児童・思春期精神医療における多職種連携の推進マニュアル作成に関する研究

文献情報

文献番号
202417005A
報告書区分
総括
研究課題名
児童・思春期精神医療における多職種連携の推進マニュアル作成に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23GC1013
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
宇佐美 政英(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター国府台病院 児童精神科 / 子どものこころ総合診療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 原田 謙(長野県立 こころの医療センター駒ヶ根)
  • 奥野 正景(医療法人サヂカム会 三国丘病院 精神科)
  • 大重 耕三(地方独立行政法人 岡山県精神科医療センター)
  • 田崎 琴瑛(板垣 琴瑛)(国立国際医療研究センター国府台病院 心理指導室)
  • 山本 啓太(国立国際医療研究センター国府台病院 ソーシャルワーク室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
3,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
児童・思春期精神医療における多職種連携の実態を明らかにし、その質の向上と効率化を図ることを目的とする。
研究方法
奥野班: 児童精神科診療所におけるコメディカル(精神保健福祉士、公認心理師など)の配置状況を調査し、医師の負担軽減と多職種連携の効率化を目指す。
大重班: 児童精神科専門病棟を持つ医療機関における初診待機期間の実態を調査し、多職種がどのように関与しているかを把握する。
原田班: 児童・思春期精神科入院治療における多職種の診療実態を明らかにし、専門性を活かした効率的な連携システムの構築を目指す。
山本班: 多職種による児童・思春期精神科入院治療の有効性を評価し、効果的な治療アプローチを推進することを目的としている。
板垣班: 児童・思春期精神医療における多職種連携推進マニュアル(ドラフト版)を作成し、各職種の役割と連携手順を明確にする。
結果と考察
奥野班は、児童思春期支援指導加算を取得している診療所は13施設(35%)、児童思春期専門管理加算を取得している診療所は10施設(27%)であり、いずれの加算も取得していない施設は20施設(54%)に上った。初診患者は1施設あたり平均28.9名/月で、そのうち71.3%が20歳未満、61.9%が16歳未満であった。コメディカル職種の配置状況としては、公認心理師が平均1.38名、精神保健福祉士が1.05名、看護師が1.51名、医師が1.43名、作業療法士が0.38名であった。また、16施設(43%)がアウトリーチを実施しており、公認心理師による家庭訪問、学校訪問、電話支援など多岐にわたる活動が確認された。
大重班は、児童相談所と教育機関は、最も頻繁に連携が行われ、かつ最も重要な連携先と認識されていた(それぞれ83.9%、74.2%)。しかし同時に、連携に最も困難を感じている相手でもあり(79%、75.8%)、その理由としては、アセスメントや介入の方法論に関する共通理解の不足、権限の不一致、文化的なギャップなどが挙げられた。さらに、5歳児健診後の支援体制が未整備であることを懸念し、紹介増加への対応が困難との声も多数見られた。
原田班の多職種257名の調査では、各業務において「必須」とされる職種が業務ごとに明確に異なり、例えば集団療法においては看護師と心理職がともに90%以上の支持を得ていた一方、親の心理教育では心理職が96.9%と最も高かった。初診予約や転院調整には精神保健福祉士の93.0%、要保護児童対策協議会には精神保健福祉士と医師が80%以上の関与を示した。これにより、業務の多くがコメディカル職種によって遂行可能であり、医師は専門的判断や監督的役割に集中すべきという、タスクシフト推進の実証的根拠が得られた。
山本班による当事者評価調査では、本人による満足度は平均6.3点(10点満点)、保護者は8.1点であり、主治医や看護師、公認心理師の関与が肯定的に評価された。特に主治医への信頼度は本人4.6、保護者4.7(5点満点)と高く、また看護師・心理師についても同様に評価が高かった。一方、本人と保護者間で支援の受け止め方に差異があることも示され、今後の個別化支援の必要性が浮かび上がった。
板垣班は、上記4班の成果を詳細に統合し、理念編・実践編・職種別編からなる全30ページのマニュアル(ドラフト版)を策定した。理念編では「子ども中心の支援」を共通価値観として掲げ、院内連携と地域連携を明確に区別。実践編では、初診予約から診療、退院支援、地域移行に至るまでの各ステップにおける多職種の役割と手順を明記し、具体的な連携モデルを図解とともに示した。職種別編では、医師、公認心理師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士に対して「必須業務」「推奨業務」「共有可能業務」の分類を行い、原田班の業務実態調査結果を反映した内容とした。これにより、現場での実装が可能な実践的ガイドラインとしての完成度が確保された。
結論
本研究は、児童・思春期精神医療における多職種連携の質の向上と標準化を目的として、外来・入院・地域移行の各場面における職種間の役割と連携の実態を明らかにし、現場で活用可能な「多職種連携推進マニュアル(ドラフト版)」を策定した。全国の診療所・病院・退院患者・多職種への調査を通じて、業務分担の実情、医師負担軽減の方策、外部機関連携の課題、支援の当事者評価などを包括的に検討した。その結果、各職種の機能が明確化され、タスクシフトの必要性と有効性が示された。これらの知見を反映し、診療過程全体をカバーするマニュアル(ドラフト版)を完成させ、今後の普及と研修に資する実装基盤を構築した。

公開日・更新日

公開日
2025-07-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2025-07-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
202417005Z