体制の現状と課題を整理し、地域によって輪番制や高規格病棟の運用状況が異なる実態を明らかにした。限られた医療資源のなかで夜間・休日の対応や警察との連携体制の構築は喫緊の課題であり、救急機能の地域間格差を是正する制度的整備が求められる。また、全国調査とエキスパートコンセンサスの結果を踏まえて、高規格病棟の必要性を評価するための基準項目が提案された。藤井班は、精神保健福祉法改正により新設された「入院者訪問支援事業」の訪問支援員養成のための研修のあり方を検討し、動画および対面の演習から構成される研修プログラムを開発した。また、支援員が継続的に学び合い、実践を省察できるよう、フォローアップの仕組みづくりの必要性も提起された。精神医療審査会に関するモニタリングの結果からは、委員の構成・確保、請求審査の実施状況、審査基準の地域差など、制度的実効性を左右する課題が複数明らかとなった。
結論
「にも包括」の構築には、保健・医療・福祉等の有機的連携と、実践に即した制度設計が不可欠である。本研究は、地域の医療機関、自治体、支援人材の役割といった課題を多面的に検討し、制度・実践・人材育成の接続点を可視化した。今後は、現場知と制度の橋渡しを担う支援者の育成と、それを支える制度の整備が求められる。ただし、「にも包括」の理念の定着と推進には、形式的な制度整備にとどまらず、現場に即した実践知の蓄積と政策への還元が重要である。各班の成果を通じて、現行制度の限界とともに、柔軟で包括的な支援のあり方が示唆されており、今後の政策立案に資する実証的な基盤が構築されたといえる。
公開日・更新日
公開日
2025-07-29
更新日
-