医療観察法における退院後支援に資する研究

文献情報

文献番号
202417007A
報告書区分
総括
研究課題名
医療観察法における退院後支援に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23GC1015
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
平林 直次(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 司法精神診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 久保 彩子(上間 彩子)(国立病院機構 琉球病院 精神科)
  • 村杉 謙次(独立行政法人国立病院機構 小諸高原病院 精神科)
  • 壁屋 康洋(独立行政法人国立病院機構 榊原病院)
  • 賀古 勇輝(北海道大学 北海道大学病院附属司法精神医療センター)
  • 竹田 康二(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 司法精神診療部)
  • 柏木 宏子(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 司法精神診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
10,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の主たる目的は、通院処遇に関する実現可能なモニタリングシステムの提案、通院処遇の現状や課題の把握とその解決策の提示、入院対象者の類型化に基づくクリティカルパスの提示や指定入院医療機関の医療の均てん化、医療観察法医療に関する人材養成の促進である。
研究方法
本研究の研究期間は2年間である。下記、6つの分担研究班を組織し、通院処遇グループと入院処遇グループに分け、それぞれの連携を深めながら研究を進めた。
通院処遇においては、重度精神疾患標準的治療法確立事業により構築された入院データベースのノウハウを活かし、通院処遇モニタリングシステムを開発する(竹田班)。また、現状の通院処遇の課題を把握するためのアンケート調査および構造化面接、複雑事例の個別調査を実施する(久保班)(柏木班)。
入院処遇においては、入院データベースを用いて退院者および指定入院医療機関35施設の施設単位調査の結果から、入院期間と処遇終了率の施設差とその要因を明らかにする(壁屋班)。さらに施設差の解消のために入院クリティカルパスを作成する(村杉班)。
これらの研究成果を含め、医療観察法関連機関の教育研修ニーズの高い動画ライブラリーを作成してホームページに掲載する(賀古班)。
結果と考察
1) 通院処遇に関する実現可能なモニタリングシステムの提案
全国を調査対象とするWeb上で運用可能な通院処遇モニタリングシステムを構築した。全国12の指定通院医療機関によるデータ収集を試験的に開始した(竹田班)。
2) 通院処遇の現状や課題の把握とその解決策の提示
通院処遇では指定通院医療機関に限らず、医療資源(入所・通所施設、訪問看護ステーション、行政機関の取り組み)などに大きな地域差があり、共通性とともに地域性を考慮した実施が求められる。指定通院医療機関の全国調査の結果、医師の指示を待たずに多職種チームのコメディカルが自立して、特に困難さを感じやすい信頼関係構築および情報共有に関わる支援を積極的に行うことで、一般医療とは違う医療観察法通院ならではの手厚さを支えていることが明らかとなり、その支援は入院処遇から通院処遇および通院処遇終了から一般医療などの移行期に特に手厚さを要していた。ただし、診療報酬外にもかかわらず、労力を要し役割負担は重く、豊富な臨床経験や高い技術が求められていた(久保班)。
指定通院医療機関(計10施設:郡部5施設、都市部5施設)から、困難事例120例について聞き取り調査を実施し、医療資源の地域差を考慮した100以上の困難な状態に対する好実践方法を抽出した(柏木班)。
3) 入院期間短縮に関連する要因の抽出と入院クリティカルパスの作成
医療観察法入院処遇12類型から臨床的必要性の高い類型を絞り、認知症、物質使用障害、統合失調症、気分障害、知的障害、発達障害といった6つの疾患別のクリティカルパスを完成した(村杉班)。平均在院日数の短縮につながる要因として依存症入院医療管理加算、児童・思春期精神科入院医療加算、地元自治体とのネットワーク研修、指定通院事例数といった、病院全体が多様な専門医療に取り組む文化と通院処遇および他の通院機関との交流、上司の支援が抽出され、病院組織全体の運営の重要性が挙げられた。処遇終了率には職場の対人関係、同僚の支援が重要であり、多職種連携の基盤にある対人関係が保たれていることにより、困難な事例にも諦めない医療が提供できることが示唆された(壁屋班)。この点を踏まえ、個別の治療方法よりも、多職種・多機関の連携や協働に焦点を当てクリティカルパスを作成した。
4) 医療観察法医療に関する人材養成の促進および研究成果の普及
全1,777施設を対象にアンケート調査を行い、338施設、指定入院医療機関医療従事者354名からの回答を解析し、時間や人材、経費の確保の困難さなどの理由から、教育・研修の現状が不十分であることが明らかとなった。これを解消するためにオンデマンドでの研修に活用できる動画のライブラリー(24本)を作成し、国立精神・神経医療研究センターのホームページで公開する準備を整えた。また本研究班で作成された疾患別クリティカルパスの臨床使用率を高める動画も作成した(賀古班)。
結論
通院処遇モニタリングシステムを指定通院医療機関に広く展開し、入院データベースと連結し、入院から通院まで全経過を追跡できるプラットフォームを構築し事業化が必要である。
類型化に基づくクリティカルパスを反映した入院処遇ガイドライン改訂が必要である。また医療観察法医療により開発・導入・発展してきた同医療に特徴的な医療を踏まえ、通院処遇ガイドライン改訂に着手する必要がある。
研修に活用できる動画のライブラリーと研修モデルが作成されたが、維持・運営するための事業化が必要である。

公開日・更新日

公開日
2025-07-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-07-09
更新日
-

文献情報

文献番号
202417007B
報告書区分
総合
研究課題名
医療観察法における退院後支援に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23GC1015
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
平林 直次(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 司法精神診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 久保 彩子(上間 彩子)(国立病院機構琉球病院 精神科)
  • 村杉 謙次(独立行政法人国立病院機構 小諸高原病院 精神科)
  • 壁屋 康洋(独立行政法人国立病院機構 榊原病院)
  • 賀古 勇輝(北海道大学 北海道大学病院附属司法精神医療センター)
  • 竹田 康二(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 司法精神診療部)
  • 柏木 宏子(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 司法精神診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の主たる目的は、通院処遇に関する実現可能なモニタリングシステムの提案、通院処遇の現状や課題の把握とその解決策の提示、入院対象者の類型化に基づくクリティカルパスの提示や指定入院医療機関の医療の均てん化、医療観察法医療に関する人材養成の促進である。
研究方法
 下記、6つの分担研究班を組織する。各分担研究班の役割の明確化、連携強化を目的として研究班会議を開催し研究を進める。なお、研究の実施に当たっては倫理委員会の承認を得ることとする。
 通院処遇においては、重度精神疾患標準的治療法確立事業により構築された入院データベースのノウハウを活かし、通院処遇モニタリングシステムを開発する(竹田班)。また、現状の通院処遇の課題を把握するためのアンケート調査および構造化面接、複雑事例の個別調査を実施する(久保班)(柏木班)。入院処遇においては、入院データベースを用いて退院者および指定入院医療機関35施設の施設単位調査の結果から、入院期間と処遇終了率の施設差とその要因を明らかにする(壁屋班)。さらに施設差の解消のために入院クリティカルパスを作成する(村杉班)。これらの研究成果を含め、医療観察法関連機関の教育研修ニーズの高い動画ライブラリーを作成してホームページに掲載する(賀古班)。
結果と考察
1) 通院処遇
 膨大な通院医療機関からデータ収集するため、Electronic Data Capture (EDC)画面を基に通院処遇モニタリングシステムを開発し、クラウドサーバによるデータ保存・管理の方針とした。また小規模ながら試験的運用を行った。
通院処遇の実態調査では、危機介入だけではなく、未然防止の観点から信頼関係の構築や情報共有が手厚く行われ、精神保健福祉士や看護師が大きな役割を果たしていたが、診療報酬請求の対象外であり、経済的裏付けの必要性が認められた。複雑事例のプロファイルは再他害行為を含む問題行動や精神保健福祉法による入院であり、医療観察法入院処遇退院時の社会復帰関連指標が高値であることが明らかとなった。都市部では比較的豊富な医療保健福祉資源を活用して多機関による専門的かつ多様な医療・保健・福祉サービスが提供される一方、郡部では指定通院医療機関が中心となり集約的かつ包括的なサービス提供を行う傾向が認められた。また、処遇終了後5年間の重大な再他害行為の累積発生率は1.92%と低値にとどまっていた。
2) 入院処遇
 入院処遇では、平均在院日数と関連する要因は、病院全体の機能、医療観察法にかかわる通院の機能と地域機関との連携であった。この点も踏まえ、医療観察法入院処遇12類型から臨床的必要性の高い類型を絞り、疾病及び関連保健問題の国際統計分類のF2に分類される統合失調症圏を想定した共通クリティカルパスと、主診断もしくは副診断としての他の疾患(F0:器質性精神障害、F1:物質使用障害、F3:気分障害、F7:知的障害、F8:発達障害、F9:行動・情緒障害)を想定した疾患別コ・パスを作成した。
 1) 、2)の研究成果を含め、研修に活用できる動画のライブラリーと研修モデルを作成した。25名以上の講師による50本以上から成る動画ライブラリーを構築し、国立精神・神経医療センターのYouTubeチャンネル®において順次公開した。研修モデルとしては、(1)指定入院医療機関の新入職員向け、(2)指定入院医療機関の継続勤務者向け、(3)指定通院医療機関(病院・診療所)の勤務者向け、(4)地域の支援者(訪問看護ステーション、相談支援事業所、就労支援事業所、グループホーム)向けの4種類を作成し、国立精神・神経医療研究センターのホームページに掲載した。
結論
 本研究により開発された通院処遇モリタリングシステムを指定通院医療機関に広く展開するとともに、入院データベースと連結して入院から通院まで一貫したモニタリング体制を構築する必要がある。また、安定的運営のために事業化が望まれる。
 通院処遇における医療は多職種チームによる手厚い医療により支えられているが、中でも精神保健福祉士や看護師による信頼関係の構築、精神保健福祉士による情報共有が重要である。しかし、診療報酬の対象とはされておらず、今後、人件費に相当する財源確保が必要である。
 平均在院日数を短縮するためには、病院全体の機能を高め、指定通院医療機関の指定を受け、地域の関連機関との連携を深める必要がある。
 医療観察法入院処遇12類型から臨床的必要性の高い類型を絞り、作成されたクリティカルパスを反映して、入院処遇ガイドラインを改訂する必要がある。 
 本研究において構築された動画や資料のライブラリーや、研修モデルを用いて医療観察法関連の人材養成研修を推進する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2025-07-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-07-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202417007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
医療観察法通院処遇の実態を把握する目的で、通院処遇モニタリングシステムの基本設計を終え、試験運用を開始した。今後、既存の入院データベースとの連結により、入院から通院まで一貫した基礎的データの収集が可能となる。このような全国規模のデータベースは国内外でもまれであり、学術的にも国際的にも大きな成果が期待される。医療観察法医療は国費を用いた強制医療であり、その全体像を把握することの社会的意義は大きい。
臨床的観点からの成果
医師の指示を待たずに多職種チームのコメディカルが自立して、対象者との信頼関係構築および関係機関との情報共有を積極的に行って、医療観察法通院医療を支えている実態が明らかとなった。また、医療資源の地域差(都市部と郡部)を考慮した100以上の困難な状態に対する好実践を抽出した。この明らかとなった臨床実践を広く普及することにより、指定医療機関の診療技術の向上が期待される。
ガイドライン等の開発
指定入院医療機関の平均在院日数と関連する要因は、病院全体の機能、医療観察法にかかわる通院の機能、地域機関との連携であった。このことを踏まえ、医療観察法入院処遇12類型のうち、臨床的必要性から類型を絞り、クリティカルパス案を作成した。今後、臨床試用を通して効果検証し、厚労省の示した入院処遇ガイドラインの改訂を提案する予定である。
その他行政的観点からの成果
厚生労働省および全国の指定入院医療機関35施設に対して年2回、当該施設の入院医療に関するパフォーマンス指標(入院期間、薬物療法、行動制限の実施状況、転帰など)がフィードバックされている。本研究の成果である通院処遇モニタリングが運用されて、入院医療に加え退院後の通院医療の経過や転帰を把握することにより、厚生労働行政の基礎的資料、指定医療機関の医療の向上に役立つことが期待される。
その他のインパクト
特記すべき事なし。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-07-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
202417007Z