地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制における入院医療による支援のための研究

文献情報

文献番号
202417009A
報告書区分
総括
研究課題名
地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制における入院医療による支援のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23GC1017
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
村井 俊哉(国立大学法人 京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 笠井 清登(東京大学 医学部付属病院)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 柑本 美和(東海大学 法学部)
  • 櫛原 克哉(東京通信大学 情報マネジメント学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
12,588,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、本人の同意がない入院の実態とその課題を把握し、法学・社会学的な観点から同意のない入院に関する法整備の歴史や本邦の文化的背景について検討することにより、精神科における入院制度のさらなる適正化を図るための基礎資料を提供すること目的としている。
研究方法
上記の目的のため、本研究班は下記の3つの分担班を組織した。
①非自発的入院に関する実態調査(研究分担者:藤井千代)
②非自発的入院に関する法学的検討(研究分担者:柑本美和)
③非自発的入院に関する社会学的検討(研究分担者:櫛原克哉)
①では、全国の精神保健医療福祉職を対象としたアンケート調査を実施し、非自発的入院に関する現場実務の実態と制度運用上の課題を定量的に把握した。制度の国際比較として、欧州・北米・アジア計6か国において精神科医へのインタビュー調査を行い、入院判断や意思決定支援等に関する臨床実務における運用状況を調査した。さらに、医療保護入院に関係する判例分析を通じて、制度運用上の論点を整理した。②では、法制度の変遷と現行法の構造的特徴を整理し、関連する民法・医療法等との接続可能性を含めた法的枠組みを検討した。さらに、ドイツ・フランス・イギリス・韓国・台湾の法制度との比較法的検討を行い、本人の権利と支援のバランスをいかに制度設計に反映させるかについて分析を行った。③では、非自発的入院を経験した当事者およびその家族への半構造化インタビューを実施し、入院に至る経緯や処遇の受け止め、退院後の生活への影響について、社会的背景も含めた質的分析を行った。また、特定の語りに偏らないよう、地域的・属性的に多様なサンプルへのアクセスを工夫し、当事者の語りが持つ制度的含意を社会学的視点から検討した。
結果と考察
①では、全国の精神保健指定医、看護師、精神保健福祉士、自治体職員を対象に実施したアンケート調査(有効回答数1341件)により、現行制度の運用上の課題が多数抽出された。特に本人の同意能力の判断困難、家族等同意の不確実性、身体疾患の治療と精神科制度の接続困難、退院支援の限界、行政措置の判断基準の不明確さなどが挙げられた。また、入院判断が医療的必要性だけでなく、地域資源の不足や家族の疲弊など非医療的要因に強く影響されている実態が明らかとなり、制度の運用において現場の社会的文脈が大きく作用していることが示された。さらに、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、韓国、台湾の6か国の精神科医へのインタビュー調査では、第三者による関与(司法審査・行政機関など)や意思決定支援の制度化、事前選択文書(Advance Directives)の活用など、本人の権利保障に向けた多様な制度的工夫が確認された。制度上の関与者を多様化し、本人の意思や価値観をできる限り尊重する仕組みづくりが各国で模索されていた。②では、令和4年改正法の立法経緯を整理しつつ、精神医療審査会等のセーフガードが実効的に機能していない現状や、家族に過度な責任を負わせる制度構造、意思表示が困難な本人のニーズが十分に把握・反映されていない点など、日本の制度が抱える構造的課題を明確化した。特に、本人の法的代理や支援に関する制度が脆弱であることが、判断能力の低下時における適切な意思決定支援の欠如につながっていると指摘された。諸外国の制度比較では、フランスの行政主導型入院制度や、イギリスのAdvance Choice Documentsの普及など、手続きの正当性を担保しつつ、本人の価値観を事前に反映させる仕組みの整備が進んでいる点が注目された。③による当事者・家族へのインタビューでは、「他に選択肢がなかった」「やむをえなかった」といった語りが多く聞かれ、制度として非自発的入院が「最後の手段」というより、実質的な「唯一の選択肢」と認識されている状況が認められた。また、入院中の説明不足や処遇への不信感、身体拘束等への疑問、家族との関係性の緊張、退院後支援の乏しさなど、入院の前後を通じた包括的な支援の必要性が示された。さらに、地域や施設によって処遇内容や支援の質にばらつきがあり、これにより個人の経験が大きく影響を受けることが示唆された。これらの結果は、社会的背景や支援体制の整備状況も考慮した制度の多角的な見直しの必要性を示唆している。
結論
本研究により、非自発的入院制度の制度設計・運用実態・社会的影響に関する多面的な課題が明らかとなった。特に、本人の権利を尊重しながら必要な支援を提供する制度設計には、医療・福祉・司法の枠を超えた総合的な改革が求められることが示された。家族への依存構造や地域資源の乏しさといった背景要因も、制度改革と並行して取り組むべき重要な論点である。本研究の成果は、精神保健福祉法附則第3条に基づく制度見直しに資する基礎資料となり、今後の制度設計に活用されることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2025-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-08-13
更新日
-

文献情報

文献番号
202417009B
報告書区分
総合
研究課題名
地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制における入院医療による支援のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23GC1017
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
村井 俊哉(国立大学法人 京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 笠井 清登(東京大学 医学部付属病院)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 柑本 美和(東海大学 法学部)
  • 櫛原 克哉(東京通信大学 情報マネジメント学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、本人の同意がない入院の実態とその課題を把握し、法学・社会学的な観点から同意のない入院に関する法整備の歴史や本邦の文化的背景について検討することにより、精神科における入院制度のさらなる適正化を図るための基礎資料を提供すること目的としている。
研究方法
上記の目的のため、本研究班は下記の3つの分担班を組織した。
①非自発的入院に関する実態調査(研究分担者:藤井千代)
②非自発的入院に関する法学的検討(研究分担者:柑本美和)
③非自発的入院に関する社会学的検討(研究分担者:櫛原克哉)
①では、全国の精神保健医療福祉職を対象としたアンケート調査を実施し、非自発的入院に関する現場実務の実態と制度運用上の課題を定量的に把握した。制度の国際比較として、欧州・北米・アジア計6か国において精神科医へのインタビュー調査を行い、入院判断や意思決定支援等に関する臨床実務における運用状況を調査した。さらに、医療保護入院に関係する判例分析を通じて、制度運用上の論点を整理した。②では、法制度の変遷と現行法の構造的特徴を整理し、関連する民法・医療法等との接続可能性を含めた法的枠組みを検討した。さらに、ドイツ・フランス・イギリス・韓国・台湾の法制度との比較法的検討を行い、本人の権利と支援のバランスをいかに制度設計に反映させるかについて分析を行った。③では、非自発的入院を経験した当事者およびその家族への半構造化インタビューを実施し、入院に至る経緯や処遇の受け止め、退院後の生活への影響について、社会的背景も含めた質的分析を行った。また、特定の語りに偏らないよう、地域的・属性的に多様なサンプルへのアクセスを工夫し、当事者の語りが持つ制度的含意を社会学的視点から検討した。
結果と考察
①では、全国の精神保健指定医、看護師、精神保健福祉士、自治体職員を対象に実施したアンケート調査(有効回答数1341件)により、現行制度の運用上の課題が多数抽出された。特に本人の同意能力の判断困難、家族等同意の不確実性、身体疾患の治療と精神科制度の接続困難、退院支援の限界、行政措置の判断基準の不明確さなどが挙げられた。また、入院判断が医療的必要性だけでなく、地域資源の不足や家族の疲弊など非医療的要因に強く影響されている実態が明らかとなり、制度の運用において現場の社会的文脈が大きく作用していることが示された。さらに、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、韓国、台湾の6か国の精神科医へのインタビュー調査では、第三者による関与(司法審査・行政機関など)や意思決定支援の制度化、事前選択文書(Advance Directives)の活用など、本人の権利保障に向けた多様な制度的工夫が確認された。制度上の関与者を多様化し、本人の意思や価値観をできる限り尊重する仕組みづくりが各国で模索されていた。②では、令和4年改正法の立法経緯を整理しつつ、精神医療審査会等のセーフガードが実効的に機能していない現状や、家族に過度な責任を負わせる制度構造、意思表示が困難な本人のニーズが十分に把握・反映されていない点など、日本の制度が抱える構造的課題を明確化した。特に、本人の法的代理や支援に関する制度が脆弱であることが、判断能力の低下時における適切な意思決定支援の欠如につながっていると指摘された。諸外国の制度比較では、フランスの行政主導型入院制度や、イギリスのAdvance Choice Documentsの普及など、手続きの正当性を担保しつつ、本人の価値観を事前に反映させる仕組みの整備が進んでいる点が注目された。③による当事者・家族へのインタビューでは、「他に選択肢がなかった」「やむをえなかった」といった語りが多く聞かれ、制度として非自発的入院が「最後の手段」というより、実質的な「唯一の選択肢」と認識されている状況が認められた。また、入院中の説明不足や処遇への不信感、身体拘束等への疑問、家族との関係性の緊張、退院後支援の乏しさなど、入院の前後を通じた包括的な支援の必要性が示された。さらに、地域や施設によって処遇内容や支援の質にばらつきがあり、これにより個人の経験が大きく影響を受けることが示唆された。これらの結果は、社会的背景や支援体制の整備状況も考慮した制度の多角的な見直しの必要性を示唆している。
結論
本研究により、非自発的入院制度の制度設計・運用実態・社会的影響に関する多面的な課題が明らかとなった。特に、本人の権利を尊重しながら必要な支援を提供する制度設計には、医療・福祉・司法の枠を超えた総合的な改革が求められることが示された。家族への依存構造や地域資源の乏しさといった背景要因も、制度改革と並行して取り組むべき重要な論点である。本研究の成果は、精神保健福祉法附則第3条に基づく制度見直しに資する基礎資料となり、今後の制度設計に活用されることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2025-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-08-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202417009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1) 研究成果:
当事者・家族・実務者の多様な声を基に、非自発的入院に関する制度的・倫理的課題を質的・量的に明らかにした。法学・社会学との学際的検討および国際比較により、日本の制度の構造的特性と改善可能性を科学的に提示した。
(2) 学術的・国際的・社会的意義:
非自発的入院制度を多層的に捉え、政策と実務をつなぐ基盤的知見を提供。国際比較では運用実態まで踏み込み、日本の課題を相対化。PPIを導入し、当事者参画型研究として学術的にも国際的にも高い意義を持つ。
臨床的観点からの成果
(1) 研究成果:
非自発的入院に関する臨床現場での困難を整理し、意思決定支援や家族関与、長期入院の要因等を実証的に可視化。多職種・多視点の調査により、現行制度下での支援の限界と必要な臨床対応の方向性を明確にした。
(2) 学術的・国際的・社会的意義:
現場の声に基づく知見は、実践的な指針として活用可能であり、ケアの質向上に資する。国際比較により臨床運用の差異を浮き彫りにし、制度と実践の接続を促す。人権を尊重した医療実践の基盤となる研究である。
ガイドライン等の開発
ガイドライン等の開発は行っていない。
その他行政的観点からの成果
本研究は、精神障害にも対応した地域包括ケア体制の整備に向け、非自発的入院制度の課題と改善の方向性を多角的に明らかにし、政策検討の基盤資料を提供した。令和6年8月7日の「第2回 精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会」では、本研究の成果が資料として活用され、厚生労働行政における制度見直し議論に直接的に貢献した実績がある。
その他のインパクト
本研究では、当事者・家族・複数の職能団体が研究計画段階から参画しており、今後の社会的対話や制度改正に向けた共通基盤の構築に貢献している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-08-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
202417009Z